ダイバーシティ&インクルージョンとは 具体例や企業の導入事例を解説

肩を組んで遠くを見る男女グループ

Photo by Duy Pham on Unsplash

ダイバーシティ&インクルージョンの推進が著しい。多様性や多様な価値観は、いまやグローバルスタンダードになろうとしている。そのためにはあらゆる属性を持つ人々が取り残されない社会の構築が必要だ。この考えが重視されるようになった背景や、社会的な取り組みについて解説する。

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2022.08.30
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ダイバーシティ&インクルージョンとは

ダイバーシティ&インクルージョンとは、それぞれ、多様性(ダイバーシティ)と包括(インクルージョン)という意味である。

社会に生きる人々は異なる属性を持っている。しかし属性を社会的立場や職業、行動を制限する要素にしてはならない。個々の多様な属性を理解し、尊重した上で、それぞれの能力に応じた活躍の場をもうけるべきである。それがダイバーシティ&インクルージョンの考えかただ。

属性にはじつにさまざまな種類がある。人種、国籍、性別、年齢といった外面的な種類。宗教、ライフスタイル、職歴、価値観、性的傾向など内面的な種類。まさに「多様」と言えるだろう。ダイバーシティ&インクルージョンでは、この多様性への理解が何よりも必要となる。

そう昔ではない過去、いわゆるマイノリティに属する人々が理不尽に差別される問題があった。いまでも完全に解決されているとは言いがたい。しかし、国や企業をはじめとしたダイバーシティ&インクルージョンの啓発や取り組みが功を奏し、グローバルなレベルで理解と受け入れが進みつつある。

具体的な取り組みとは

いざ多様性を包括しようとしても、意識するだけではダイバーシティ&インクルージョンは進みにくい。具体的な取り組みとしては、企業における環境整備やアンコンシャス・バイアスへの啓発が代表的だ。

属性や働きかたへの多様性に対応できる環境整備

女性・障がい者の活躍、外国人の雇用、経験ある高齢者の活用、LGBTへの理解。これらの推進をおこなうことにより、属性の多様性を活かしやすくなる。

また、属性だけではなく、働きやすい環境を整えることも「働きかたの多様性を包括する」という一面で大きな効果が期待できる。

たとえば育児・介護・傷病など各種休暇と業務の両立、出社しにくい個々の事情に対応できるリモートワークの導入などが一例として挙げられるだろう。

アンコンシャス・バイアスについての理解

アンコンシャス・バイアスとは「無意識の偏見」を指す。人は誰しも無意識に偏見を抱いている可能性がある。それは善意や悪意からのものではなく、経験や見聞から発生する脳の思い込みだ。企業をはじめとした集団において悪影響を及ぼしかねないものである。(※1)

みずからに内在するアンコンシャス・バイアスを理解したうえで、それを他人に押しつけないためにはどうするべきかの啓発も、ダイバーシティ&インクルージョンにおける重要な取り組みだ。異なる属性や環境を差別するのではなく、多様性の一種としての認識を持つことによって、アンコンシャス・バイアスのコントロールが可能になる。

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ダイバーシティ&インクルージョンが重視されるようになった背景

現代においてダイバーシティ&インクルージョンが重視される理由には複数の背景がある。多方面の要素が重なり合っているのが特徴的だ。

少子高齢化による労働人口の減少

先進国の諸国では少子高齢化が著しい。それにともない、経済をになう労働人口の減少問題に直面している。多様性を包括し、受け入れることにより、多彩な労働力の確保が期待できる。

グローバリズムの浸透

TPPを筆頭に、国際取引ルールが整備されはじめた。経済や人々の生活にグローバリズムが浸透し、広い属性やニーズを考慮した上で対応する必要性が生じている。すでに欧米の企業の多くは、性的マイノリティへの対応を取引企業への評価基準に含むまでに進展している。

多様化した価値観への理解

属性・価値観の多様化や、その表明が増えている。労働者側の意識の変化や多様化は、人材管理側にも変化をもたらした。人材の活用において、多様化した価値観への理解と対応は必須ともいえる時代になっている。

SDGsの達成との親和性

SDGs(持続可能な開発目標)の目的は「誰ひとり取り残されず、持続可能で多様性を包括する世界」だ。まさにダイバーシティ&インクルージョンの本質とマッチしている。SDGsへの取り組みがスタンダードになりつつあるいま、ダイバーシティ&インクルージョンも同様にスタンダードとして浸透しつつある。

ダイバーシティ&インクルージョンを推進するメリット

ダイバーシティ&インクルージョンの推進は、多様性を持った労働者だけではなく企業にとってもメリットがある。

優秀な人材の確保

少子高齢化による労働力の問題が深刻になったいま、ダイバーシティ&インクルージョンの推進は効果的だ。古い価値観では取りこぼされがちだった優秀な人材を、多様性の包括によって見出しやすくなる。

とくに女性や障がい者、職務経験のある高齢者など、従来では企業で満足のいく働きかたがしにくかった属性を持つ人々にもスポットが当てられる。彼らのなかに存在する、優秀な人材の確保が期待できるようになるだろう。

離職率の低下

優秀な人材の確保と重なる部分もあるが、離職率の低下、定着率の向上も企業にとって重要な課題であり、改善が見られれば大きな成果になる。多様性を包括し、働きやすい環境であれば離職率の低下・定着率の向上ともに期待できるだろう。

2019年、厚生労働省は複数の企業にダイバーシティへの取り組みについてアンケートを採り、「令和元年度 厚生労働省委託事業 職場におけるダイバーシティ推進事業 報告書」を発表した。

アンケート結果では、ダイバーシティを意識したきっかけに「従業員が能力を発揮できる職場環境を準備する必要がある」という考えを持つ企業の声もピックアップされており(※2)、人材と職場環境のマッチングを重要視する傾向が見られる。

従業員のモチベーション向上

これから雇用する人々の多様性を包括する考えかたや環境が浸透することによって、従来から働いていた従業員たちも参加意識を持つようになる。いわば「自分ごと」としてとらえるようになるのだ。

自分ごととしてとらえるようになった結果、自分自身も多様性のなかの個であり、企業側が大切にする人材のひとりであるという自覚が生まれる。必要とされる事実に誇りを感じ、同時に多様性を持つ人々と好ましい関係で業務にトライできるだろう。

画一化を打ち破る発想力の獲得

人材の画一化は、発想力も画一化されがちである。企業力にも大きく影響する。ダイバーシティ&インクルージョンの推進で多彩な人材がかかわることにより、多角的な方面からの発想が期待できる。

女性ならでは、障がい者ならでは、外国籍ならでは、シニアならでは…それぞれの視点で新たな発想をすることにより、なかには企業として大きな成長や、新たな事業の創出につながるものもあるかもしれない。それほど多様性の包括は可能性を秘めているのだ。

ダイバーシティ&インクルージョンの導入方法

企業におけるダイバーシティ&インクルージョンの重要性とメリットはいまや自明の理だ。では実際、どのようなフローでのアクションが望ましいだろうか。ここでは経済産業省の「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」(※3)を参考に、ダイバーシティ&インクルージョンの導入方法について紹介する。

経営戦略への組み込み

KPI・ロードマップの作成とともに、経営トップが自らの責任において経営戦略としてリードする。

推進体制の構築

経営トップが推進に責任を持ち、経営レベルでの体制を構築する。グループ企業であれば関係会社との役割分担を決め、事業部門には主体的な実践をうながす。また、経営幹部の評価指針にはダイバーシティの評価項目を反映させる。

ガバナンスの改革

取締役会におけるジェンダーや国際面の多様性を確保し、取締役会がダイバーシティ経営の適切な監督をする。場合によっては取締役会の構成員の見直しもあり得る。

全社的な環境・ルールの整備

属性にかかわらず、誰もが活躍できるよう、人事制度の見直しをおこなう。

管理職の行動・意識改革

従業員の多様性を活用できるマネージャーを育成する。ダイバーシティの意義の理解、多様な人材のマネジメントの促進につなげる。

従業員の行動・意識改革

ライフスタイルや価値観が異なる人材が活躍できるよう、多様性のあるキャリアパスを構築する。個人のキャリアに対するオーナーシップ育成を含む。

労働市場・資本市場への情報開示と対話

経営戦略としてのダイバーシティ構築の内容・成果などの情報を積極的に発信する。企業価値向上のストーリーの明確化、資本市場との対話やエンゲージメントでのコミュニケーションを通し、ジェンダーや国際面を含む多様性についての取り組みをアピールする。

ダイバーシティ&インクルージョンの取り組み事例

ダイバーシティ&インクルージョンに取り組む国際機関や企業はかなりの数にのぼる。その取り組み事例を紹介する。

世界経済フォーラム ツールキットのリリース

2020年、国際機関・世界経済フォーラムは「ダイバーシティ、平等、インクルージョン 4.0ツールキット」を発表した。ベストプラクティス構成への技術や新システム、人間中心のワークフォース・マネージメントなど、幅広い項目に言及している。(※4)

三井住友海上 主要業績指標(KPI)の設定ほか多数

三井住友海上では、経営数値目標としてダイバーシティ&インクルージョンのKPIを設定した。企業全体で社員が働き続けられる仕組みの構築や女性活躍の推進をはじめ、ダイバーシティ&インクルージョンに求められるあらゆるエレメントに前向きに取り組んでいる。

外部評価も非常に高く、数々の賞を受賞している。経営戦略にダイバーシティ&インクルージョンを取り入れたモデルケースのひとつとして参考にされるべきだろう。

JAL(日本航空株式会社) 社内外でのLGBTQ支援活動

JALもダイバーシティ&インクルージョンのあらゆるエレメントに前向きな取り組みをしている。ことに社内外において、LGBTQへの配慮は抜きん出ている。社内では婚姻によって適用される制度を同性同士のパートナーにも適用。2019年には「JAL LGBT ALLYチャーター」を実施した。

2020年10月1日からはアナウンスを「Ladies and gentlemen」からジェンダーニュートラルな文言へ変更している。(※5)世界に名だたるフライト会社の取り組みは、LGBTQへの理解を社内だけではなく社外へも広げ、外部から高い評価を獲得している。

カシオ 外国籍従業員の活躍を積極的に支援

カシオもダイバーシティ&インクルージョンのエレメントに前向きな取り組みをおこなっている。ここでは外国籍従業員の活躍支援にスポットを当てる。企業のグローバル化にしたがい、外国籍従業員への配慮は必須であり、ダイバーシティ&インクルージョンでも重要視されるエレメントである。

カシオでは母国に帰国するための特別休暇(3年ごと)の制定や、食堂で宗教の戒律に触れないための配慮、お祈りのための「プレイヤーズルーム」の設置など、それぞれの文化や宗教を尊重する取り組みを積極的におこなった(※6)。これらの取り組みは、外国籍従業員の離職率の低下や定着率の向上につながっている。

アクセンチュア 世界一の多様性の包括を実現

外資系総合コンサルティング企業のアクセンチュアは、2018年、トムソン・ロイターの「ダイバーシティ&インクルージョン・インデックス」で世界第1位を獲得した。世界でもっとも多様性を受け入れる環境が整っていると評価されたのである。取り組みは多岐にわたり、ダイバーシティ&インクルージョンが求めるエレメントすべてを充実させた。

女性のリード・ディレクターをはじめとした経営陣が多様性を「多文化の文化(culture of cultures)」として歓迎し、職場における男女平等や人材育成、透明性を高めるためのデータ公開など、積極的な取り組みを続けている。

ダイバーシティ&インクルージョンが創出する新たな未来

あらゆる属性を多様性として受け止めて包括するダイバーシティ&インクルージョンは、いまの時代を生きる人々にとってグローバルスタンダードになるべき考えかたと取り組みだ。

企業によっては導入に少なからぬ努力が必要かもしれない。しかし、導入によって優秀な人材との出会いや新たな発想が生まれる可能性を秘めているのもたしかな事実である。

ダイバーシティ経営とは? 日本企業が取り入れるメリットとデメリット

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※掲載している情報は、2022年8月30日時点のものです。

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