ベルリンでは、本当の意味での「良いもの」を提供する「Baldon(バルドン)」が営業している。POP-UPで始まって以来にぎわいの絶えないレストランだ。Baldonのオーナーとキッチン責任者であるセシリア・バルシュッスさんに、オープン当時の想いやコロナ禍で考えたことなどを伺った。
宮沢香奈(Kana Miyazawa)
フリーランスライター/コラムニスト/PR
長野県生まれ。文化服装学院卒業。 セレクトショップのプレス、ブランドディレクターを経たのち、フリーランスでPR事業をスタートし、ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積…
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Baldonでは、季節の旬な野菜を使ったメニューに定評があり、日替わりランチに関しては完売してしまうこともよくあるほど人気だ。
毎日違うメニューを提供している理由は、レフトオーバーした食材(余った食材)を翌日のランチメニューに使用できるように考案し、ゼロウエストを目指しているから。週替わりメニューにしてしまうと1日の客数が読めないランチでは、どうしても無駄が出てしまうのだと言う。
Photo by Angela Simi
季節の野菜と魚を使ったメニュー。食器は同じく「Lobe Block」にアトリエを構える「R.EH」のものを使用している
地産地消スタイルを貫いている飲食店の多いドイツに対して、仕入先を限定しないBaldon流スタイルにも注目したい。
野菜と肉類は近隣の個人経営の農場と直接取引し、魚は北欧やフランスから仕入れ、スパイスは知り合いから情報を得たり、故郷へ帰省している友人がいれば買ってきてもらったりしている。
「できることならすべてを近隣の農場から仕入れたいと思っていますが、ドイツ国内だけで食材を賄うことは難しいです。例えば、レモンはイタリアから仕入れていますが、その方が良質なものを手に入れることができるのです」
Photo by Angela Simi
オープンスタイルのキッチン。若いスタッフが中心なのも「Baldon」の特徴
セシリアさんは、近隣の農場ヘは自ら出向き、デリバリーを利用していない。さらに、信頼関係を築いた農場から、そこが信頼している他の農場を紹介してもらい、ローカルファームとのまさに「コミュニティー」を築いている。とことん食材にこだわりを持つ一方で100%オーガニックにはこだわっていないという。
「残念ながら、ドイツだけに限らず、オーガニックという言葉が世界的に浸透し過ぎて、とても広い範囲の意味を持ってしまっていると思います。例えば、Lidl(ドイツの大手スーパー)のような普通のスーパーであってもBIOマークの付いたオーガニック食材を簡単に購入することができます。しかし、本当にそれが良質なのか? と疑問を持ってしまうのです。
例えば、アボカドはメキシコ産やオーストラリア産などいろんな生産地のBIOマークが付いているものが店頭に並んでいます。しかし、季節や生産地に関係なく、いつでもどこでも買えてしまうこと自体が自然ではないと考えています。消費者もBIOマークが付いているからそれを買えばいいと安易に考えてしまっているのではないでしょうか?」
たしかに、ドイツの大手スーパーはどこに行ってもBIOマークのついた食材が並んでいる。最近では、各スーパーが競うようにプライベートブランドを打ち出すようになった。
農場から直接持ってきて販売している鮮度と質を重視したファーマーズマーケットの値段より安く、誰でも気軽に買えることは事実だ。しかし、その裏側では、大手業者が大量生産し、莫大な費用をかけて認証機関からBIOマークを付けて、輸送費をかけて世界各地から流通しているという。これにより、実際の品質の値段より高額になっているという事実も私たち消費者は知るべきではないだろうか。
「有機栽培でないとしても、大手チェーンと提携していない個人経営の小さな農場でつくられたものの方が良質で、新鮮で、さらに適正価格で仕入れることができます。だから、すべて自分の目で確かめたり、信頼のおける身近な人から情報を得て、ドイツ国内だけにこだわらず、ヨーロッパの近隣諸国から最良のものを仕入れることにフォーカスしています」
人気の秘訣はこういった表には見えないこだわりと努力があるからこそと言える。しかし、人気絶頂のレストランにも、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行の影響は大きな打撃となっている。11月からロックダウンとなったベルリンの飲食店は、すべての店舗がテイクアウトのみの営業しか許可されておらず、一部制限緩和された現在も通常営業の目処が立っていない状況だ。
Baldonでは、夜の営業は休止し、ランチをメインとした昼間のテイクアウト営業のみを行っている。法律で決められた感染防止の対策を行うだけでなく、店内で食べる時と同じようにクオリティーを保ちながら、スタッフの安全やメンタルにも配慮している。
Photo by Angela Simi
「Baldon」の店内には観葉植物とアート作品が展示されている
「店内で飲食することは、感染のリスクになることは、わかっています。そういったなかで、私たちは、たとえテイクアウトであっても店内に入る人数を制限し、すべてをコントロールしながら営業しています。しかし、大雪が降った翌日には大勢の人が公園に集まり、密集したなかでスケートをしたり、ソリをしたりしています。その方がよほどリスクではないでしょうか? クリスマスシーズンのショッピングモールもどこに行ってもすごい混雑していました。お酒が飲めるレストランやバーがターゲットにされ、政府からの支援は正直言って良いとは言えません。
ロックダウンによって影響を受けているのは、レストランだけでなく、食材の提供先である農場や市場も同じなのです。どれだけの食材が無駄になっているかを考えてほしいし、どこの店舗も利用しているため、テイクアウト用の容器がとてつもない量のごみを排出させているのです。サステナビリティーとは真逆のことをやっていることに気付いてほしいです」
「Lobe Block」には筆者も数回訪れており、Baldonも利用させてもらっているが、当然ながら人の姿はまばらで、閑散として寂しい雰囲気が漂っていた。それに反して、街中にあるごみ箱には食べ残しとともに紙やプラスチック容器が溢れかえり、悪臭を放っている。ロックダウンがもたらす新たな環境問題となっていくだろう。
そんな厳しい状況下でも、インスタントやファーストフードではなく、良質な食事を摂ってほしいとセシリアさんは言う。
「身体に良いランチを食べることによって、その日の気分が良くなるし、食べ物が身体をつくると信じています。だから、コロナ禍でも毎日心を込めて、良質な食事を提供していきたいです」
セシリアさんたちは、1回目のロックダウン時に医療従事者へランチを届けるボランティアを行なっていたというから驚きである。
外食文化の根付いているベルリナーにとって、レストランやカフェはライフスタイルに必要不可欠だ。ロックダウンで制限された生活に気が滅入ってしまったら、Baldonへ行ってランチを食べて、身体のなかから元気を取り戻したい。それは、同時にローカルビジネスへの支援となるのだ。
Photo by Angela Simi
ントランス前と裏の中庭がオープンテラススペースとなっている
Baldon
https://baldon.berlin/
写真提供/Angela Simi
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