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世界でカカオ危機が深刻化するなか、スイスのビュラー社が代替チョコレート原料の開発を後押しする「ニュー・チョコレート・チャレンジ」を実施した。世界のスタートアップ企業が参加し、カカオに依存しない「カカオフリーチョコレート」づくりが本格的にスタートしている。

Ouchi_Seiko
ライター
フランス在住。美容職を経て2019年よりライターに。居住地フランスのサステナブルな暮らしを手本に、地球と人にやさしい読みものを発信。
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近年、世界のチョコレート産業は深刻なカカオ危機に直面している。カカオ豆の国際価格は、2025年に過去最高値を更新。その背景にあるのは、気候変動による異常気象と病害の拡大だ。
カカオの主要生産地である西アフリカでは、2024年に32℃を超える日が例年より6週間も多く、その影響で収穫量が大幅に落ち込んだ。とくにカカオの二大生産地であるコートジボワールとガーナでは、1960年以降、カカオの森林の85%以上が失われており、環境への影響が問題視されている。
さらにチョコレートは、生産工程における温室効果ガス排出量が、牛肉に次いで多い食品と言われている。さらに、板チョコレート1枚に平均1,700リットルの水が費やされるなど、環境への負荷が大きい。カカオの代替原料が積極的に求められているのは、こうした複合的な要因があるためだ。
この流れを受け、スイスの製造大手ビュラー社は2025年、「ニュー・チョコレート・チャレンジ」を立ち上げた。これは、カカオを使わない新しいチョコレート原料の開発を支援するプログラム。世界のスタートアップ企業を対象に、代替原料の提案を募集するというもので、2025年8月にグローバル公募が開始された。最終的には、50社を超える企業が応募した。
「ニュー・チョコレート・チャレンジ」では、カカオを使わない「カカオフリーチョコレート」をつくるため、以下の3つの技術アプローチに焦点が当てられた。
・植物由来素材や食品副産物を活用してチョコレートのような風味と食感を再現する方法
・発酵によってチョコレートのような香り・脂質を生産する方法
・カカオ細胞を直接培養する方法
9月に審査が行われ、翌10月には上位に選ばれた3社がスイス・ウツヴィルのビュラー研究施設に招かれた。いずれの企業も、環境負荷の低い原材料を採用している。
たとえば、3社のうちの一つ、イタリアのForeverlandは、大量に廃棄されるいなご豆を発酵させた「Choruba」を開発し、水使用量を90%、温室効果ガス排出量を80%削減した。
フランスのGreen Spot Technologiesは、ブドウの皮やソラマメ繊維を発酵させてチョコレートのような風味を生み出している。
また、同じくフランスのKawa Projectは、ビール醸造所で出る使用済みコーヒーかすを、カカオパウダーの代替品として加工している。
2025年11月には、米国シカゴでショーケースイベントが開かれ、ビュラー社の研究施設ででき上がったカカオフリーチョコレートが関係者向けに披露された。今後は、素材のスケールアップと商業化に向けた取り組みが継続されるという。
「ニュー・チョコレート・チャレンジ」の開催にあたっては、Hershey’s、Nestlé、Marsといった大手チョコレート企業がビュラー社と連携している。これらの企業が参加する背景にあるのは、カカオ豆価格の高騰や、供給不安が長引いていることに他ならない。
実際、Hershey’sは2025年に大幅な値上げを発表し、業績予測を下方修正した。一方でMarsは、遺伝子編集技術を使って病害・気候に強い新品種の開発をすすめるなど、スタートアップ・大企業に関わらずカカオ危機への対応が求められている。
今回の「ニュー・チョコレート・チャレンジ」は、そんな動きを加速させる重要なステップになるのではないだろうか。
※参考
Three Cocoa-Free Startups Win Bühler’s New Chocolate Challenge|green queen
Bühler's New Chocolate Challenge|Bühler
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