第3回:自然エネルギー導入前に知っておきたい、料金のことや業界が向き合う課題

ゼロから始める自然エネルギー

自然エネルギー100%の世界の実現を目指す新電力会社・自然電力㈱の中の人に話を聞き、電力のことを深堀りしていく連載企画。第3回となる今回は、実際に切り替えをしようと思ったときに生まれる疑問や、これまでの内容から一歩踏み込んだ課題点などをクリアにし、導入に向けた最後のステップをサポートする。

監修者: 自然電力

太陽光・風力・小水力等の自然エネルギー発電所の発電事業(IPP)、事業開発・資…

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2020.11.25
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「自然エネルギー」を導入するときに気になること

「ゼロから始める自然エネルギー」と題した本連載では、これまで2記事にわたって、自然エネルギーの基本的な知識から、企業担当者に向けた持続可能なビジネスとエネルギーの関係性まで紹介してきた。

自然エネルギーの大切さがわかっても、実際に自宅や事業所を切り替えるとなると、即決できない人も多くいる。生活と密接に関わる“電力”だけに、「停電しやすくなるのでは?」「料金体系はどうなっているの?」「契約手続きに時間がかかりそう」など、数々の心理的ハードルがある。

また、意識を高く持ち勉強をはじめると、業界が抱えるより大きな課題の存在に気づき、本当に自然エネルギーへの切り替えがベストな選択なのか迷ってしまう人もいる。太陽光パネルの廃棄物処理問題や、風力発電のバードストライク問題など、長い目で向き合っていかなければならない課題もまだまだ残っている。

地球環境に大きなインパクトをもたらすだけあって、ちょっとした疑問から国レベルの課題まで、クリアにすべき問題も少なくない自然エネルギー。第3回目の今回は、自然エネルギーに関するよくある質問に一問一答形式で答えながら、一つひとつ疑問を解消していく。

自然電力 エナジーデザイン部ゼネラルマネージャー 大迫直志さん

自然電力 エナジーデザイン部ゼネラルマネージャー 大迫直志さん

いま電力を使っていれば、誰でも自然エネルギーに切り替えられる

──自然エネルギーに切り替えたい!と思ったとき、一般のご家庭と店舗・オフィス・施設などで、考え方は一緒でしょうか。切り替えられない建物や、特別対応になるところはありますか?

基本的には、現在何かしらの電力をお使いであれば、どなたでも切り替えることができます。使用電力量や規模によって、従量電灯、低圧電力、高圧電力と種類があります。

一般家庭なら従量電灯、工場や大型施設などであれば高圧電力とお考えいただくとわかりやすく、電力会社から毎月届く料金明細を見ればご自身でも簡単にご判断いただけます。個人経営のお店や小規模オフィスなどは規模にもよりますが、低圧電力が多いです。一方で、一部のマンションでは一括受電といって、マンション全体で一括契約をしているために世帯ごとに切り替えができないことがあります。

また、弊社では電力を取引する市場がない沖縄と一部離島では電力供給を行っておりません。

──一部の地域を除き誰でも切り替えられるということですが、オール電化の建物やガスとセットで安くなっている場合は、逆に料金が高くなってしまうこともあると聞きます。

オール電化のご家庭は、多くの場合、オール電化プランといって深夜帯に安い電力を使えるプランを契約し、お風呂の湯沸かしなど消費電力の多い活動をこの深夜帯に行うようにしています。他事業者のプランに変更することで、深夜帯が割安なオール電化プランを使えなくなり、料金が高くつく場合があるので、弊社としては慎重に切り替えを検討いただくようご案内させていただいています。

ガスと電気をセットで申し込むことで割引きになっているケースでは、電気を切り替えることでガスの契約が残り、セット割引が効かなくなったり、違約金が発生したりする場合があります。

どちらも切り替えられないことはありませんが、シミュレーションをしっかり行い、ご納得されたうえで切り替えていただくことをお願いしています。

──もし予想以上に値上がってしまうなどがあれば、戻すこともできるんですか?

はい。解約はいつでも可能で、違約金等も発生しません。

実際のところ、安くなるの? 市場連動型料金体系のしくみ

──料金のお話がありましたが、やはり切り替えを検討している人が一番気になるのは「安くなるか」だと思います。実際のところ、どうなんですか?

市場連動型の料金なので、「確実に安くなります」とは言えませんが、最も安価なプランでは80%以上の方がお安くなると試算されています。弊社に限らず、一般的な新電力であれば、東京電力等の旧一般電気事業者と比較して、平均5%ほど安くなっています。これは一般的なご家庭で年間数千円〜一万円程度の電気代削減に相当します。

──環境に良くても、値上がってしまうとなると決断できない人も多いですよね。市場連動型の料金は、これまでの電力とどう違うんですか?

市場連動型と固定料金型との最も大きな違いは「料金の透明性」です。実は、電気にも「取引市場」があり、使う時間帯によって30分ごとに単価が変化しています。例えば、太陽光がたくさん発電する時間帯は供給が増えて単価が安くなったり、寒暖が激しい時間帯には冷暖房の需要が増えて単価が高くなったりするのですが、市場連動型ではその価格をダイレクトに電気料金へ反映させています。

──安くなりやすい電力の使い方や、相性の良い地域などはありますか?

市場連動型は、使う電力の総量が同じでも、使用する時間帯や季節によって料金が変わってきます。冷暖房を多く使う夏や冬のピーク時期は高くなる傾向がありますが、逆に春と秋は安くなります。夏冬のピーク時期の年間における日数を鑑みると、年単位で見たときには安くなることが多いです。

また、1日や1週間の中の変化で言えば、電力需要が多い平日の日中は料金単価が高くなりやすく、電力需要の少ない平日夜間や土日は安くなりやすいです。そのため、24時間稼働している宿泊施設や、平日夜間や休日などに営業する小売店などは電気料金が安くなりやすい傾向がありますね。ただ、あくまで傾向の話なので、年間の料金明細をご用意のうえ、料金シミュレーションをしてみることをおすすめいたします。

30年先まで見据えて 自然エネルギー業界が向き合う課題

地面に設置された太陽光パネル

──さらに大きな問題として、自然エネルギーを取り巻く課題も知っておきたい人がいると思います。いまはどんなことが課題でしょうか?

自然エネルギーの業界は未来に向かって進んでいる最中なので、当然ながら課題もあります。具体的には、発電設備の廃棄物問題や、太陽光パネルや風車による景観問題、発電用の風車に鳥が巻き込まれてしまうバードストライク等といった周辺環境への影響などがあります。それらの課題を解決するにあたっては、法整備や、環境への影響を事前調査する環境アセスメントの実施、そして何より地域の方々とのコミュニケーションが重要になります。

──ひとつずつ詳細を教えてください。太陽光パネルの廃棄が大きな問題になってくると聞きますが、なぜこのような状況になっているのでしょうか?

太陽光パネルの発電効率はは20〜30年で落ちるといわれていて、交換するとあの巨大なパネルを廃棄物として処理しなければなりません。リサイクルしようとすると、ガラスがその大部分を占める太陽光パネルはリサイクル費用の方が素材価値よりも大きくなってしまうため、多くの場合廃棄物として処理されます。

その処理には一定の費用がかかります。固定価格買取制度(FIT制度)が始まった2012年当初はこの費用に関する対策がされていませんでしたが、2018年から、建設費用の5%を撤去費用として積み立てておくことが事業者に求められるようになりました。

──発電自体によって生み出す価値と廃棄コストのバランスも考えていかなければなりませんね。

はい、廃棄コスト削減やリサイクル方法などは、経済産業省や環境省でいままさに議論されているテーマであり、業界全体の課題だと思います。全国的に大量の廃棄パネルが出てくる2030年代前半までに新たなリサイクル技術が出てくることも望まれます。

──太陽光パネルや風車の景観の問題は、消費者からも目に見える部分の課題なので、ダイレクトな声も届きやすいのではないでしょうか。どのような対策を行っていますか?

田園風景の中に巨大なパネルがあればどうしても目立ちますし、海岸沿いに人工的な風車が立ち並んでいればよく思わない方もいらっしゃいます。

太陽光パネルであれば、なるべく景観を壊さないよう木々で目隠しをしたり、目立ってしまう建物の屋根は避けて設置するなど考慮しています。長野県小布施町で小水力発電所(建屋の中に発電モーターがあるタイプ)を建設した際には、小布施の古い町並みをモチーフにして、風景にフィットするような建屋をデザインしました。

小布施町の小水力発電所

最近では屋根材と一体型の太陽光パネルや、黒や透明の色のパネルも開発されるようになってきました。まだそれほど実績はありませんが、将来的には太陽光パネルの外見も変わっていくと思います。

──コントロールが難しい問題だと思いますが、野生の鳥が風力発電用の風車に巻き込まれてしまうバードストライクの対策はどうでしょうか?

弊社では法律や条例の対象とならないときでも、自主的に環境アセスメントを行うようにしています。日本野鳥の会の本部や各地域の支部とも意見交換をしながら、鳥類へのリスクを最大限少なくした建設地選定をしており、野鳥の会へのヒアリング次第ではその土地での風力発電検討を行わないと決定することもあります。

未来志向で、1点ずつでも積み上げていく

──課題はまだまだあるようですが、それぞれに対して具体的に行っている対策がお聞きできたので、少し安心感を持って選択できそうですね。

現状で課題があるのは事実ですが、それぞれの事業者は日々解決法を模索しながら未来を見ています。ひとつ言えるのは、エネルギーの問題はいま、目の前のことだけでなく、20〜30年後まで想像して向き合っていく必要があるということです。

最初から100点を目指すのが難しくても、事業者としていまできるベストを尽くしつつ、それでも出てくる課題にはしっかりと向き合いながら、1点ずつでもより良い方向へと着実に積み上げていくことが大事です。いまはまだその途中にいると考えています。

事業者としてもいまできるベストを尽くしつつ、それでも出てくる課題にはしっかりと向き合いながら、より良い方向へと着実に積み上げていくことが重要と考えています。


まだまだ課題も残る自然エネルギー業界。未来をつくっていく産業には課題はつきもので、少しでもよい流れに向かうように少しずつ解消していくしかないということが、今回のお話から伺えた。私たち消費者もすぐに100点を求めずに、小さくてもいまできるベストな選択をしていくことで、未来に大きな変化を生み出せるかもしれない。

次回は、数ある電力会社の中からどのように選べばよいのか、見るべきポイントやそれぞれの特徴を紹介する。

記事監修/自然電力
https://shizendenryoku.jp/

※掲載している情報は、2020年11月25日時点のものです。

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