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化粧品に欠かせない、パーム油やカカオバター、シアバターなどのオイル。これらを実験室でつくる「ラボグロウン・オイル」の研究がフランスで行われている。伝統的なオイルの採取法は森林破壊や生態系への影響などが懸念されており、ラボグロウン・オイルが将来持続可能な調達手段となるかもしれない。
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パーム油はアブラヤシの果実からとれるオイルで、食料品から、化粧品、シャンプー、洗剤などの日用品まで、さまざまなものに使われている。低コストで利便性の高いパーム油は、世界でもっとも消費量の多い油とも言われる。
だが、そのニーズの高さから、インドネシアやマレーシアなどのパーム油生産国では熱帯雨林を伐採し、アブラヤシのプランテーションを開発。熱帯雨林が大幅に減少しているのが現実だ。
熱帯雨林は大気中のCO2を吸収してくれる存在であるため、気候変動の加速が懸念される。加えて、熱帯雨林で生息する動植物などの生態系への影響、強制労働や児童労働についても考えなければならない。
同様に、カカオの種子からとれるカカオバター、シアの木の実からとれるシアバターなども、伝統的な採取法は栽培地域の森林破壊や生物多様性の損失につながっていることが指摘されている。
そのため、EUでは森林破壊に関連した農産物や製品のEUへの輸入を禁止する措置を講じているのだ。
そこで開発されているのが、実験室でつくる「ラボグロウン・オイル」だ。
パリに拠点を置くバイオテクノロジー企業SMEYでは、ラボで培養されたパーム油、ココアバター、シアバターを生産している。
SMEYの生産方法は、酵母を用いて、発酵技術とAIを組み合わせたもの。「NOY」と名付けられたライブラリには、1,000種類以上の非遺伝子組み換え酵母株が集められ、AIによってニーズに合わせて最適な脂質組成のオイルをつくる。
生産にかかる期間は約30日。自然のパーム油などは、採取までに18~24か月がかかるため、大幅な時間短縮になる。
同社を創業したヴィクトル・サルタコフ=コルゾフ氏は、「これまで輸入に頼らざるを得なかった化粧品や医薬品のオイルについて、現地生産を可能にする。具体的な例としては、ヨーロッパの高級ビューティーブランドが使用する化粧品グレードのツバキオイルを、アジアからの調達のみではなく、現地生産することが挙げられる」と語っている。
ただ現在の課題は、味や触感、組成といった性能を天然のものに近づける必要があること。さらに、コストや消費エネルギーの問題もある。
「一部のプロセスで多くのエネルギーが必要であり、再生可能エネルギーで稼働させない場合、持続可能性の向上が相殺される可能性がある」と、ヴィクトル・サルタコフ=コルゾフも氏指摘している。
コスト面では、天然由来のオイルに比べると、ラボグロウン・オイルの方が価格が高いが、これは技術の進歩とともに下がる可能性が高い。
また、仮にラボグロウン・オイルの方が天然のものよりも優れていたとしても、生活者は天然成分を好む傾向にあることも、ひとつのハードルとなる可能性がある。
だが、森林や生態系のことを考えると、ラボグロウン・オイルという選択肢が増えることは将来の社会にとって歓迎するべきことと言えるかもしれない。
※参考
Can lab-grown oils offer a sustainable alternative to ingredients linked to deforestation?|euronews.
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