未来を担う“みんなの発電所”−ソーラーシェアリング【特集:再エネのいま】

匝瑳おひさま発電所

Photo by 市民エネルギーちば  <PROMOTION>

市民エネルギーちばの東光弘氏によると、日本の畑の18%がソーラーシェアリングになれば、現時点での日本の消費電力はまかなえるという。就農者の高齢化や耕作放棄地の増加が課題になるなか、太陽光パネルの下で耕作を行うソーラーシェアリングは、エネルギー問題だけでなく地域課題の解決策となるのではないか。この記事では、東氏へのインタビューを通してソーラーシェアリングの具体的な事例や取り組みについて言及するとともに、未来への可能性について語っていただく。

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2023.06.12
Promotion: 一般社団法人Media is Hope

地域の生態系と調和するソーラーシェアリング

東光弘氏

市民エネルギーちば株式会社・代表取締役、環境プロデューサー、株式会社TERRAの東光弘氏。取材当日はあいにくの天気だったが、太陽光パネルの足下では、さまざまな植物が青々と茂り、恵みの雨を受けていた。

再生可能エネルギーのいまについて改めて考える特集企画の後編では、太陽光発電をしながら食料問題、気候変動の解決策にもなると注目されているソーラーシェアリングについて紹介する。

【特集:再エネのいま】知っておきたい再生可能エネルギーの現状

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千葉県・匝瑳市で太陽光発電と農業を同時に行えるソーラーシェアリングを運営、普及している市民エネルギーちば株式会社の代表取締役・東光弘氏に話を聞いた。

「ソーラーシェアリング=営農型太陽光発電だと誤訳されてしまっているんですが、実は違うんです。日本語のソーラーシェアリングとは、もともと長島彬さん※1が発案した“空間を立体的に使ってソーラー(太陽光)をシェアしよう”という概念でつけられた名前で、必ずしも太陽光発電の下で行うことは農業に限られたものではありません。ただ、いま農業を行うことに一番可能性があるのは事実です」(東氏)

「誤訳されていようが、どっちでもいいんですけどね」と笑いながら話すものの、譲れないこともあるという。それは、ソーラーシェアリングには光を遮断しない細い太陽光パネルが重要ということだ。
「なぜ細いものがいいかというと、その下に届く太陽光を木漏れ日に近づけていきたいんです。環境への影響を与えるものではなく、なるべく自然界にあるような形にしたいんですよね」(東氏)

匝瑳ソーラーシェアリング太陽光パネル

太陽光パネルには間隔が十分にあり、日差しが土にも届くように設計されている。耕作を前提としているためトラクターが通れるよう、高さが確保され3mの位置に設置されている。

このように語る背景には、ソーラーシェアリングを推進する活動と導入におけるテーマとして、東氏が「生態系との調和」を重視しているからだ。細いパネルを一定の間隔を開けて設置すれば作物に必要な日射を確保することができ、景観の変化を最小限に抑えられるので人々も受け入れやすい。これらが普及していくための重要なファクターになるのだ。技術の進歩とともに、パネルは薄く軽くなり、東氏の思い描く“木漏れ日”が実現する日も近いようだ。

市民エネルギーちば太陽光パネル

ここ数年でも技術が進み、太陽光パネルの軽量化・コンパクト化が可能になっているという。

地域とともに進む市民エネルギーちばの取り組み

東氏が立ち上げた「市民エネルギーちば株式会社」は、千葉県匝瑳市に本社を構えており、その取り組みは発電のみならず地域起こしまで及んでいる。

匝瑳おひさま発電所の空撮

Photo by 市民エネルギーちば

匝瑳市飯塚・開畑地域。元々は耕作放棄地が4分の1を占め、不法投棄されたごみが溢れる畑もあった。

匝瑳市飯塚・開畑地域は40年以上前に山を削ってつくられた80haにもおよぶ広大な農地だ。しかし農家の高齢化で耕作放棄地や荒廃農地が増え、そのうえ一部の畑にはおびただしい不法廃棄物が投棄されるなど、簡単には解決できない問題が山積みだった。それを救ったのが東氏達が始めたソーラーシェアリングだ。ソーラーシェアリングの発電設備から拠出金を集めて財源を確保することができるようになり、ごみを回収し処分。整備することで不法投棄されることはなくなった。

その基金で新規の援農支援や子どもたちの教育支援もなされている。ほかにも耕作を請け負う地元の農業生産法人の安定につながったり、ソーラーシェアリングの畑で育てた大豆で加工品開発や販売が行われるようになったりと、地域がどんどん活性化し、いまでは若い世代が匝瑳市に移住するまでになった。これが、東氏が2つ目のテーマに掲げている「地域社会との調和」だ。

大豆コーヒー

市民エネルギーちばの農業は、化学肥料や農薬を使わない有機農法が基本。20haすべて有機JASを取得し、うち1割ほどで表層土壌中の炭素貯留の効果が高い不耕起栽培を実施している。ソーラーシェアリングの畑で栽培された大豆を使用した「大豆コーヒー」など商品化にも力を入れている。

「わたしはもともと30年前から有機農産物の流通に携わっていました。その頃から名刺に“大根からソーラーパネルまで”と書いていて(笑)。実際に野菜の隣に太陽光パネルを置いて売っていたんですが、2011.3.11の原子力事故で多くの農家さんが廃業しなければならない状況を目の当たりにしてしまった。その時、自分の中で間に合わなかったという想いが強く残ったんです。

ソーラーシェアリングの事を知った時に、これなら農業と両立できると確信したので、市民発電所として取り入れて地域とつなげようと決めました。そして自分自身も地域とともに生きていかなければダメだと思い、会社を立ち上げて半年後に千葉市から設備のある匝瑳市に移住したんです。結果、多くの人が集ってくれる場所になってよかったですね」(東氏)

東氏はソーラーシェアリングを全国に展開する手助けをするときにも、「地域社会との調和」を重要事項に掲げ、匝瑳市をモデルケースにしているそうだ。

ソーラーシェアリングのメリットと企業の導入事例

農業を行うソーラーシェアリングのメリットは、農業従事者が畑の上で発電した電力を売買することによって経営を多角化できることだ。もちろんメリットは農業従事者に限ったことではない。CO2の地中固定や遊休農地の有効活用、雇用創出、地域間のつながり強化、さらには地方活性化など、環境や社会・地域へのさまざまな利点が生まれてくる。

また企業がオフサイトコーポレートPPAでソーラーシェアリングを導入することにより、環境教育やブランド価値の向上、ワーケーションに代表されるような企業と地方の提携村的環境構築など、あらゆる付加価値を得ることができる。

「わたしは人間のあり方もひっくるめて様態そのものがソーラーシェアリングだと捉えているんです。人々の笑顔が溢れる再エネじゃなければ、意味がないんですよね。だから、みんなが笑顔になるためのプロセスの一つが自然エネルギー(再生可能エネルギー)なんです。ただお金を出して電気を買うだけではなく、田舎との交流が起きて楽しそうだな、とポジティブに思ってもらえるといいですね」(東氏)

そして、こうした想いに賛同した企業が、続々とソーラーシェアリング+オフサイトPPAを進めている。代表的なのはパタゴニア・インターナショナル・インク日本支社や、株式会社サザビーリーグリトルリーグカンパニーだ。

パタゴニア・インターナショナル・インク日本支社

株式会社サザビーリーグリトルリーグカンパニー

匝瑳おひさま発電所

匝瑳おひさま発電所開所式

Photo by 市民エネルギーちば

2023年4月22日に「匝瑳おひさま発電所」開所式が開催された。耕作放棄地約64,500m2を利用し、地域共生型ソーラーシェアリングとして国内最大規模となった。

そして2023年4月からは、ENEOSイノベーションパートナーズ合同会社とSBIエナジー株式会社、株式会社アグリツリーとの共同事業となる「匝瑳おひさま発電所」が商用運転を開始した。3社が共同出資を行い、株式会社千葉銀行から「ちばぎんSDGsリーダーズローン(グリーンローン型)」によるサステナブルファイナンスを受ける形で実施している。

この発電所は、飯塚開畑地区の耕作放棄地を利用して発電出力1,920kW、パネル出力2.702.8kWの太陽光発電を行うとともに、下部の農地でJAS有機100%を中心とした穀物栽培を実施するもの。脱炭素化や環境保全のみならず、雇用の創出や食料自給率の向上を目指す「地域共生型再生可能エネルギー事業」だ。これこそが、まさに東氏のビジョンにある”人の笑顔が溢れる再エネ”と言えるだろう。

ソーラーシェアリングのこれから

TWIGGYのソーラーパネル

Photo by TERRA

渋谷区神宮前のヘアサロンTWIGGYの屋上にソーラーパネルとパーゴラを組み合わせたTOKYO OASISの初号機を設置した。

農業を行うソーラーシェアリングの普及が加速する一方で、市民エネルギーちばのグループ会社「TERRA」では、都市部のビル屋上などにオンサイトPPAの太陽光発電を導入するプロジェクト「TOKYO OASIS」を進めている。風圧に強く、曇りの日でも発電できるなどさまざまな特性を持つペロブスカイト太陽光電池※2を使用した、軽量かつ高い耐久性を誇る新システムだ。脱炭素電源を確保しつつ強い日差しを避けられる上、屋上緑化にも違和感なくマッチするビジュアルとあれば、今後さらなる導入が進むだろう。これこそ、東氏が3つ目のテーマに掲げている「一般化および発展、応用」だ。このように、ソーラーシェアリングの波はますます広い地域へ発展してくことが考えられる。

最後に東氏は、未来の社会についてこう話してくれた。

市民エネルギーちば東氏

「わたしがビジュアルにこだわるのは、広まること=人目に触れることだからです。エネルギーの問題だけではなく、ソーラーシェアリングのような文明が、気がついたら普通になっているような社会をつくるのが目的なんですよ。

なぜ電気に携わっているかと言うと、解決すべき多くの社会課題が存在する中で電気は最初に100%達成できることだからです。1つの課題が解決できたら、例えばガソリンや貧困の問題など、他も解決していけることをみんなで体感していきたい、つまり問題は解決できるという感覚をトレンドにしていきたいわけです。再生可能エネルギーはそのうちの1つのツールだと捉えています。

ソーラーシェアリングはメリットが多くありますが、もちろん完璧なものではありません。でも、連続性をもって取り組んでいると、教えてもらったり気づいたりすることが増えていきます。それは、つまり変化が増していくということです。文明も個人もそういうマインドセットになっていったらいいですよね」(東氏)

未来への可能性を秘めたエネルギー施策

地球や気候の変化は、私たちに変化を求めている。エネルギーに関しても、これまでのように、他人事ではいられない状況だということだ。東氏の言葉通り「電気は最初に100%達成できる」エネルギー施策であり、ソーラーシェアリングを取り入れることで、エネルギー供給が地球課題の解決のひとつとなり得る。それはまさに未来を担う発電所といえるのではないだろうか。

いま、多くの企業や自治体が義務感を募らせる中で「人の笑顔が溢れる再エネじゃなかったら意味がない」と断言する東氏の言葉にハッとさせられた人も多いことだろう。明るい未来を目指していく過程で何を選びどう行動するか。本質を真剣に考える人が増えてきていることは、東氏の元に集まる企業や自治体が年々増加している事実が物語っている。

※1 日本で初めて「ソーラーシェアリング」を発案。『日本を変える、世界を変える! 「ソーラーシェアリングのすすめ」』著者
※2 ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造を持つ化合物を用いる「ペロブスカイト太陽電池」のこと。塗布や印刷技術で量産でき、ゆがみに強く軽い太陽電池の実現が期待されている。参考:産総研マガジン
『ペロブスカイト太陽電池とは』

撮影/朴 玉順 取材・執筆/河辺さや香 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部) 協力/一般社団法人Media is Hope

※掲載している情報は、2023年6月12日時点のものです。

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