気候変動対策としてコンロを変える? 私たちに希望を与えてくれる「地球温暖化の教科書」 vol.2

地球温暖化の教科書

ELEMINISTでは全5回にわけて、地球温暖化について網羅的に解説している『DRAWDOWN ドローダウン――地球温暖化を逆転させる100の方法』に書かれている内容について紹介。第2回目はフードについて。

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2021.03.18
BEAUTY
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「エシカル」「サステナブル」「SDGs」──いまや、これらはライフスタイルからビジネスまでを語るうえで切っても切り離せないテーマだし、誰もが知識をつけることが求められている。

ここで取り上げるのは、すでに世界12カ国で翻訳されている『DRAWDOWN ドローダウン――地球温暖化を逆転させる100の方法』(ポール・ホーケン・編著 江守正多・監訳 東出顕子・訳)。

地球温暖化について網羅的に解説していて、誰もが簡単に理解できるわかりやすい内容になっているので、これから知識をつけようとしている人におすすめだ。また、さまざまな研究者たちの知識が盛りこまれているから、すでに地球温暖化について詳しい人が読んでも、たくさんの発見があるだろう。

ELEMINISTでは全5回にわけて、『DRAWDOWN ドローダウン――地球温暖化を逆転させる100の方法』に書かれている内容について紹介しようと思う。第2回目はフードについて。

『DRAWDOWN ドローダウン――地球温暖化を逆転させる100の方法』とは?

『DRAWDOWN ドローダウン――地球温暖化を逆転させる100の方法』の表紙

地球温暖化という解決すべき大きな問題について、私たちの「衣食住」にポジティブな変化を加えれば、この地球規模の問題をいい方向に変えられるという「希望」を与えてくれる内容となっている。

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)をはじめ、世界22ヶ国、約70人の権威ある機関で幅広く学術的経験や専門的経験を積んでいる研究者たちによる、科学的根拠にもとづいたデータをもとに、エネルギーや食、自然など私たちの身近なテーマを切り口に解説。

それだけでなく、今後期待できる地球温暖化問題を改善する新しい技術についても紹介しているから、この問題と向き合うために読んでおきたい1冊だ。

親近感の湧くテーマが並ぶ「フード」セクション

『DRAWDOWN ドローダウン――地球温暖化を逆転させる100の方法』の「フード」セクション

朝、昼、晩の食事が地球温暖化にもたらす影響について、考えたことがある人も多いだろう。たとえば、二酸化炭素やメタンなど家畜由来の温室効果ガスの年間排出量は全体の18〜20%を占めると推定され、化石燃料につぐ排出源となっている。このように私たちの「食」は、エネルギー供給分野と並んで地球温暖化の主な原因のひとつだ。

サステナブルな専門技術や農法、菜食主義など、このテーマを考えるうえですぐに連想できるキーワードは複数あるが、「クリーンな調理法」もまた、気候変動を抑える重要な策としてあげられる。

「フード」セクションで取り上げられているテーマのひとつは「調理コンロ」について。機能や材料の改良によって煙などの有害物質の発生が少ないコンロのシェアが広がれば、燃焼効率アップによる温室効果ガスの排出削減や、肺や心臓、目の病気に苦しむ原因となる有害物質の発生を抑え身体への悪影響などを軽減できると考えられている。

また、調理道具の改良は環境に配慮できるだけでなく、ジェンダーの不平等などの課題にもアプローチできるそうだ。そういった意味で改めて「クリーンな調理法」について考えてみるのもいいかもしれない。

気候変動を抑えるクリーンな調理法(*本文から引用)

コンロの様子

Photo by Le Creuset on Unsplash

クリーンな調理コンロを世界的な現象にする取り組みの舵をとっているのは、2010年に国連財団が立ち上げた官民連携の「クリーンな調理コンロ普及のための世界連盟(GACC)」です。GACCは、調理がうまくでき、燃焼効率がよく、人も地球も害さない家庭用調理技術の活発なグローバル市場を創出することをめざしています。GACCと提携組織は、そういうコンロが2020年までに1億台採用され、2030年には世界共通に採用されることを計画しています。

コンロひとつでどれほど機会が広がるか。それは、コンロがもたらす数々のプラスのインパクト同様に目を見張るほどです。多くの場所で、燃料を集め、食事を準備する弊害を受けているのは女性と女児です。したがって、調理器具の改良はジェンダーの不平等を正し、薪集め中の安全上のリスクを最小限に抑え、教育や収入を得るための時間ができることを意味します。目、心臓、肺が健康になれば病気や死の負担が軽くなる、つまり心身ともに良好な状態になります。燃料の燃焼効率が上がれば森林への圧迫が減り、大気汚染や温室効果ガスの排出を抑制します。

こうしたインパクトを総合すると、クリーンな調理コンロは貧困を根絶し、暮らしを底上げする可能性を持っていることになります。GACCが主張するように、「国際社会は、何百万人もの人々がどうやって調理しているかという問題に取り組まないかぎり、貧困を根絶し、気候変動に対処するという目標は達成できない」のです。

クリーンな調理は、気候変動を抑える迅速な変化につながると言えます。調理による排出削減の機会は年1ギガトンの二酸化炭素かそれと同等の範囲にあると考える研究者もいます。その可能性を可能性のままで終わらせないためには、手頃な価格で現地に適した耐久性のある調理技術の開発と採用を拡大することが不可欠です。

GACCと第一人者の専門家たちはコンロが少なくともベースライン性能を満たすようにするための国際基準の作成、政府の政策や社会貢献活動への情報提供、より多くの情報に基づいた選択をするための消費者支援に取り組んでいます。最善の技術でさえ、強力な資金調達と流通なくしては成功できません——この2つも技術同様にイノベーションを必要とする領域です。研究開発の資金、対象を絞った補助金、流通支援、教育活動、特別融資はすでに役立っていますが、まだまだ不足しています。資金の増加が順調になれば、一人当たりの木質燃料消費が最も多い国など、優先領域をねらって介入策を実施し、その間により大きなインパクトを達成することもできます。調理の未来が決め手となる場所で世界のさまざまなクリーンな調理コンロ開発の取り組みが続いています。

山と渓谷社

DRAWDOWNドローダウン― 地球温暖化を逆転させる100の方法

3,080円

※2021.03.04現在の価格です。

文/松本唯人 編集/小嶋正太郎

※掲載している情報は、2021年3月18日時点のものです。

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