世界自然遺産の地で体感しよう これからの「サステナブルな旅のかたち」

世界自然遺産の小笠原諸島のビーチ

Photo by Ogasawara Village Tourism Bureau

雄大な自然を受け継いできた世界自然遺産の地は、「SDGs」や「サステナブル」の言葉が一般的になるずっと前から、自然への畏敬の念を抱き独自の取り組みを行ってきた場所。新しい旅のかたちとして注目されるサステナブルツーリズムの旅先として、日本にある5か所の世界自然遺産をご紹介します。

ELEMINIST Editor

エレミニスト編集部

日本をはじめ、世界中から厳選された最新のサステナブルな情報をエレミニスト独自の目線からお届けします。エシカル&ミニマルな暮らしと消費、サステナブルな生き方をガイドします。

2022.08.01
目次

自然との共生の精神が古くから根付く地 日本の世界自然遺産

世界自然遺産、白神山地

白神山地(青森県・秋田県)

1972年のユネスコ総会で採択された世界遺産条約にそって、自然の美しさや地形、生物多様性など、世界で唯一の価値をもつ地域が登録される「世界自然遺産」

登録された地域には、果てしなく長い年月をかけて自然が育んだ豊かな環境があります。そして、その地域の人々は自然から恩恵を受けながら、持続可能な関係を維持できるよう自然を守り、長いあいだ共生してきました。

そんな世界自然遺産の地で、以前より取り組まれてきたのが「エコツーリズム」です。その地域を訪れた人々に自然環境の魅力や文化を伝えながら持続可能な街づくりを行うエコツーリズムは、「サステナブルツーリズム」と通じる考えであり、今では世界自然遺産の地が「サステナブルツーリズム」の呼び方で再び注目されるようになっているのです。

つまり、世界自然遺産の地は、「SDGs」や「サステナブル」という言葉が広く知られるようになるずっと前から、人々が自然を尊重し共生してきた歴史があるのです。

サステナブルな視点で旅しよう

世界自然遺産「奄美大島」の海

奄美大島(鹿児島県)

サステナブルツーリズム」には、さまざまな考え方がありますが、大切なのは次の3つ。

・地域の環境を守り、大切にすること
・地域の文化を守り、大切にすること
・地域の経済を守り、大切にすること

旅先で、道端にごみを捨てない、使い捨て用品を使わないといったことはもちろん、現地の文化を体験したり、旅先でお金を使い現地の地域経済に貢献したりすることも、サステナブルツーリズムの一環なのです。

こんなシーンもサステナブルツーリズム
・旅先でシェアサイクルを使う
・現地特有の文化を体験する
・旅先にエコバッグやマイボトルを持参する
・地元産食材を使ったレストランで食事する
・ホテルの使い捨てアメニティは使用しない

世界自然遺産「知床」の海

知床(北海道)

サステナブルな旅行にはメリットがいっぱい

サステナブルツーリズムでは、旅先の文化や食を知ったり、旅先に生息する生物について理解したり、私たちの視野や価値観を広げてくれる体験ができるはずです。

・日本各地の文化や食を知り体験できる
・生物多様性や絶滅危惧種への理解を深められる
・自然に感謝して大切にする心が芽生える
・旅先の自然を現地の人から学び、守ることに繋げられる
・自然保護への視野を広げることができる

世界自然遺産「屋久島」

屋久島(鹿児島県)

このようなメリットを体験するために、オーバーツーリズム(観光客が大勢押し寄せることで周辺地域や住民に負の影響をもたらすこと)の一因とならないよう十分配慮しながら、世界自然遺産の地を訪れ、雄大な自然の存在やありがたみを感じ、現地の人々との交流を深めてみませんか。世界自然遺産の地で五感全てで味わう体験は、日々の生活の中でも、きっと活きてくるはずです。

日本にある世界自然遺産は全部で5か所。2021年に登録された奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島をはじめ、それぞれの魅力あふれる地域を順にご紹介しましょう。

希少動物の宝庫「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」

日本で5つ目の世界自然遺産として登録された、奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島。これらの島々はかつてユーラシア大陸や日本の本州と陸続きだったのが、約200万年前に大陸から切り離されて現在の姿になりました。そのため大陸から渡った動物が、島のなかで独自に進化。

奄美大島と徳之島のアマミノクロウサギ、沖縄島北部に生息するヤンバルクイナ、西表島のイリオモテヤマネコのような絶滅危惧種に指定されている固有種が数多く生まれました。そんな生物多様性や希少な生態系があることが、評価されています。

奄美大島の大和村では、海に面した集落で地元の方々とふれ合い、マリンアクティビティ、宮古崎バイクツアーや島料理体験などを楽しめます。さらに夕日を見ながら地元の方とビールなどを片手に語らう体験なども実施。

沖縄島北部の国頭村(くにがみそん)では、CO2排出ゼロの小型電気バス「やんばる黄金(くがに)号」による森林を巡るツアーを展開。西表島では旅行客も気軽に参加できるビーチクリーン活動を毎月行うなど、各地でサステナブルな取り組みが行われています。

動植物が息づく豊かな緑の森林を巡ったり、約220種類ものサンゴが生息するという透明度の高い美しい海で過ごしたり、多用な生物の生命が息づく島々の自然をぜひ体感してみてはいかがでしょう。

奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島を訪れるときの注意点

奄美・沖縄地方では、スピード超過した自動車によって、希少動物が犠牲になるケースが少なくないそう。レンタカーを運転する場合は、必ず速度制限を守りましょう。また森林や山などを巡る場合は、現地を熟知したツアーガイドと巡るようにしましょう。

東京からのアクセス

奄美大島に行く場合
羽田空港または成田空港から奄美空港まで飛行機で約2時間5分~35分

沖縄に行く場合
羽田空港から那覇空港まで飛行機で約2時間30分

徳之島に行く場合
羽田空港から鹿児島空港まで飛行機で約1時間45分
鹿児島空港から徳之島空港まで飛行機で約1時間

西表島に行く場合
羽田空港から南ぬ島石垣空港まで飛行機で約3時間、バスに乗りユーグレナ石垣港離島ターミナルまで行き(約30分)、西表島までフェリーで約45分

ダイナミックな自然に囲まれる「知床」

オホーツク海に突き出るように位置する、北海道の知床半島。日本の百名山のひとつ、羅臼岳をはじめ、標高1,500m級の連山や、原生林に囲まれてたたずむ幻想的な知床五湖、断崖絶壁など、人の介入がほとんどない大自然を感じられる場所です。

1月から3月になると、オホーツク海の流氷が接近。真っ白な流氷原が広がります。この流氷の底についた植物性プランクトンが春になって大繁殖し、これが魚たちの栄養となり、ヒグマやキツネなどの食糧となっていきます。

そんな海から森、土までつながるダイナミックな食物連鎖が評価され、世界自然遺産に登録されました。知床半島では海岸線から約3km沖まで、世界自然遺産の登録地域となっているのは、このためです。

夏はトレッキング・ハイキング、ネイチャークルーズ、冬には流氷の上を歩く流氷ウォークのほか、流氷バードウォッチングなど、アクティビティがもりだくさん。江戸時代から鮭の産地である斜里町では、鮭の水揚げを真上から見学できる「ウトロ鮭テラス」が人気(見頃は9月~10月)。羅臼町では名産の羅臼昆布をおつまみに加工できる「昆布のひれ刈体験」や、羅臼川のほとりにある秘湯「熊の湯温泉」なども楽しめます。

知床半島を訪れるときの注意点

知床半島は、世界有数のヒグマの生息地です。2022年4月から、知床国立公園と国定公園の特別地域内で、ヒグマへの接近やつきまとい、エサやりは違法となりました。もちろん対象区域外であっても、ヒグマ以外の動物に対しても、接近したりエサをあげたりすることは禁止されています。

東京からのアクセス

羽田空港から、女満別空港または根室中標津空港までアクセスするのが便利です。

知床(ウトロ)に行く場合
女満別空港から、斜里バス 知床エアポートライナーまたは車で約2時間15分

知床(羅臼)に行く場合
根室中標津空港から車で約1時間10分

東アジア最大級のブナ原生林が広がる「白神山地」

日本で初めて世界自然遺産に登録されたのが、秋田県北西部から青森県南西部にかけて広がる白神山地。約13万haの広大なこの地には、東アジア最大級のブナ林が分布しています。しかも人の影響をほとんど受けておらず、約5,000万年前の北極周辺の植生に近い状態が保たれているそう。そのため、イヌワシやクマゲラといった絶滅危惧種も生息しています。

そんな白神山地でおすすめなのは、トレッキング。春や夏ならさわやかな緑に癒され、秋には黄金色に紅葉した美しい空間に包まれます。さらに、白神山地に流れる沢の中をジャブジャブと歩く沢歩きも人気。8,000年という果てしない時間をかけて育まれた豊かな自然の地を、自分の足で歩きながら体感してみてはどうでしょう。

白神山地を訪れるときの注意点

原生林の生態系を守るため、遊歩道や登山道から外れず、人の踏み跡を最小限に抑えましょう。もちろん林に生息する動植物を踏んだり、採取したりすることも行ってはいけません。

東京からのアクセス

羽田空港から、青森空港・大館能代空港・秋田空港へアクセスするのが便利です。

レンタカーを利用する場合
・青森空港から白神山地エリア(鯵ヶ沢町)まで車で約1時間5分、深浦町エリアまではさらに約50分
・大館能代空港から白神山地エリア(藤里町)まで車で約30分
・秋田空港からリムジンバスで秋田駅へ行き(約40分)、奥羽本線に乗って東能代駅で下車(約1時間)、そこから白神山地エリア(藤里町)まで車で約45分

電車を利用する場合
青森空港から空港連絡バスで弘前駅へ行き(約55分)、奥羽本線&五能線で白神山地エリア(鯵ヶ沢町)まで約1時間30分、白神山地エリア(深浦町)まではさらに五能線で1時間

独自の生態系が育まれる「小笠原諸島」

東京都港区にある竹芝桟橋から船に乗ること24時間。東京都心部から約1,000km離れた太平洋に浮かぶ大小30ほどの島々からなるのが、小笠原諸島です。誕生以来一度も大陸とつながったことがない海洋島で、独自の生態系を形成してきました。

メジャーなアクティビティというと、紺碧の海で楽しむダイビングやドルフィンスイム・ウォッチング、12月~5月頃にできるザトウクジラのホエールウォッチングがよく知られていますが、ぜひ陸地にも目を向けてみて。

原生林を巡り固有の動植物を観察したり、ビッグハートで有名な高さ約260mの千尋岩(通称ハートロック)の周辺をトレッキングしたり。小笠原の知られざる魅力に気づけるはずです。

ちなみに、南にある島というと豪華なホテルでくつろぐ“南国リゾート”を想像しがちですが、小笠原諸島はそのイメージとは対照的。「自然との共生」をうたい、日本のエコツーリズム発祥の地と言われる場所。ありのままの自然が残され、そこに自然とともに暮らす人々がいることをよく理解して、適した行動をとりましょう。

小笠原諸島を訪れるときの注意点

小笠原諸島では、島のなかで独自の生態系が育まれています。そのため外来生物を持ち込まないことが大切。島内外各所に設置されている泥落としマットや粘着ローラーで、靴、服などに付着した植物の種子や土を取り除き、島に持ち込まないようにしましょう。また、小笠原諸島のなかにはガイドを伴わないと上陸できない島や地域、入島自体が禁止されている島もあります。

東京(都心)からのアクセス

小笠原諸島への交通手段に飛行機はなく、船でのアクセスのみです。

東京・竹芝桟橋から小笠原諸島(父島)まで、船で約24時間(竹芝桟橋はJR山手線・京浜東北線 浜松町駅から徒歩約7分)

巨大杉が生育する神秘的な島「屋久島」

鹿児島からおよそ40分のフライトで辿り着く、屋久島。車ならおよそ3時間で1周できるほどの小さな島には、標高1,000m以上の山々が連なり、樹齢1,000年以上の巨大な杉が生育しています。

ここでのメジャーなアクティビティは、屋久島に自生する最大級の屋久杉である「縄文杉」をめざすトレッキング。推定樹齢が2,000年~7,200年と、気の遠くなるような太古からこの島を見守ってきた自然の偉大さに圧倒されるはず。

また、“苔むす森”の愛称で知られる白谷雲水峡は、ジブリ映画『もののけ姫』のモデルになったと言われる場所。屋久杉や照葉樹が生い茂るなか、深緑の苔に包まれた深い緑の森は、言葉にできないほど神秘的な世界が広がっています。

屋久島は降水量が多く、水力発電でほぼ100%の電力をまかなっています。そして、その水が島特有の生態系や景観の維持に役立ってきたことから、「水の島」の別名を持ちます。そこで島にある滝や渓流を巡ったり、温泉を楽しんだりするのもおすすめ。屋久杉の箸づくりや焼酎蔵の見学などの体験ツアーも人気です。

屋久島を訪れるときの注意点

森の生態系保全のため、屋久島の森に生息する苔を足で踏んだり、その上に座ったりすることはNG。また他の世界自然遺産の地と共通で、ごみは持ち帰る、山の水は汚さない、トレッキング前にトイレをすませるといったマナーを守りましょう。

東京からのアクセス

羽田空港から屋久島への直行便はなく、鹿児島空港を経由してアクセスします。

羽田空港から鹿児島空港まで飛行機で約1時間45分
鹿児島空港から屋久島まで飛行機で約40分

世界自然遺産を訪れるときのマナー

世界自然遺産「小笠原諸島」

Photo by Ogasawara Village Tourism Bureau

小笠原諸島(東京都小笠原村)

世界自然遺産の自然環境は、私たちが守り、次の世代に受け継がなければなりません。そのためには、マナーとして次のことを覚えておきましょう。

・ごみは持ち帰る
・出発前にトイレをすませる
・山・川・海の水を汚さない
・遊歩道・登山道から外れない
・動植物を採取しない
・野生生物に近づかない・餌をあげない
・ペットは持ち込まない
・外来種を侵入させない
・登山届(入林届)を提出する
・大雨・洪水・暴風などのときは入山・入林せず、安全を最優先に行動する
・地域のマナーや自然を熟知するツアーガイドと巡る
・危険生物から身を守るため長袖・長ズボンを着用し、肌の露出を減らす
・自然と、その地域の人々や文化を尊重する

またサステナブルツーリズムでは、旅行客が過度に訪れて現地の自然環境や住民に悪影響をもたらす「オーバーツーリズム」にならないよう、旅行の時期や行き先に配慮することも大切です。雄大な自然のエネルギーを肌で感じられる世界自然遺産の地を、サステナブルな旅の行き先として考えてみてはいかがでしょうか。

※掲載している情報は、2022年8月1日時点のものです。

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