Photo by Turlock Irrigation District
灌漑用水路の上にソーラーパネルを設置する試みが、米カリフォルニア州で進んでいる。ソーラーパネルが水面に影をつくることで水の蒸発を防ぎ、同時に太陽光エネルギーを生み出す。現在は実験段階にあるが、成果しだいでは世界に広がる可能性を秘めている。
聖京香/Kyoka Hijiri
ライター
イギリス在住25年のフリーランスWebライター。好きなものに囲まれながらも無駄を失くし、丁寧かつサステナブルな暮らしを目指して精進中。好きなものは猫と本と森林浴。
Photo by Turlock Irrigation District
カリフォルニア州モデスト郊外では、灌漑用水路の上部に幅約33メートルの太陽光パネルが設置されている。これが「プロジェクト・ネクサス(Project Nexus)」だ。
再生可能エネルギーのひとつとして太陽光発電は世界で導入が進む。しかし、ソーラーパネルの設置には土地が必要となるのが問題だ。そこで、農業に欠かせない灌漑用水路の上部の空間を利用したのが、このプロジェクト。
ソーラーパネルによって灌漑用水路には日陰ができる。強い日差しによって干ばつが発生するリスクがある地域では、発電に加えて水資源の保護を両立させる。さらに水路の藻類の発生も抑え、水面からの冷却効果でソーラーパネルの発電効率を高めるのだ。
このプロジェクトのきっかけは、2017年にソーラー・アグリッド社を設立したジョーダン・ハリス氏が陽射しの強いこの地域の灌漑用水路を目にしたこと。インドで灌漑用水路の上部にソーラーパネルが設置されていることを知り、同様のことができると思い、2021年にカリフォルニア大学マーセド校へ研究を依頼した。
その結果、州内約6,400kmの灌漑用水路にソーラーパネルを設置すれば、年間約2400億Lの節水が可能と判明。これは200万人以上の家庭での使用量に相当する。さらに、地面や屋根に設置する従来型より、ソーラーパネルの効率が20~50%も上がると期待できることもわかった。
カリフォルニア州でのプロジェクトは全米で2例目で、1例目は2024年10月にアリゾナ州フェニックス近郊で始まった。全長800メートル超のソーラーパネルは、この地域にくらす先住民コミュニティに利益をもたらした。
この成功を踏まえ、カリフォルニア州水資源局や技術開発業者・TID(Turlock Irrigation District)が協力し、州は2,000万ドル(約30億円)を投じて実証事業を推進。2025年8月には1.6メガワット規模の設備が完成し、農業地帯にクリーン電力を供給し始めた。
米国の環境団体は、約13,000kmにおよぶ国有の灌漑用水路にソーラーパネルを設置すれば、約25ギガワットのエネルギーを供給できると試算している。これは約2,000万世帯分をまかなえる電力であり、同時に1000億L規模の水の蒸発を防げる可能性があるという。
一方で課題も少なくない。水路上での施工は技術的に複雑で、コストは地上設置型より高くなる。横幅の広い灌漑用水路では支柱構造が必要となり、水流を妨げる恐れもある。さらに、長期的な維持管理や修繕の難しさ、水質や景観への影響といった懸念も残る。利点と欠点がせめぎ合う状況にあるのが現実だ。
水とエネルギー、どちらも欠かせない資源を同時に守るプロジェクト。結果しだいでは、全米、さらには世界に広がる可能性を持つ。今後のプロジェクト展開に注目が集まりそうだ。
※参考
California’s first solar-covered canal is now fully online|Canary Media
California’s next big energy experiment is working|SFGATE
Pilot to study solar covers for irrigation canals sheds light on future solutions|American Water Works Association
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