オーバーツーリズムとは、観光地にキャパシティー以上の旅行者が押し寄せることによって、混雑や騒音、マナー違反などの問題が地域住民の生活や自然環境に悪影響を与える状態のことである。国内でも京都や鎌倉、沖縄などでこのような現象が起きており、その対策が注目されている。
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オーバーツーリズムとは、「Over(許容範囲を超えた)」と「Tourism(観光)」を組み合わせた造語。観光客の大幅な増加によって観光地が過度に混雑し、地域住民の生活や自然環境に悪影響を及ぼす状態のことであり、世界各地の観光地で問題視されている。
日本でも近年、訪日ビザの要件緩和や、免税制度の拡充などによって、訪日外国人旅行者が急増している。2019年の訪日外国人旅行者数は約3,188万人にも上り、これは2012年比で3.8倍となっている(※)。それに伴い、観光客による混雑やマナー違反が指摘されるようになった。日本ではこの問題を「観光公害」と表現することもある。
格安航空会社(LCC)の普及によって、これまでより低価格で旅行を楽しめるようになった。
これまで旅行の滞在先といえば、ホテルしか選択肢がなかったのが、Airbnbのような民泊サービスが登場した。これにより、さらに旅行を低価格で気軽に行けるようになった。
アジアやアフリカの中間所得層の増加などによる旅行者の増加も要因として挙げられる。
インターネットやSNSの発達により、トレンドやフォトスポットが簡単に共有されることも、この問題を加速させていると言える。
オーバーツーリズムによって問題視されるのが、地域住民や地域のビジネスへの影響だ。
オーバーツーリズムによって、交通渋滞や混雑、騒音、無断駐車、ごみの不法投棄、立ち入り禁止区域への侵入、違法民泊、文化財の損傷などが問題視されている。これらの問題は、地域住民の生活や地域の自然環境に悪影響を与える可能性も。
また、観光資源である文化財や自然が損なわれれば、観光地としての魅力も低下してしまう。結果的に観光客の減少につながるため、経済に及ぼす問題も少なくないだろう。
大量の観光客が押し寄せたことで、地域が汚れ資源が破壊されたりして、観光地としての魅力が下がり、観光客の満足度が下がれば、やがて観光客自体が減少していくことが考えられる。結果として、観光地の経済へ負の影響を及ぼすことになりかねない。
世界中の観光地が大打撃を受けた新型コロナウイルスのパンデミック。その一方で、観光客の姿が消えたことで、地域の環境が改善されるなどポジティブな影響も見られた地域がある。そこで、コロナ後の観光のあり方についても、見直す動きが出てきているのだ。
京都は、年間約5,000万人以上の観光客が国内外から訪れる日本を代表する観光地だが、河原町や祇園、二条城周辺などの市中心部では、観光客による混雑やごみのポイ捨て、民泊の増加による騒音、急激な地価高騰が問題視されている。
住民からは、「市バスが混雑していて、地域住民が利用することができない」「人が密集しすぎて、古都本来の美しさが損なわれている」といった苦情も上がっている。また、外国人観光客が舞妓さんを追いかけて私道に侵入してしまうといったトラブルも相次いでいるという。
年間約2,000万人の観光客が訪れる鎌倉市は、観光スポットが鎌倉駅を中心とする狭いエリアにあることから、駅周辺や道路の混雑が問題となっている。
また、鎌倉駅と藤沢駅を結ぶ江ノ島電鉄(江ノ電)は、車窓から見える湘南海岸の景色やレトロな雰囲気が味わえるとして観光客にも人気があり、ゴールデンウィーク期間中には鎌倉駅の外まで行列ができる。乗車するまでに1時間近く待つこともあり、地域住民や通勤・通学利用者の生活に支障をきたしている。
観光客に人気のある小町通り付近の住宅街では、庭や敷地内に食べ歩きのごみが捨てられ、アニメの舞台となった踏切や横断歩道周辺では、写真撮影を無理におこなう観光客も発生しているという。
沖縄県の宮古島では2015年以降、クルーズ船の入港により観光客が一気に急増。クルーズ船の到着時間には、一度に多くの観光客がタクシーやバスなどを利用するため、住民がそれらを利用できなくなっているという。また、港付近のショッピングセンターの混雑、レンタカーの交通事故、地価や建設コストの上昇、ポイ捨てによる海の環境悪化なども問題となっている。
加えて、さらなる観光客を受け入れようと島の整備が進み、建設物が増えたことで島の景観が損なわれているといった声もある。
オーバーツーリズムの問題を受けて、日本の観光庁は2018年に「持続可能な観光推進本部」を設置。地方自治体へのアンケート調査や、地方自治体・有識者へのヒアリング、国内外の先進事例をとりまとめ、「増加する観光客のニーズと地域住民の生活環境の調和」を図り、持続可能な観光を目指すという。
また観光庁は、住宅宿泊事業法(民泊新法)の整備、スマートフォンなどの端末を通した観光地の混雑状況の「見える化」を目指して対策を進めていく方針だ。
主要観光地を抱える地方自治体や観光地域づくり法人(DMO)などは、課題を認識し、解決・改善に向けて取り組む必要がある。国際機関であるグローバル・サステイナブル・ツーリズム協議会(GSTC)は、すべての観光事業において望ましい最低限の条件(GSTC基準)を設定しており、これはオーバーツーリズムの解決に向けて参考にできるとされている。
オーバーツーリズムへの対策として、他にも以下のような方法が挙げられるが、観光地ごとに課題は異なるため、それぞれに合った対策を打つ必要があるだろう。
・主要観光地周辺の名所の認知度を高める
・観光地への入場制限(有料化/事前予約制)
・公共交通機関における地域住民の優先利用
・観光税や宿泊税の導入による対策費の確保
・入場者を観光場所・季節・時間によって分散する
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スペインのバルセロナでは、1992年のオリンピックを機に観光都市としての開発が進み、外国人旅行者が増加。住宅地が旧市街やサグラダ・ファミリアなどの観光地と近接していることが原因で、混雑や騒音などが問題視され、住民による反観光デモがおこなわれるようになった。
これによりバルセロナ市は、2016年より歴史地区内で観光客向けの新しい商業施設、ホテル、アパートの建設を禁止した。2017年には旅行者の動きを分析し、分散化を専門的に実施するバルセロナ観光観測所を設立。サグラダ・ファミリアにおいて事前予約制導入、グエル公園において時間ごとの人数制限を設定することで、混雑の緩和を図った。
京都市は、市バスの混雑対策として「地下鉄・バス1日乗車券」を値下げすることで、地下鉄の利用を誘致。2018年には、ホテル、旅館、簡易宿所のほか、民泊も含めた宿泊税を導入することで、インフラ整備などの対策費の確保を図った。
京都観光協会は、オーバーツーリズム対策事業を立ち上げ、京都観光オフィシャルサイト「京都観光Navi」では、AI(人工知能)を活用した混雑状況予測を発信している。また、外国人観光客向けのリーフレット「AKIMAHEN」を配布し、マナー啓発にも力を入れている。
鎌倉市では、2018年のゴールデンウィークに、住民が江ノ電に優先乗車できる社会実験が行われた。事前に市から受け取った「江ノ電沿線住民等証明書」を改札で提示すれば、優先的に駅構内に入ることができるというしくみだ。住民利用者からは、観光客とのトラブルもなく平穏に利用できたと好評であったという。
世界中から年間1000万人の観光客が訪れる、アメリカ・ハワイ。これまで人気観光地ではオーバーツーリズムが起きていたことから、地域住民の間で不満が生まれていたという。そこでハワイ州観光局では、観光客へハワイの歴史や文化を正しく伝え、地域コミュニティとの相互理解を目指す方向へシフト。ハワイ語で「思いやり」を意味する「マラマハワイ」をキーワードに、新たな観光を訴求している。
オーバーツーリズムの問題とともに注目されているのが、持続可能な観光スタイル「サステナブルツーリズム」だ。観光客は、観光地本来の姿を楽しむことができ、そこに暮らす人々も自分たちの地域や文化を壊すことなく経済的なメリットを得られる。
観光客が増えることは決して悪いことばかりではなく、観光業が受ける経済効果や雇用創出の数は計り知れない。オーバーツーリズムの課題を受けて、観光客を単に制限するだけでは、地域経済が停滞してしまう可能性もあるため、分散して受け入れるなどの工夫が必要だ。また、観光がもたらすポジティブな影響を「見える化」することで、地域住民の理解と協力を得ることも不可欠だろう。
そして何より、旅は自由であるべきだ。そのためにも自分たちが旅行をする際は、できる限り混雑を避け、マナーを守って行動したいものだ。
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