ELEMINISTでは、読者の方にエシカルでサステナブルなバレンタインデーを過ごすアイデアや方法を伝えるべく、座談会を開催。「バレンタインデーの過ごし方」「チョコレートを購入するときに気をつけていること」について語り、6つのチョコレートを紹介することに。
小嶋正太郎
農家 / 編集者
元ELEMINIST副編集長。2021年7月に東京から瀬戸内海に浮かぶ因島へと拠点を移す。高齢化で運営困難になった八朔・安政柑農園を事業継承し、農家として活動中。
「藻」から化粧品づくりに挑むサキュレアクト ELEMINISTからアンバサダー10名が就任
明日はバレンタインデー。
日本ではチョコレートをあげるカルチャーが根付いているけれど、少し調べるだけでもその生産過程には児童労働や森林伐採など、複数の社会問題が関係していることがわかる。
だとしたら、エシカル・サステナブルライフを送っている人たちはどのようにこの日を過ごしているのだろう?
ELEMINISTでは、読者の方にエシカルでサステナブルなバレンタインデーを過ごすアイデアや方法を伝えるべく、座談会を開催。参加してもらったのは、ELEMINIST編集長 深本南とELEMINIST SHOPバイヤー 中川原圭子。
3人で「バレンタインデーの過ごし方」「チョコレートを購入するときに気をつけていること」について語り、6つのチョコレートを紹介することに。
──お二人は、いつもどのようにバレンタインデーを過ごしていますか?
中川原:20年前に児童労働と関係していることを知ってから、チョコレートはフェアトレードされている商品を選んでいます。バレンタインデーはこうした問題をチョコレートを通して子どもを含めた周囲の人に伝える日になっていますね。
深本:大好きな人に愛を告白できる日だとするなら、本当に愛のあるエシカルなモノや気持ちを届けたいですよね。大人になってからはパートナーに日頃の感謝を伝えてます。何かをプレゼントするとしても、ずっと使えるモノしか買いませんね。なので、残念ながらチョコレートは買いません。
──子どもの頃も同じでしたか?
深本:この時期になると思い出す甘酸っぱい記憶があるのですが……小学6年生の卒業間近、当時好きだった男の子に買ったプレゼントを渡す勇気がなくて、想いを伝えられなかったんです。だけど、そのときもチョコレートではなく文房具を買った気がします(笑)。どうしても人と同じモノをあげることに前向きになれず、長く使えて、本人がほしがっていた下敷きを買いました。
中川原:しっかりとした小学生だったんですね。私の子どもの学校では、バレンタインデーの時期になるとお母さんたちは大忙し。友だちにチョコレートをあげるなら、クラス全員にあげなければいけないという暗黙のルールがあるんです。
深本:いまの世代の子どもたちは、いつ愛の告白をできるんでしょうね? チョコレートをあげる文化の廃止は大賛成だけど、バレンタインデーは愛を伝える大切な日のはず。“想いを届けるにはチョコレートをあげる必要がある”という義務になってしまっていることに気づいた方がいいですよね。誰かを好きになるって楽しいからこそ、知ってほしいな。
──時代は友チョコなんですね。でも、この時期になるとチョコレートの宣伝やSNS投稿が増えて、いやでも食べたい気分になってしまいます……。
深本:それは私も同じです(笑)。
中川原:食べたくなりますよね(笑)。
深本:だから、自分用にチョコレートを買うこともあります。
──そのときはどのような目線で商品を選ぶんですか?
深本:少し前までは「児童労働に関わっているカカオ豆を使用していないか?」「有機栽培の原料か?」「パーム油を使用していないか?」の3点を確認してから、購入するようにしていました。
中川原:私も同じです。
深本:最近は植物由来でもおいしいチョコレートが出てきているので、ヴィーガンフレンドリーもチェック項目に加わっています。そして、森林破壊をしないアグロフォレストリーがもっとも重要で、これも気にしていますよ。
──フェアトレードやオーガニック、パーム油フリー、ヴィーガンフレンドリー、アグロフォレストリー……気にするべきことはたくさんありますね。
深本:チョコレートの原料になるカカオに限らず、海外から輸入している多くの食品や嗜好品は、原産国の森林を破壊し、多様性豊かな生物の住処を奪っています。そうして保水力を失った土地は水不足に陥ってしまう。農薬による土壌汚染や健康被害なども考えると、ビターチョコレートよりも苦い現実になっているんです。知らずしらずに購入するのは自分たちがそれに加担してしまうことになるので、非常に重要だと考えています。
──こうして話していると気になってくるのは、深本さんや中川原さんが購入するチョコレートです。具体的にどんな商品がオススメなのでしょうか?
深本:この座談会のために私と中川原さんで、6つのチョコレートをピックアップしてみました。それらに順位をつけることはしませんが、まずはTony's Chocolonely(トニーズチョコロンリー)から紹介したいですね。
深本:Tony's Chocolonelyは2020年11月に1ヶ月限定のポップアップイベントを開催していて、その時にエシカル界隈の人たちが取り上げてて、初めて知りました。
──パッケージがポップですね。かわいい。
深本:そうそう。ほかにも私がいいなと思ったのは、パッケージに記載されていたタグライン「Crazy about Chocolate, Serious about People」です。「チョコレートは大好きだけど、人々に対しては真剣に取り組んでいますよ」と訳せますが、これは彼らがチョコレート業界の奴隷制を廃止するために誕生したことが影響しています。つまり、購入という行為が奴隷制を廃止するアクションにつながるということ。素晴らしいですよね。
中川原:注意しなければいけないのは、ミルクチョコレートなどの一部の商品はヴィーガンではないところ。ブランドとしては「カカオ農園で起きている奴隷制を廃止し、他のメーカーに影響を与えることを目的としているため、ヴィーガン対応は私たちのミッションではない」とウェブサイトで発表しています。アニマルウェルフェアではなく透明性の観点で好印象ですね。
深本:そしてパッケージを開けたら、不揃いなチョコレートのカタチが目に入ると思います。これは“不均等な業界なのに均等にみせるのはおかしい”というメッセージが込められているんですよ。真摯にエシカルに向き合っている人たちのプロダクトは、その想いがパッケージや製品に反映されていて、しっかりとカタチとしてあらわれます。エコシステムをつくるために植樹もしているというし、総合的に優れている商品ですね。
──購入がアクションにつながるのは新しいですね。中川原さんはほかに気になっている商品はありますか?
中川原:Tony's Chocolonelyはオランダのメーカーですが、日本のメーカーとして気になっているのはDari K(ダリケー)です。
中川原:Tony's ChocolonelyとDari Kに共通しているのは、生産者の方が直面している不平等を解消しようとしている点です。彼らは慈善活動としてのフェアトレードではなく、チョコレート生産に関わる知識や技術などを伝えながらフェアトレードをしています。質の高いカカオを生産すれば所得が上がるというモチベーションを生むのが背景にはあるそうですよ。
──恥ずかしながら僕は全く知りませんでした。
中川原:京都に本店があり、東京には大丸東京店がありますよ。話は戻りますが、子どもたちにチョコレートをつくる方法なども教えていて、生産者の方を大切にしているのが伝わってきます。そして付加価値を加えるために日本で加工。消費者は本当に質の高いチョコレートを買うことができ、しかも、不平等を解消する取り組みに関われるのです。
──日本にも購入を通して社会貢献ができるチョコレートがあるんですね。勉強になります。
中川原:フェアトレードではなくダイレクトトレードという方法をやっている日本のメーカーもありますよ。
中川原:Dari Kでも語りましたが、フェアトレードでは本当に不平等を解消することはできないと言われています。foo CHOCOLATERS(フーチョコレーターズ)は、農園と直接やり取りをするダイレクトトレードという手法でカカオを仕入れています。パッケージに和紙を取り入れたりと、目新しさも感じますね。
深本:ヴィーガンのチョコレートを買いたいと思った時に、検索して出てきたのがfoo CHOCOLATERSでしたね。ふだんは広島に拠点を置いているけど、東京でもポップアップをやることもあるみたい。まだ1回も足を運べていないんだけど(笑)。フルーツの入っているチョコレートだと、自然栽培で知る人ぞ知る青果ミコト屋のみかんを使っていたり、あまり彼らは主張していないけど、かなりエシカル度が高いですね。
──青果ミコト屋……知りませんでした。
深本:青果ミコト屋は『旅する八百屋』という本も出していて、知っている人はマニアック(笑)。日本全国津々浦々を旅して、本当においしい旬の野菜や果物を仕入れている移動式八百屋です。
──なるほど。こうした仕入れ先をウェブサイトで公開していて、透明性の観点でもいいですね。
深本:これからの消費のあり方は地産地消になるべきで、foo CHOCOLATERSはサプライチェーンを短くすることに力を入れています。ヴィーガンということも考えると、こちらも総合的に優れていますね。
──たしかに。聞いていて思ったんですけど、どこでも買えるようなチョコレートのなかでオススメはありますか?
中川原:みんなが知っているかもしれないけど、People Tree(ピープルツリー)ですね。
中川原:People Treeのチョコレートは手に入りやすく、知名度も高いのですが、意外なことにフェアトレードがおこなわれている事実があまり知られていないんです。だから、これを機会にエシカルな側面を伝えたいなと思いました。
深本:価格帯も低く、ナチュラルローソンや雑貨屋などでも購入できるのがいいですよね。パッケージがかわいいから買ってみたら、じつはエシカルだった。そんな経験ができるという意味で素晴らしいです。
──理想のコミュニケーションですね。
深本:パッケージを開けたらフェアトレードについても書かれています。あと、カカオマークを集めたらトートバッグをもらえるなどの取り組みをしていて、中川原さんは5年間もためているそうですよ。
左:パッケージの裏にはキャンペーンなどを通してフェアトレードについて知ってもらう工夫が凝らされている。右:中川原が5年間かけて集めたカカオマーク。
深本:これからの時代はフェアトレードだけでなく、最初に話した通り、森林保全に貢献していることも基準になってくると思います。森林伐採をした土地ではなく、農業と林業を両立させるアグロフォレストリーをおこなっている農園との取り引きが重要に。People Treeはこういうことにも力を入れているんです。紹介し忘れていましたが、Tony's ChocolonelyとDari Kも同じ取り組みをしていますよ。
──最近、よくアグロフォレストリーは耳にしますね。まだまだ明言しているところは少ないようですが……。ほかにもオススメはありますか?
中川原:Bio c' Bon(ビオセボン)などで買えるPANA CHOCOLATE(パナチョコレート)ですね。
中川原:これはオーガニックでヴィーガンフレンドリーです。しかも、ハラール認定やコーシャ認定も受けていて、グルテンフリー。
深本:それにもかかわらず、おいしいんですよ。フレーバーの種類も豊富で、シンプルな味に飽きている人はオススメですね。日本では手に入りにくいサワーチェリー&バニラやストロベリー&ピスタチオがあったりするので。
中川原:4つの商品を入れられるボックスも買えて、メッセージカードも添えられるんです。非加熱のカカオを使ったローチョコレートでもあります。
深本:チョコレート自体にも「Love the Earth」「Love Your Inside」というメッセージが書かれていて、これも推しポイントのひとつです。生産者と加工者の想いを感じ取れるのは、なかなかありませんからね。
──食べるときに気分が上がる仕組みになっているのは嬉しいですね。それだけでも写真を撮りたくなりそうです。そして、次が最後になると思いますが、どんな商品でしょうか?
中川原:第3世界ショップのチョコレートです。
中川原:第3世界ショップは日本で初めてフェアトレードを始めたんです。現在はフェアトレードだけでは救えないことがあるとして、コミュニティ全体を底上げするコミュニティトレードをおこなっています。あと、乳化剤を使わないチョコレートなので溶けやすいので、毎年秋から春までしか手に入りません。
深本:いいですね。365日チョコレートを食べられることに違和感を持つきっかけになりそう。カカオにも旬があるということを知ってほしいですからね。
中川原:パッケージは、ハンディキャップを持った人が好きなこと・得意なことで活躍し、仕事をつくることを目指している福祉施設 studio COOCA(スタジオクーカ)のアーティストとコラボレーションをすることもあります。写真に写っているのが限定パッケージの一種ですね。
深本:いま2つの限定が出てきましたが、しっかりと背景にある理由を知ってほしいですね。利益のためだけじゃないので。
──かなり情報量の多い座談会となりましたが、お二人はELEMINISTの読者の方にどのようなバレンタインデーを過ごしてほしいと考えていますか?
中川原:少し話は被ってしまいますが、野菜や果物と一緒でチョコレートにも旬があるので、1年中食べられないことが当たり前だと思ってほしいです。とはいえ、コンビニやスーパーでは気軽に買えてしまう。消費することを悪いとは思いませんが、こだわっているメーカーが何を気にしているのかを心に留めておきたいですよね。
バレンタインデーにチョコレートを買うとするなら、生産者のことを本気で考えている商品をオススメします。ぜひ愛の込められたチョコレートを食べてみてください。
深本:まず、いまだに社員からチョコレートをもらうことを誇らしく思っている経営陣がいるとしたら「そのSDGsのバッジはすぐに取り外してください」と言いたくなります。実際に私も一昨年まで会社員をやっていましたけど、SDGsやサステナビリティを経営理念に掲げながらも残っているギフト文化には、ESG投資価値があるのか? グリーンウォッシュではないか? と思っていました。
デスクに山積みになったチョコレートを目の当たりにして、その会社には長く勤めないと心に誓いました。Z世代やミレニアル世代にも、こういう考えを持っている人たちは多いと思います。私も伝え忘れてしまうこともあるので反省の気持ちを込めながら言いますが、感謝の気持ちなら日頃から伝える方がいいですよね。そういう意識を持ってみてください。
そして、バレンタインデーが愛を誓う日だとするなら、持続可能な社会のうえで成り立っているチョコレートをプレゼントするのが、いま、家族やパートナー、友だちへの愛を表現する最適な手段なのではないでしょうか。
多くの人には、これをきっかけにエシカルな愛をどんどん広めていってほしいですね。
【記事で紹介したチョコレートメーカーの一覧】
1. Tony's Chocolonely
URL:https://tonyschocolonely.com/jp/ja
2. Dari K
URL:https://dari-k.shop-pro.jp/
3. foo CHOCOLATERS
URL:https://foochocolaters.com/
4. People Tree
URL:https://www.peopletree.co.jp/food/index.html
5. PANA CHOCOLATE
URL:http://pana-organic.jp/index.html
6. 第3世界ショップ
URL:https://www.p-alt.co.jp/
ELEMINIST Recommends