第2回 いただきもので生まれた“助け合い”の畑

牛乳パックと卵パックに入った土
やってみよう!小さなサステナブルガーデン

ベルリン在住のイラストレーター・KiKiが、サステナブルな暮らしをつづるコラム。第二回目の今回は、助け合いで成り立つ畑づくりがテーマだ。サステナブルな都市・ベルリンで体験した“循環する出会い”を手がかりに、人と環境にやさしい暮らしのヒントを探る。

KiKi

イラストレーター/コラムニスト

西伊豆の小さな美しい村出身。京都造形芸術大学キャラクターデザイン学科卒業後、同大学マンガ学科研究室にて副手として3年間勤務。その後フリーランスに。2016年夏よりベルリンに移住。例えば、…

2021.10.06

「助け合い」で成り立つサステナブルガーデン

屋外のテーブルに並んだ畑づくりのアイテム

新しく買わない、あるものを工夫して使う、助け合い。

わたしは「サステナブルガーデンの3つのルール」をこう定義している。この3つを意識するだけで、ガーデンだけでなく、日常生活のありとあらゆることが持続可能なかたちで循環しはじめる。

とくに3つ目の「助け合い」が重要だ。できることをそれぞれがギブし合うことで、ひとりではできなかったことがどんどん実現していく。これは、友人の小さな庭を借りて進めていくことで身に染みて実感した。

今回は畑づくりの過程を詳しく説明しながら、その一部始終をご紹介したい。

自然と集まってきた道具で畑づくり

雑草が生え放題の庭の畑

あたり一面を埋め尽くしていた雪もすっかり溶けた4月の初め。自宅の庭には、草花が奔放に繁茂していた。畑づくりをはじめるにあたり、まずは雑草の生えた土の整備からスタートだ。

スコップや手袋などの必要な畑道具一式は庭の主である友人に借りて、一緒におしゃべりをしながら作業をした。楽しくなってきて、小さな畑周りだけでなく、落ち葉でいっぱいになっていた庭全体も掃除。あっという間に、種を植える準備が整った。

整地した庭の畑

想いが“種”となって私の手元に

さて、何を植えようか? 友人はズッキーニ、ルッコラ、トマトなど、昨年育てた野菜から採取れたさまざま種を持ってきてくれた。

ちょうど遊びにきていた友人のボーイフレンドは「毎年、ぼくの家でパプリカの苗を育てているから、大きくなったら持ってくるよ」と言ってくれた。

「わたしは何を植えよう…? そうだ、昨日じゃがいもをスーパーで買ってきたんだ!」と思い出し、ひとつキッチンから持ってきて、土にそっと植えてみた。

まだ畑には他の種を植える余裕がある。「もしかしたら!」と思って、Instagramに「たくさん種を持っていて、誰かにシェアしたいと考えてる人がいたらDMをください」とポストしてみた。

するとある友人から「種をたくさんコレクションしている友人がいるから、紹介したい」とダイレクトメッセージを受け取る。

「ぜひ!」

ベルリンで出会った彼女は、なんと「日本の村がベルリンにもあった」の読者だったのだ。

彼女は「Vol.6 自作コンポストなら材料選びから 愛情芽生える土の育成の一部始終」を読んで、実際にコンポストをつくってくれたそうだ! うれしそうに初めて野菜クズが消えた話をしてくれたときは、わたしの心もハッピーになった。

友人から譲ってもらったという種

小さなコンポストのつくり方をシェアしたら、その情報は循環し、たくさんの種となって自分の手元に戻ってきた。そして種をシェアしてくれた彼女は、今では大切な友人のひとりである。

このサステナブルガーデンでは、さまざまなものが循環して成り立っているが、これはとくにうれしかった持続可能な輪だった。

使ったのは牛乳パックと卵パック 育てたコンポストの土でさっそく育苗

種類ごとに封入された種

友人からたくさんシェアしてもらった種。さっそく、苗になるまで育てる準備を開始する。ここでついに、愛情込めて冬の間に育てたコンポストの土の出番だ!

苗を育てる容器に利用するのは、空の卵パックと牛乳パック。ドイツの卵パックは紙でできており、色合いや質感も温かく、なんだかやさしい気持ちになる。種の名札はイラストの描き損じ画用紙を使った。

卵パックと牛乳パックに入ったコンポストの土

このころ友人やご近所さんに「牛乳パックと卵パックを集めているんです」と話していたら、家を訪ねてくるたびに持参してくれるようになっていた。自分が一生懸命取り組んでいることを周りに話すことは、自然と必要なものが集まってくる魔法の言葉だ。

じつは、いまでも使えきれなかったストックがたくさんある。きっと来年も使うだろうと、捨てずに大切に保管している。

添え木には竹串 パンの袋の留め具も大活躍

牛乳パックの土から芽吹いた野菜

苗が育ってくると、支柱が必要になってきた。そこでキッチンにあった竹串を支えにし、くくりつける輪っかは、パンを買ったときに袋を止めていた針金を使うことに。

針金だけでなく輪ゴムなどをとっておくのは、祖母から学んだ生活の知恵だった。輪ゴムと違い、針金を再利用する機会は少ないが今回は大活躍してくれた。

シェアの文化が根付くベルリン 水やりは道端で拾ったジョウロで

段ボールにぎっしりと詰まった拾いもの

vol.5 街じゅうでアップサイクルが行われるベルリンでは、散歩そのものが宝探しに早変わり」で紹介したように、ベルリンの道端ではさまざまなものを拾える。瓶や植木鉢、コップなど、植物を育てるときに使えそうなものに出会ったら、拾って集めていた。

また近所には近隣の住人たちがつくった「ご自由にお持ち帰りくださいスポット」がある。

ベルリン市内に設置された「ご自由にお持ち帰りくださいスポット」

本、食器、雑貨、服、靴、そのほかなんでもござれだ。ここはまだ使える不用品を持ち寄り、必要な人たちにシェアする場だ。コーヒーマシンや電子レンジ、トースターが置かれていたのを見かけたこともある。畑の水やりで活躍したのは、ここで見つけたカラーリングのかわいいジョウロだ。

このようにとりあえずはじめてみた小さな畑も、一切お金はかからず、助け合いとシェアの力でどんどん必要なものが集まってきて、元気に育っていったのだ。

売ってお金に変えるより、誰かに渡して未来につなぐ

思いは他の誰かへとつながっていく。そして、あたたかな循環が生まれる

以上のような話を紹介すると、たくさんいいものを拾ったり、友人たちに恵まれていたり、ただ運がいいだけなのではないかと言われることがある。いつも助けてくれる友人たちには、本当に感謝している。しかし必要なものが集まってくるのには、そのほかにもきちんと理由があると思っている。

それは、サステナブルガーデンの3つ目のルール「助け合い」を重視して生活していることだ。

たとえば、まだ使える不要なものをはじめ、道端で見つけたものたち、多めにいただいた食材たち。「これはあの人にあげたら喜んでもらえそう! あれは、あの人が持っていたほうがいい気がする」と思い浮かんだら、その人に届けるようにしている。わたし自身も、シェアの循環が生まれるきっかけをつくるような生活を心がけているのだ。

もちろんベルリンにも、日本のように中古品を揃えたお店やフリマサービスもある。しかしベルリンに5年住んで感じることは、不用品を売ってお金に変えることよりも、必要な人に届けることのほうを重視している人が多いということ。

その理由は、その場ですぐにお金に替えるよりも、必要な人に届けた方が、その空いたスペースに自分が必要だと感じていたものが巡り巡ってやってくるということを、なんとなくみんな知っているからのような気がする。そして、そのほうが自分の心も温かくなる。

自分のところに必要以上にモノを留めておかず、モノが生かされる場所や人を選んで届ける。

これはドイツだからとか、外国に住んでいるからできることではなく、日本でも世界のどこでも、今日から簡単にできることだ。

そうすることで「サステナブルガーデン」だけでなく、実は日常生活を送るうえでも「新しいもの」を買う必要性があまりない、ということに気がつく。すでにこの世の中には、充分なモノで溢れているのだ。

もしあなたが何か不要になったものを捨てようと思ったときは、周りに誰か必要としている人がいないか、捨てる前に思い浮かべてみてほしい。

それをシェアしていくことであなたも、自分に必要なものが自然と巡ってくる、そして新しいものを買う必要がないシンプルでサステナブルな生活をはじめるきっかけになるだろう。

※掲載している情報は、2021年10月6日時点のものです。

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