第1回:自然エネルギーとは? 普及のメリットや環境へのインパクトを自然電力に聞く

ゼロから始める自然エネルギー

毎日使う電力を「自然エネルギー」に切り替えることは、サステナブルな社会の実現のためにいますぐできるアクションだ。自然エネルギー100%の世界の実現を目指す新電力会社・自然電力㈱の中の人に話を聞き、電力のことを深堀りしていく連載企画。初回は、自然エネルギーの基本的なことや個人が切り替えることの大切さをわかりやすくお届けする。

監修者: 自然電力

太陽光・風力・小水力等の自然エネルギー発電所の発電事業(IPP)、事業開発・資…

「青い地球を未来につなぐ」を掲げ、日本全国でグループとして約 1 ギガワット(2019 年12月末時点)の自然エネルギー発電事業に携わっている。太陽光・風力・小水力等の自然エ…

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エレミニスト編集部

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2020.09.02
SOCIETY
学び

イベントや商品の魅力を広げる エシカルインフルエンサーマーケティング

自然電力に聞いた、「自然エネルギーとは?」

自然エネルギーのひとつである風力発電

「自宅や事業所の電力を、環境にやさしい自然エネルギーへ切り替えよう」

サステナブルやエコ、エシカルなどのキーワードに敏感なエレミニストであれば、そう言われて関心をもたない人のほうが少ないだろう。

2016年4月に電力小売が全面自由化され、私たちは服や食べものを選ぶように、好きな電力を選べるようになった。しかし「安定して供給されるのか?」「料金が高くなるんじゃないのか?」などの不安やとっつきづらさもあるのか、日本でのスイッチング(電力切り替え)率は2018年時点で20.5%とそれほど高くない。

自然エネルギーへの切り替えは、スマホで料金プランを変更するよりも簡単だ。停電しやすくなることもなく、電気料金はほとんど変わらないか、安くなることさえある。モノを買うより手軽にできて、それとは比べものにならないくらい貢献度の高いアクションなのだ。

自然電力」という電力会社は、東日本大震災直後の2011年6月に創業し、自然エネルギーの発電所づくりにゼロから取り組んできたパイオニアだ。電力を「つくる」だけでなく「つかう」人も増やそうと、最近では環境意識の高いブランドやNPO団体と連携し、コミュニティの共感を集めていくユニークな取り組みも行っている。

そんな自然電力の中の人に、今知りたい自然エネルギーのことを聞いていく全4回の連載企画。第1回目は、自然電力 エナジーデザイン部ゼネラルマネージャーの大迫直志さんに、自然エネルギーって何?という基本から話を聞いた。

自然電力 エナジーデザイン部ゼネラルマネージャー 大迫直志さん

自然電力 エナジーデザイン部ゼネラルマネージャー 大迫直志さん

“枯渇しない”ことが最大のメリット 地球のパワーで発電する「自然エネルギー」

太陽光、風力、地熱、水力、バイオマス。自然エネルギーとは、こうした種類の自然現象から得られるエネルギーのことを指している。枯渇しない半永久的な資源という意味では、より大きな枠組みで「再生可能エネルギー」とも言われるが、自然電力としては「自然エネルギー」という言葉を使っている。

風車やソーラーパネルを用いた発電所を建設し、地球のパワーを電力に変える。有限な化石燃料を消費せず、気候危機の要因となるCO2を排出することもないため、環境負荷が少ないことが一番のメリットだ。また、エネルギー自給率を上げることで国の安全保障になるという点にも注目すべきである。

「自然エネルギーは、太陽が出ていたり風が吹いていたりさえすれば発電できます。日本はもともと石油石炭を輸入に頼っているため、災害や国際危機に備えるという意味でも、エネルギー自給率向上に国が注目しています。自国内でエネルギーが賄えていれば、万が一のときでも電力供給が途切れる心配がなく、私たちの生活も保証されます。

自然現象に頼っているからこその不安定さを心配される声もありますが、今は需要と供給のバランスを取りコントロールする仕組みができつつあり、徐々に安定供給ができるようになっているんです」

環境配慮と安全保障の両面で、自然エネルギーの普及に世界中が関心を寄せている。気候危機への対策は1992年の地球サミットに始まり、2015年のパリ協定では世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて1.5℃に抑える目標が設定された。日本では、2011年の震災による原発事故も大きな節目となった。

「震災はやはり流れを変えるきっかけとなりました。自然電力は、その直後の2011年6月に創業した電力会社です。その後、2012年に固定価格買取制度(FIT制度)が始まり、日本中に自然エネルギーの発電所が作られるようになりました。

電力の小売自由化については、まず2000年に大規模な工場から始まり、次に企業や施設、そして一般家庭と、段階的に電気を選べるようになっていった経緯があります。発電事業に全力を注いでいた弊社が小売に参入したのも2017年なので、まだまだ自然エネルギーの電気を選んで使えるようになった歴史は浅いんです」

一世帯の切り替えで、杉の木年間100本分のCO2削減に

国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)は、その達成時期を2030年と設定している。日本が目指すのは、2030年までに国全体の自然エネルギーの割合を22~24%引き上げるという目標だ。

2030年、40年、50年と、その先も長い時間をかけて世界規模で取り組む問題に対して、個人の行動がどれほどの意味をもつのかと疑問に思う人もいるだろう。しかし大迫さんは、一般家庭の切り替えも大きなインパクトがあると話す。

「気候危機はいまこうしている間も刻々と進んでいて、世界では『急がないとまずい』『間に合わない』という空気になっています。以前、試算したことがあるのですが、一般世帯のCO2排出量は年間1.5tほどで、1日あたり4kg以上を排出している計算になりました。4kgの気体はかなりずっしりしていますよね。これを一世帯でゼロにできれば、杉の木100本が年間に吸収する量に相当するCO2を削減できます」

エコバッグを使ったり、マイボトルを持ち歩いたり、身近なアイテムを置き換えていく貢献はSNSシェアなどの形で見えやすく、共感も得られやすい。しかしそれらとは比にならないほどのインパクトを出せるのが、自然エネルギーへの切り替えというアクションなのだ。

「目に見えないから実感が湧かないと思いますが、自然エネルギーへの切り替えは、最も手軽なのに貢献度の高い取り組みと言えます。いまはスマホからでも10分ほどで申し込みができるんですよ。現在お使いの電力会社への連絡もいりません。難しく考えすぎず、やってみたら気持ちがいいと思います」

日本の文化や風土に適した方法で普及率を高めることが大切

広大な畑の奥に見える稜線

各国の発電電力量における自然エネルギーの割合は、欧州などでは25%を超える国も多く、ドイツに至っては30%を超えている。その中で日本の自然エネルギーによる発電量は、ダムのような大型の水力発電を除くと10%以下と、まだまだ普及が進んでいない。

増やしていかなければならないのは事実だが、日本が遅れているという意味にはならないというのが自然電力の考えだ。

「業界の人たちは志を持ってハードワークをしているので、遅れているとは言いたくない。日本なりのペースで進んでいるのだと思っています。

海外に比べて日本は、地形的に不利な面も多いんです。たとえば中国やアラブは、砂漠にドカンと発電施設を建てたりできますが、山がちな地形で国土の狭い日本ではそういう思い切ったことはできません。

発電所をひとつ作るのも、地域とのコミュニケーションを慎重に進めていくので、時間がかかるのは仕方のないことでもあるんです」

一方で、人々の危機意識や関心は、もう少し高めていける可能性もある。2019年に世界規模で起きた気候変動マーチや、若手環境活動家グレタ・トゥーンベリさんの演説のような盛り上がりは、日本にはあまりなじまない。その背景には、日本ならではの自然的特色や価値観もあるかもしれないと大迫さんは分析する。

「日本でも水害などが増えているため、もう少し危機意識が芽生えてもいいと思いますが、気候危機対策がその解消につながるという発想にあまりならないのかもしれません。

自然災害大国であるがゆえの、“慣れ”のようなものも感じています。もともと自然崇拝のカルチャーが根付いている日本人は、古来から『自然をコントロールできる』という考え方が薄いですよね。

文化や価値観の違いもあるので、ただ海外を見習おうというのではなく、日本なりのやり方を探っていく必要があるのではないでしょうか」

はじめはモノへの関心でも、自然エネルギーへの感度を高めていけるように

もともと日本は豊かな自然に恵まれており、自然エネルギー発電のポテンシャルが高いのも事実だ。海に囲まれた大陸は風力発電に有利だし、田舎のほうには耕作放棄地が多いため、農業と一緒に行うソーラーシェアリングの可能性にも満ちている。

「景観の問題をはじめ、クリアしなければならない問題は山積みですが、進めていくなかで日本にあったやり方が見えてきます。たとえば日本には、古くから水車がありました。水のパワーをエネルギーに変える水車がある風景になじんでいるのか、小水力発電(注:大規模なダム開発などを伴わない環境配慮型の水力発電の方式)は景観的にも受け入れられやすいようです」

自然電力が目指す「自然エネルギー100%の世界の実現」は、とてつもなく大きなミッションだ。しかし一方で、私たちが必ず達成しなければならない地球規模の目標でもあり、身の回りの小さなことから自然エネルギーに関心を持つ人も増えている。

「はじめはペットボトルは買わない、プラスチックストローは使わない、マイ箸やエコバッグを持ち歩くなど、身の回りのモノから興味を持ち、自然エネルギーのことを知っていく人も増えています。

特に海外のコミュニティに属している方は感度が高い印象がありますね。いまはそういう方たちの発信もあって、徐々にムーブメントが広がっている段階です」

難しいと思われがちな自然エネルギーだが、自然の力から生まれた電力で生活をしていくことは、日々の暮らしの充実感も高めてくれるに違いない。

この連載で自然エネルギーについてよく理解し、納得のいく選択をしてもらえるよう、次回は世界・日本の企業が行っている自然エネルギーの取り組みについてお伝えする。

記事監修/自然電力
https://shizendenryoku.jp/

※掲載している情報は、2020年9月2日時点のものです。

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