ベルリンのブランド「Manakaa Project」が守りたいインドと日本の伝統技術

Photo by Manakaa Project

ヨーロッパ各都市の先端サステナビリティ

「Manakaa Project(マナカ・プロジェクト)」は、日本のガラスビーズとインドの刺繍技術に魅了されたドイツ人デザイナー2人によるアパレルブランド。インドCocccon社のシルクを使った新作やサステナブルな活動を、デザイナーのステファニー・ブランクさんにインタビューした。

宮沢香奈(Kana Miyazawa)

フリーランスライター/コラムニスト/PR

長野県生まれ。文化服装学院卒業。 セレクトショップのプレス、ブランドディレクターを経たのち、フリーランスでPR事業をスタートし、ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積…

2021.06.28
BEAUTY
編集部オリジナル

「すだちの香り」で肌と心が喜ぶ 和柑橘の魅力と風土への慈しみあふれるオイル

Promotion

国境を越えて守り続ける伝統とクラフトマンシップ

2人の女性

Photo by Manakaa Project

(左)ステファニー・ブランクさん、(右)ヴァレリー・ティースマイヤさん

「Manakaa Project(マナカ・プロジェクト)」は、80年という歴史を誇る広島のガラスビーズとインドの伝統技術である刺繍を取り入れたベルリンのアパレルブランドだ。ドイツ人のステファニー・ブランクとヴァレリー・ティースマイヤがこの2つの伝統技術に魅了され、2019年にベルリンで設立した。

「Manakaa(マナカ)」とはヒンドゥー語で「真珠」という意味を持ち、プロデュースする衣服に使用されているインドのシルクやメインビジューとなるビーズがブランド名を象徴する美しさが特徴的。

シルクは、ブランド設立当初からパートナーシップを結んでいるインドのジャールカンド州にあるCocccon社で製造されている。殺虫剤や農薬を一切使用していない草木のなかで育てられた蚕から採取され、100%オーガニックという品質が保証されている。

メインビジューに使用しているガラスビーズは光沢とマットの2種類のタイプ。パターングラフィックで作成されたミニマルな配置の“コード”、波打った“ウェーブ”、下に流れ落ちるような“レイン”の3つのデザインに構成されている。ビーズ刺繍をベルリンらしいミニマルでモードなグラフィックパターンに落とし込んでいるのも「Manakaa Project」の特徴の一つ。

何より驚いたのは、刺繍はすべて男性職人の手作業によって一針ずつ縫われているという点である。筆者も「Manakaa Project」のショールームを訪れた際に、実際に商品を手にとって見せてもらったが、その緻密さと正確さに感動したのを覚えている。ひと針ずつ塗いながら、複雑なグラフィックパターンに仕上げていく作業は想像しただけで途方に暮れてしまうが、オートクチュールのドレスのようなエレガントさと手作業ならではの温かみが溢れていた。

Manaarka Projectの服を着た女性

Photo by Manaarka Project

ビーズが下に流れ落ちるようなデザイン”レイン”が施されたラグランスリーブニット。ゴビ砂漠の放牧で育てられた最高級カシミヤを使用

ほかにも、オーガニック記事の認証である「GOTS認証」(The Global Organic Textile Standard)*を取得した生地を全体の85%使用している。生産過程以外でも環境に配慮し、シーズンごとにコレクションは発表せず、季節を問わず着れるアイテムを少しずつ増やしていくスタイルをとっている。ブラックをメインカラーとしているのは流行に流されず永遠に着れる色という定義があるからだ。シーズンレスなアイテムや飽きのこないデザインやカラーは長年愛用することができ、サステナビリティーの一環となる。

ブランド立ち上げから2年弱が経った「Manakaa Project」は、今春に新作の発表を行ったばかりだ。シルクをメインとした新しいアイテムやブランドを通して伝えたいサステナビリティーについてなど、デザイナーのステファニーさんに話を聞いた。

*オーガニック繊維における生産から製造・販売まで、すべての工程の取り扱いについて定めた世界基準

「Manakaa Project」がファッションを通して伝えたいサステナビリティーの重要性とは?

Q1. これまでのコレクションに加えて、新しいデザインを多数発表されていますが、そのなかで、とくにおすすめのアイテムはありますか?

パートナーシップを結んでいるインドのCocccon社で製造された「ピースシルク」を使用したアイテムをおすすめしたいです。ピースシルクでは、サークルシャツと2種類のサマードレスをデザインしました。

サークルシャツは「MIYUKI」のガラスビーズを円を描くように自在に刺繍した新しいパターンと生地と同色にプリントしたデザインがあります。サマードレスは、ガラスビーズを施したノースリーブと無地のネックホルダードレスです。ネックホルダードレスは、ビーズベルトでブラウジングして着ることもできます。

Manakaa  Projectの服を着た女性

Photo by Manakaa Project

サークルシャツは、ミニマルなデザインながらも、女性らしい丸いシルエットが美しい

ピースシルクとは、さなぎになった蚕を茹でず、さなぎから羽化して繭を去るのを待ってから生糸を紡いでつくられたシルクのこと。こうすることで、蚕を殺さずに絹を採取することができる。Cocccon社は、いち早くピースシルクの製造に着手しており、同時に、地元の貧困地域の女性を雇って製法を教えることによって、自立や生活を支えるサポートも行っているとのこと。また、シルクの製造には太陽エネルギーを使った紡績機を使用しており、地球環境にも配慮している。

Q2. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行によって、ドイツは長期に渡るロックダウンとなったわけですが、厳しい状況下においても新作をつくり続けた理由はありますか?

コロナ以前のように、オシャレをして外出する機会が増えることを願ってデザインしました。私たちが新作をつくることによって、少しでもモチベーションが高まり、これまで通り、インドの刺繍職人や織り職人を支援し続けることが可能になることを願っています。私たちは現在、Cocccon社と一緒に織り職人と刺繍職人とをサポートするための財団を設立しました。そこでは、新型コロナ感染症(COVID-19)を治療するためのテント病院を併設しています。

Manaarka Projectの衣服を着用した女性モデル

Photo by Manaarka Project

1枚でサラリと着れるネックホルダードレスは柔らかいシルクの特徴を活かした首元のギャザーがポイント

Q3. Cocccon社との活動をはじめ、さまざまな形で社会貢献と環境保護に取り組んでいますが、ステファニーさんたちにとって、サステナビリティーでもっとも重要なことは何ですか?

まず、私たちはサステナビリティーが一日も早く世界で自明のものになることを強く望んでいます。環境汚染に対して、ファッション業界がもたらす影響は非常に大きく、特に製造業が盛んな国では深刻な問題になっています。しかし、他の分野と違い、製造業者やブランドそれぞれが考えや行動を変えることにより、サステナビリティーへ大きく貢献できるのがファッション業界なのです。

私たちは、GOTS認証に基づいて製造された生地を購入していますが、GOTSは、生地の製造方法だけでなく、良好な労働条件と公正な支払いも保証しています。私たちは、可能な限りGOTS認証の生地を使用しています。そうすることで、製造や生産条件に責任を持ち、生産したサステナブルな洋服を消費者へと橋渡しすることができるのです。

Q4. 新型コロナ感染症(COVID-19)の流行の影響もあり、社会全体におけるサステナビリティーへの関心が高まっていると思いますが、実際にはどうでしょうか?

新型コロナ感染症(COVID-19)の流行が起こる前は、もっとサステイナビリティを議論する余地がありました。新型コロナ感染症(COVID-19)の流行は、地球温暖化や持続可能性の問題と同様に、私たち全員が世界全体で団結しなければ対抗するチャンスはないということを、改めて明確にしています。

ウイルスが脅威でなくなったとき、人々は持続可能性の問題についてさらにオープンで意欲的になると確信しています。とくにファッションにおいては、サステナビリティへの明確なコミットメントがあってこそ、責任ある未来が可能になると信じています。

Manaarka Projectの衣服を着た女性

Photo by Manaarka Project

世界的に見て、サステナビリティーへの関心が高まっているとはいえ、ステファニーさんが言う通り、議論する場や提唱する場を失ったことも事実である。「Manakaa Project」はドイツ国内だけに限らず、パリや他のヨーロッパ都市、そして、東京での展開を目指して勢力的にプロモーションしている最中にロックダウンとなってしまった。

日本のガラスビーズを使用したドイツ発のブランドのお披露目や反響を筆者自身も楽しみにしていただけに非常に残念ではあるが、新型コロナ感染症(COVID-19)の流行の収束とともに、改めて実現に向かうことを期待している。

※掲載している情報は、2021年6月28日時点のものです。

    Read More

    Latest Articles

    ELEMINIST Recommends