老舗和食店「きじま」の挑戦の舞台裏 生産者・来店者との「結びつき」が社会を変える

きじま本陣入り口

日本の和食店ではじめてASC/MSCのCoC認証を取得し、サステナブルなシーフードや農産物、畜産物の導入を進めている「きじま」。事業戦略室長の杵島弘晃(きじま・ひろあき)氏に飲食店として追求するサステナブルな取り組みや、改革を進める理由を伺った。

Chiho Maezawa

Writer

東京在住。フリーランスエディター。地球にやさしく、生き物にやさしく、そして人にもやさしい暮らしを送るヒントを探して。日々、エコロジーやサステナブルにまつわるニュースに注目しています。決し…

2021.01.05

株式会社きじまは、神奈川県横浜市戸塚区にある「きじま本陣」に本社を併設し、市内を中心に6店舗の本格和食店「きじま」を展開している。創業40年を誇るこの老舗和食店はいま、飲食業界におけるサステナビリティの追求に挑んでいる。

前回は、2018年の入社と同時にこの挑戦の発起人となった事業戦略室長の杵島弘晃(きじま・ひろあき)氏の思いを伺った。今回は、食材の調達から店舗づくりやサービスまで、多岐にわたる取り組みの舞台裏に迫る。

料理の食材をサステナブルに 「きじま オーガニックチャレンジ」

天ぷらとお寿司、煮付け、茶碗蒸しにアオサのおすましがついた膳

取材時、特別に用意していただいたお膳。バナメイエビ(ASC認証)、国産のカキ(MSC認証)、メバチマグロ(MSC認証)、銀ダラ(MSC認証)が使用されている。さらに茶碗蒸しには平飼いの卵が使われている

「きじま」の経営理念は「食を通じて、持続可能な共同体の創造と発展に寄与する」ことであり、近年は「おいしい和食と豊かな海を、未来もずっと。」というスローガンを掲げ、さまざまな取り組みを推進。飲食店から発信できる持続可能社会への貢献として、第一にサステナブルな食材の調達に取り組んでいる。

水産物はもちろん、野菜、畜産物から調味料に至るまで、環境に配慮された素材を厳選し、調理。この取り組みを「きじま オーガニックチャレンジ」と名付け、取り組みの進捗をわかりやすくホームページで紹介している。

水産物にはとくに強い思い入れを持ち、2019年9月に日本の和食店としてはじめてASC/MSC認証(※1、2)のCoC認証を取得した。それ以降、サステナブルシーフードを使った料理を提供し、厳しい基準や条件をクリアしながら扱う量や種類を徐々に増やしている。

(※)ASC認証…環境と社会に配慮した責任ある養殖方法で生産された水産物であるかが審査される。
(※)MSC認証…水産資源と環境に配慮し適切に管理された、持続可能な漁業で獲られた天然の水産物であるかが審査される。

水産物のみならず農産物や畜産物にもサステナブルな視点を

「きじま オーガニックチャレンジ」のページで公表されている2020年11月の実績は、「きじま」で提供する料理に使われる水産物のうちMSC認証比率は7.50%、ASC認証比率については60%だ。来年中には、MSC認証比率を20%、ASC認証比率を100%にすることを目標とする。

農産物においても、環境に負荷をかけない農法で育てられた農産物の利用を推進している。有機栽培や無農薬・無肥料の自然栽培であることを基準に厳選した結果、お米は自然栽培米100%を実現。野菜は有機・自然栽培農産物使用比率が63.27%まで達している。

対象とする野菜は、キャベツ、にんじん、玉ねぎなど、料理の主役となる品目だけではない。付け合わせとして添えるパセリやチャイブをはじめ、皿に乗せるすべての野菜を有機栽培・自然栽培にするために、日々食材を探している。

肉や卵などの畜産物は、飼料に遺伝子組み換え作物や成長ホルモンを使用していないことはもちろん、収穫後に防カビ剤や殺虫剤を使わないPHF(ポストハーベストフリー)のものを選んでいることも条件としている。

さらにアニマルウェルフェア(動物福祉)も意識し、清潔で十分な広さが確保された畜舎や放牧地で育てられていること、鶏肉・卵であれば「平飼い」(※)されているものを厳選している。

(※)地面を自由に動き回ることで運動がよくできる養鶏法

調味料にも安心・安全を取り入れつつ、変わらない「きじま」の味を提供

「きじまの食の安心・安全への取り組み」としてホームページに掲載しているアイコン

「きじまの食の安心・安全への取り組み」としてホームページに掲載しているアイコン

魚、肉、野菜のほかに料理に使う重要な材料は調味料だ。安心・安全でありながら、これまで「きじま」がつくりあげてきた“おいしさ”を継いでいくにふさわしい、納得のいく無添加の調味料を見つける道のりは長い。

実際に全国各地の生産者を調べ、自分たちの口でテイスティングをして確かめていく。時には生産者と納得のいく調味料を共同開発することもあり、ともに開発を行なった生産者から「無添加でもここまでおいしいものができると思わなかった」と、きじまのこだわりに驚かれることもあるという。

厳選した調味料を調達したら、今度はそれを料理に取り入れていく壁が立ちはだかる。調味料をひとつ変えるというのは、レシピを一からつくりなおすようなもの。「きじま」の新しいチャレンジの舞台裏には「お客様に変わらぬ味を、変わらぬ価格で提供したい」という信念ひとつで乗り越えてきた、たゆまぬ努力が刻まれている。

収支のバランスを整えるために、社内システムやキッチン内へITを導入

安心・安全とサステナビリティをここまで総合的に追求してしまうと、収支のバランスが崩れるのではないかと誰もが想像するだろう。まさにその通りで、お米を筆頭に醤油や味噌、みりん、酒、お酢、油などありとあらゆる食材の仕入れ価格は倍~数倍となっていく。

この収支のバランスを整えるのに役立ったのは、創業者であり杵島氏の父である杵島正光氏が、運営に導入していたITシステムだ。これを大いに活用し、従業員の労働時間や店舗の予約状況、備品、レシピの原価調整までを徹底的に見直した。

社内のあらゆる“ムダ”を徹底的に削減したことで全体の収支の帳尻が合い、素材にこだわりつつもメニューの価格に据え置くことができたのだ。

こうした取り組みは、2020年に行われた「第2回ジャパン・サステナブルシーフード・アワード」で評価されリーダーシップ部門を受賞した。

この賞は、新しい取り組みで業界のパイオニア的存在になったプロジェクトに送られるものだ。「きじま」が水産物におけるサステナビリティだけでなく、水産物以外にもトータルでサステナビリティに取り組んできたことが評価された。

さらに外食産業に深刻な打撃を与えているコロナ禍においても環境に配慮した取り組みを継続しており、日本の外食業界を勇気づける存在であることも評価された。

店を起点にサステナブルへの関心を広げ興味を深めてもらう

きじま みなとみらい店

きじま みなとみらい店の店内。手前カウンターの角に、FSCの認証マークが刻印されている

2020年6月にオープンしたみなとみらい店は、こうした「きじま」の新たな挑戦を発信するアンテナスポットになっている。店内のカウンターや床にはFSC認証(※)マークが刻印され、アンティークのインテリアをリユースした内装に仕上げられている。

この「きじま みなとみらい店」は、日本のレストランで初めて「FSC プロジェクト認証」を取得した。

また、食事に来店した人たちが海の現状を知るきっかけになればと、6つある店の入り口には、いずれもWWF(世界自然保護基金)が製作した『おさかなハンドブック』が置かれていて自由に持ち帰ることができる。

店舗以外での発信としては、前述の「きじま オーガニックチャレンジ」のサイト上で、「きじま」が扱う食材をイラストでわかりやすく表現しており、顧客への取り組みの伝え方に熱意を感じる。杵島氏がこうした、顧客と取り組みとの接点をつくろうとする理由は「持続可能な社会に貢献」するうえで、ある信念があるからだ。

(※)FSC認証…環境、社会、経済の便益にかない、きちんと管理された森林からの製品を目に見える形で消費者に届け、それにより経済的利益を生産者に還元するための認証。

発信し、巻き込み、横のつながりを生むことでこれからの「結束」を生む

「きじま」がここまで根本的でサステナブルな改革を進める理由はなんだろうか。

「2015年に全世界でサステナブルな世界を目指すための目標『SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)』が採択されました。それ以降、日本でもSDGsの認知が広がっています。

SDGsという言葉の認知が広がることは悪いことではないと思います。でも、なぜそれをしなければいけない状況に至ったのか、という原因や本質を理解せず、”話題性”という理由ひとつでSDGsをサービスや商品に取り入れようというところが増えることには違和感を覚えています。

SDGsは2030年に達成することを目標としているものの、実際には達成が難しいと言われているのが現状です。私たち一人ひとり全員が向き合い力を合わせるべき切迫した状況なのであって、互いの取り組み内容を競い合うことではないと思っています。

この社会の温度感を変えていくには、個や小さな組織の力ではスピードに欠けます。大きな変化を巻き起こし、社会全体の動きを変えるには、大きな力が必要です。同じ価値観を持つ生産者、スタッフ、そしてお客様とで生み出す「結束の力」をもって、新しい社会の仕組みをつくっていきたいと思っているんです。

だから、あえてお客様にもちゃんと取り組みの中身を伝えたいのです。それを知ってお店に足を運んでほしいわけではなく、お店にきたお客様に『知って』帰ってほしいのです。

例えば、あえてFSC認証マークをお箸につけたこともそうです。お箸なら誰もが目にしますよね。年間何十万ものお客様のうち、このマークを見て“何のマークだろう”と思ってくださる方が一人でもいらっしゃれば、価値があると思っています」

「きじま」のチャレンジから生まれた波紋に賛同者の波も重なっていくことで、飲食業界や社会を変える大きなうねりが生まれるに違いない。数年先の業界や社会の姿に、期待を抱かずにはいられない。

※掲載している情報は、2021年1月5日時点のものです。

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