Photo by KiKI
ベルリン在住のイラストレーター・KiKiが、サステナブルな暮らしをつづるコラム。もらいものや拾いものを集めて始めたサステナブルガーデンにも、収穫に時期がやってきた。草むしりもせず、化学肥料も一切使わない。自然の力でのびのびと育った野菜を前にして、KiKiが学んだ人生の教訓とは?
KiKi
イラストレーター/コラムニスト
西伊豆の小さな美しい村出身。京都造形芸術大学キャラクターデザイン学科卒業後、同大学マンガ学科研究室にて副手として3年間勤務。その後フリーランスに。2016年夏よりベルリンに移住。例えば、…
「すだちの香り」で肌と心が喜ぶ 和柑橘の魅力と風土への慈しみあふれるオイル
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友人の庭で取り組んでいた「サステナブルガーデン」も、収穫の夏を迎えた。
連載第1回目に「難しいことを考えず、自然の力を信じてとりあえずやってみよう」と書いた。わたしが小さな頃、西伊豆の小さな村で、植物は人の手を加えなくても、たくましくコミュニティを形成し、勝手に育っていく姿を身近で見ていたからだ。
「新しく買わない・あるものを工夫して使う・助け合い」というサステナブルなルールに加え、自然の力を信じて、伸び伸びと自由に野菜たちが育つ畑づくりをおこなっていった。
ただ、毎日水をあげ、思う存分太陽の光を浴びる野菜たちを見守っていただけ。最初は添え木もしていたが、成長してきて窮屈そうに見えたら、添え木からも解放してあげた。雑草も、そのまま放置。せっかくの生命、摘み取ってしまうという思考は人間のただの都合で、植物たちはお互いに仲良くしてくれるかもしれない。
そうして迎えた、2021年の8月。土も見えなくくらい、あたり一面緑で覆われていた。
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連載第2回目「いただきもので生まれた”助け合い”の畑」に、4月当初の種や苗を植える前の畑の写真がある。ぜひ見比べてみてほしい。
整理整頓された畑よりも生き生きとしていて、本当に美しい光景ではないだろうか。まるで小さなジャングルのようだ。
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ここで、美しい小さなジャングルに育った野菜たちを紹介していく。
上の写真に写っている1本のツル。葉っぱたちをかき分けて、根元をのぞいてみると……
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じゃがいもが顔を出した。そうだ、4月にスーパーで買ったじゃがいもを1つだけ植えたのだ。それが無事発芽し、ここまで大きくなっていた。
庭の持ち主の友人が「これは親(植えたもとのじゃがいも)じゃないと思うよ!」と言った。さらに掘り進めると、なんと合計10個出てきた!
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次々と土の中から出てくる様子を見て、じゃがいもの生命力の強さに感動した。
さらに茂みをかき分けると、赤いものが見える。
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この庭の主である友人のボーイフレンドが持ってきてくれた、パプリカたちだ。点々と茂みに隠れている様子が、赤い帽子を被った小人のようだった。
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庭の主である友人がいつの間にか追加で植えていたトマトも、ワイルドに伸びる葉っぱの後ろに、たくましく成長していた。
写真ではわかりにくいかもしれないが、実はところどころルッコラが生えている。
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誰もルッコラを植えた覚えはなく、どうしてだろう……と考えていると、友人が「あ! 2年前くらいに植えたかも」とつぶやいた。
枯れ果てた雑草を取ったのは春のこと。そのとき畑をきれいにしたのだが、土の中にまだ植物の生命の源が残っていたのだ。
ルッコラだけでなく、植えた覚えのないネギも生えていた。小さなジャングルを探検すると、予想外な野菜に出会える。
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自然の力を信じて、のびのびと自由に野菜たちが育つ畑づくりをしてみたら、そこは何が生まれるかわからない魔法の畑になっていたのだった。
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前回の連載第3回「ベルリンで畑づくり ”とりあえずやってみよう”が教えてくれたこと」で紹介した、ロックダウン中にルームメイトが共有スペースである中庭につくった「みんなの畑」。
こちらも夏を迎え、木の枠から溢れそうなほどみんな元気に育っていた。あれから住民の誰かが持ってきた大きなプランターや、赤いバケツも仲間入りしている。
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お花も野菜も、住民たちが思い思いに自由に植えていった空間。こちらも計算されていない植物たちの並びと成長が、生き生きとしていて、力強く、そしてとても美しかった。
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畑でじゃがいもとパプリカ、トマト、ネギを収穫しながら、友人と何をつくろうかと話した。ここはやはり、野菜が主役になれるカレーが一番いいのではないだろうか。
友人に「ジャパニーズカレー」の話をすると、興味津々だった。わたしは早速キッチンに立ち、庭を提供してくれた友人と、元気に育ってくれた野菜たちに感謝の気持ちを込めてカレーをつくりはじめる。
ベルリンに来てから、ここで買える食材で日本食を再現することにハマっている。もちろん少し遠いところにあるアジアンスーパーマーケットに行けば、輸入品の日本の食材を購入できるが、日本で購入する倍の値段だ。
ないのなら、あるものを使って、工夫して再現しよう。日本のカレーをつくるときは、ネットの記事やYouTubeで調べた結果、カレールーの代わりにカレー粉、バター、ケチャップ、バーベキューソース、野菜ブイヨン、野菜ジュースを使用している。お肉の代わりに大豆ミートも入れてみた。
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これで小さな頃から慣れ親しんだ「日本のカレー」になるのだから、はじめてつくったときは味の再現性に感動した。添加物がたくさん入ったルーを使うよりも、自分自身でなにを使っているか、目で見て確認しながらつくれたので、さらに安心だ。
サステナブルガーデンも、料理も、じつは「便利なもの」が近くにないほうが、新しいアイディアが豊富に生まれ、結果、豊かになっていく気がする。
そんな話をしながら、友人とジャパニーズカレーを食べると、「生まれてはじめて食べたけど、とてもおいしい!」と、とても喜んでくれた。
その言葉と、口の中で広がる自分たちで育てた野菜たちの風味豊かな味で、わたしは心からハッピーになれた。
草むしりもしなければ、もちろん化学肥料も一切なし。自然の力を信じて、太陽の光と水だけで、これだけ自由にのびのびと野菜たちは育ってくれた。
それはきっと野菜たちだけでなく、わたしたち人間も一緒なのではないだろうか。周りにあるものを無駄に排除せず協力し合い、便利なものに頼りすぎず、知識を得て自分の頭で考える。そして、わたしたち自身も自然の力を信じて、太陽の光を浴び、純粋で健康的な食事をとる。自分に嘘をつかず、誰にもとらわれずに、自分の意思で、のびのびと素直に生きる。
もちろん人間社会は複雑で、そんなに単純にできることばかりではないと思う。だからこそ、野菜たちが教えてくれたシンプルで大切なことを、わたしたちは忘れがちなのだ。
今年の夏、野菜たちの成長をそばで見守って、自分をもっと大切にすることの重要さに気づいた。
「野菜を育てる」と言葉では言うけれど、野菜たちがたくましく成長する姿から多くのことを学んだわたしは、「野菜に育ててもらっている」と表現したほうが正しいのではないかとも感じた。
サステナブルガーデンの野菜たちのように健康的に生きていくために、まずは食べるものに気をつけ、太陽の光をよく浴びる習慣をつけ、そして自分に嘘をつく回数を減らしていこうと思った。
秋になり、冬になり、畑の季節はもうおしまい。来年はまた違ったかたちで「サステナブルガーデン」に取り組めないか、こっそり計画中だ。まだまだ野菜先生から学ぶことは、たくさんあるはずだ。
また来年の春、新しい「サステナブルガーデン」から、多くのことを学ぶ機会を楽しみにしている。
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