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インドネシア・スマトラ島のテッソ・ニロ国立公園は、絶滅危惧種スマトラゾウの生息地でありながら森林が急速に失われている地域だ。研究者はそこを「エコフェミニズムの実践の場」と呼ぶ。人とゾウの衝突が長年の課題であるこの地でいま、地元の女性農家の活動に注目が高まる。

Naoko Tsutsumi
エディター/ライター
兵庫県出身。情報誌、カルチャー誌、機内誌など幅広いジャンルの媒体の編集に携わる。コロナ禍にシンガポールへ移住。「住む」と「旅」の視点の違いに興味を持ち、地域の文化の違いを楽しんでいる。

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テッソ・ニロ国立公園は約8万1793ヘクタールと、東京23区より一回ほどの広大な面積だ。しかし2009年以降、原生林の4分の3以上がアブラヤシの小規模農園の開発などによって失われ、残された森はわずか約1万3000ヘクタールほどにすぎない。
生息地の縮小は、スマトラゾウにも深刻な影響を及ぼしている。2004年に約200頭いたテッソ・ニロのゾウは、2025年11月には約150頭にまで減少した。エサと生息地を失ったゾウは公園の外へと出ざるを得ず、農地を荒らして住民との衝突を招いてきた。
こうした状況のなか、緩衝地帯に暮らす女性たちが結成したのが「バタン・ニロ女性森林農家グループ」、通称ペルバニだ。約10年前に発足し、現在は30人以上のメンバーを抱える。彼女たちはゾウが嫌うとされる柑橘類を畑の周囲に植えて作物を守る一方、あえてゾウが食べられる果樹も別の場所に育てることで、追い払うだけではない共存の道を模索している。
この柑橘を使う発想のきっかけをつくったのは、公園の保全活動を支える地域団体「テッソ・ニロ国立公園財団(YTNTN)」だった。代表を務めるユリアントニー氏によると、着想の原点は、公園の内外に自生する柑橘の木々にだけゾウが一切手を出さない様子をスタッフが観察したことにあるという。柑橘特有の香りやとげをゾウが嫌っているのではないか、という仮説から、財団は柑橘を「守りたい作物」を囲む垣根として活用するアイデアにたどり着いた。
興味深いことに、ペルバニのメンバーであるエルニタさんも、これとよく似た気づきに独自にたどり着いていた一人だった。柑橘を植える以前から、近隣の柑橘畑にだけゾウが近寄らないことに気づいていたという。
YTNTNはこうした地元農家の観察や経験知を汲み取る形でペルバニと連携し、柑橘の植栽を野生生物にやさしい農法として本格的に広めていった。あわせて、ジャックフルーツやバナナといった果樹をゾウの「エサ場」として森林部に植えるよう助言し、住民とゾウの双方にとって利益となる解決策を目指したという。
さらにペルバニは、違法伐採や山火事を防ぐための森林パトロール、在来樹種の植林、水源や薬草の管理にも尽力。2024年には、こうした活動が評価され、インドネシア林業省から地域の保全・林業事業を実践する団体に与えられる「ワナウィヤタ・ウィディヤカルヤ」の認定を受けた。
リアウ大学の研究者らはこの緩衝地帯を「エコフェミニズムの空間」と位置づける論文を発表した。論文はペルバニの活動について、違法伐採や火災を防ぐための参加型パトロール、在来種の再植林、水源や薬用植物、地域の種苗の管理など、生態系と地域の健康を持続させるための多様な実践として紹介している。
筆頭著者で社会学者のミタ・ロサリザ氏は、ペルバニの女性たちはゾウとの衝突における単なる「被害者」ではなく、「創造的な問題解決者」であるとメディアに語り、こうした姿勢を従来とは異なる環境保護のあり方、すなわち「ケアの政治学」だと表現している。
ペルバニは保全活動だけでなく、メンバー向けの月例ジェンダー平等講座を開き、リーダーシップやスピーチ術といったスキルの習得、さらには貯蓄・融資の仕組みづくりにも力を入れている。政府もこうした取り組みを後押ししており、地域の生態系や資源管理について深い知識を持つ女性の参画が、保全活動の持続可能性を高める鍵になりつつある。
スマトラ島の女性農家たちが持続可能な農法と植林で森ごと未来を守ろうとしている姿から、ジェンダー平等と自然保護は切り離せない課題であることがうかがえる。誰かを「守る」対象としてではなく、知恵と経験を持つ担い手として迎えること。それこそが、持続可能な社会をつくる一歩なのかもしれない。
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