ダイバーシティ経営とは、性別や年齢、障害の有無に関わらず、多様な人材を適材適所に活用することを言う。日本企業はまだまだ男女平等とはほど遠い。だが、国内外の投資家は、長期的に持続可能な投資先を探している。就業環境を国際基準に合わせると、企業運営にもいいメリットがありそうだ。
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多様な人材を上手に活かし、さらなる企業発展を目指す「ダイバーシティ経営」。日本では主に、女性や高齢者、障害がある人などが活躍できる会社づくりに焦点が置かれている。
風通しがいい職場環境を整えることは、一筋縄ではいかないところがある。2020年時点で、女性管理職が全体の30パーセントを超えている企業は、日本全国でたったの7.5%。先進国として恥ずかしい数字だ。(※1) 男女雇用機会均等法ができてすでに30余年、いまだに女性は男性と平等な評価がされていないことが数字として表れている。
しかし、これを逆に商機とみなせば、新たなビジネスチャンスを見いだせるかもしれない。
日本は1950年代ごろから終身雇用が当たり前になり、一度就職したら定年するまで勤め上げるのが普通だった。生活は保証されていたものの、年功序列という考え方が根底にあったため、実力があっても上に登れないことはむしろ一般的。泣き寝入りするしかないのが普通だった。
企業というのは大概、似た者同士の集まりだ。だから「みんなと同じ」でいられない特異な人は、差別される傾向にある。しかし、もうそんなことが許される時代ではない。性別や年齢を理由に、キャリア構築を邪魔される必要はどこにもないのだ。
性別に関係なく責任ある立場につけたり、男性も育児休暇を取得したりするのは、外国では至って普通のことだ。例えば、ニュージーランドやベルギーの首相は女性だし、家事や育児に積極的な男性は海の向こうではすでに当たり前。日本ではもてはやされるイクメンは、英語だと「Father」、つまりただの父親だ。男性が子どもの面倒を見るのが特別視されるがあまり、こんな言葉が生まれてしまうほど、日本はまだまだ男女平等ではないということだろうか。
私たちは先進国の一員として、誰もが平等に活躍できる環境づくりをすることが急務だといえる。従業員の多様性を認めて性差による差別をなくし、年齢や障害などに関係なくみんなが安心して働ける職場環境を整備することは、国際社会が求めるSDGsの達成にもつながるのだ。
日本では、外資系や大手企業などが先だってダイバーシティ経営を始めている。たとえば大手IT企業の日本IBMでは、男性が多くなりがちな技術職や営業職に女性を積極的に採用している。それにLGBTQ+の人たちにとって働きやすい環境が整っており、同性パートナーを配偶者と同等に扱ってくれる先進的なシステムもある。
世界170カ国以上で事業を展開している同社では、バックグラウンドにとらわれずにスキル面を重視すれば、採用活動がよりスムーズになるとの理由から、ダイバーシティ経営を推進している。障害者雇用に関しても積極的で、誰にでも広く開かれた会社だと言える。
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日本ではどうも、女性が管理職になるのを歓迎しないところがある。男女のあいだにどのくらい格差あるかを示すジェンダーギャップは、153ヵ国中なんと121位。G7の中では最下位だ。(※2)
誰もが働きやすい職場をつくるには、昇進や昇級において公平な評価をする以外にも、さまざまな方法がある。お茶汲みやコピーを男性にもしてもらうだとか、メイクやスカートを強要しないだとか、やれることは山ほどある。
ダイバーシティ経営では、人それぞれの個性や気持ちを考慮した上で、人材を適所に振り分けることが重要だ。男女平等な社内環境が整えば、国内のみならず国外の投資家にも企業努力をアピールできる材料になる。投資家の約7割は、投資先企業が長期的に存続可能であることを確認するため、女性が活躍しているか否かを投資の判断基準の1つとしている。(※3)
ESG投資に関心がある投資家は、SDGsの達成目標に対しての企業努力に強い関心がある。全社員への教育と、透明性のある客観的な人事考課は、今後の企業活動の拡大のためにも必須だと言えるだろう。
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定年退職したものの、まだまだ働きたい人は星の数ほどいる。内閣府の統計によると約8割の高齢者が、元気なうちは働き続けたいという高い就業意欲をもっている。(※4)
老後の蓄えを少しでも増やしたい人や、社会とつながりを断ちたくない人など、働きたい理由はさまざまある。彼らを採用してニーズを満たせば、いままでの職務経験を活かして即戦力として活躍してもらえる。
国は、定年を迎える年齢を、段階的に70歳に引き上げることを検討している。その経過処置として、企業が自主的に定年を65歳以上に引上げたり、定年後の継続雇用制度の導入をした場合、最大で160万円が支給される助成金制度を用意している。(※5) この制度は2025年を目処に給付率が変更されることになっているので、いますぐ活用しない手はないだろう。
高齢化が進む一方、少子化による影響で若い働き手が不足している。とくに介護業界やサービス業でその傾向は顕著だ。こういった業界を外国人労働者に支えてもらうため、全国各地に日本語学校や研修施設が次々と設けられ、卒業した若者たちがすでに現場で活躍している。
豊かな暮らしを求めて、海外から働きに来る彼らは、軒並み就業意欲が非常に高い。日本語を習得し、こちらの文化に慣れることに対しても意欲的。とくに東南アジアの国々は、若い労働力があり余っていて日本とは真逆な状況だ。国籍にとらわれずに彼らを積極採用すれば、人材確保の悩みを解消でき、持続可能な経営が可能となる。
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日本人はダイレクトな言い方を避け、非言語コミュニケーションを好む傾向がある。空気を読む文化があり、言いたいことをすべて言わなくても通じ合えるからだ。
しかし、年代のかけ離れた人や外国人労働者と一緒に働くなら、曖昧なコミュニケーションは避けたほうが身のためだ。価値観の違う人たちが集まっている環境では「言わなくてもわかるでしょ」は通用しない。きちんと会話しなければ、誤解が生じて業務に支障をきたすだけだ。
言いたいことを伝えるということは、不慣れな日本人にとってはストレスになりかねない。いきなり会話上手になれるわけでもないので、研修で社員を教育して、多様な人材を受け入れる準備を前もってしておいたほうが得策だろう。
男性であるという理由だけで、昇進が約束されてきた人たちからすれば、女性の活躍は脅威でしかない。日本社会はまだまだ男性優位だから、女性の下で働くことに嫌悪を感じる人は大勢いる。
数字ばかり気にしてとりあえず女性に役職を与えると、男性の不満を助長してしまう。まずはトップがリーダーシップをもって意識改革を進めていかなければ、下は変わっていかない。
かといって、トップダウンで無理やり物事を推し進めると、部下は「命令だから従う」という、受け身な考え方になってしまいがちだ。反感を買って孤立してしまう人が出ないよう、誰もが安心して働けるサポート体制をコツコツ築いていくことが期待される。
人材派遣会社のパソナは、女性管理職の割合が約46パーセントと、性別に関係なくキャリアを築けるということで「ダイバーシティ経営企業100選」に選出された。(※6) 男性社員も育児休暇を取れる環境だ。障害者や外国人の雇用についても積極的で、そのノウハウを活かしたコンサルも行っている。
岐阜県中津川市にあるちこり村は、チコリの生産や、地産地消を心がけた食品の販売などをしている企業だ。この地域は、人口減少が続き高齢化が進んでいるため、若者の労働力の確保がなかなか難しい。そこで、地域の特性に合わせて高齢者を積極採用し、いまでは従業員の半数以上が60歳以上。なかには78歳で現役バリバリな方もいるそうだ。(※7) 体の具合や家庭環境を考慮してもらえる環境で、無理なく働ける基盤が整っている。新しい時代の働き方の見本となる企業だ。
※1
女性登用に対する企業の意識調査(2020年)|帝国データバンク
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p200803.pdf
※2
Global Gender Gap Report 2020|World Economic Forum
http://www3.weforum.org/docs/WEF_GGGR_2020.pdf
※3
機関投資家が評価する 企業の女性活躍推進と情報開示|内閣府
http://www.gender.go.jp/policy/mieruka/company/pdf/30esg_research_02.pdf
※4
第1章 高齢化の状況(第2節4)|内閣府
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/zenbun/s1_2_4.html
※5
65歳超雇用推進助成金|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000139692.html
※6
News&Topics|PASONAhttps://www.pasonagroup.co.jp/news/index112.html?itemid=1471&dispmid=798
※7
ちっこりちこ蔵3つの挑戦 Rその先|株式会社サラダコスモ 公式ブログ
https://www.saladcosmo.co.jp/blog/?p=9989
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