駐車場を路上公園に ウィーン市民主導の緑化プロジェクト

ウィーン市の駐車スペースを路上公園に

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ウィーン市民によってつくられる低コストの路上公園「グレッツロアーゼ」。市から助成を受けて、市民が自らの手で、駐車スペースを交流の場へと生まれ変わらせる。緑化によるアスファルト削減は、車に依存する生活からの脱却を促進し、熱波対策にもつながるという。

岡島真琴|Makoto Okajima

編集者・キュレーター

ドイツ在住。フリーランスの編集者・キュレーター。変わりゆく都市ライプツィヒとそこに生きる人々の物語を記録するニュースレター「KOKO」(https://koko-de.beehiiv.c…

2025.09.11

駐車場から生まれる「近隣のオアシス」

ウィーン市の駐車スペースを路上公園に

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オーストリアのウィーン市では、「グレッツロアーゼ」と呼ばれる小さな路上公園が増えている。これは、木製デッキやプランターなどを道路の一部に設置して小さな公園スペースをつくる市民主体の取り組みであり、2015年以降拡大を続けている。現在では、市内に100か所以上のグレッツロアーゼが存在するという。

設置を希望する市民は、市の資金で運営される団体「ローカル・アジェンダ21」から最大5000ユーロ(約86万円)の助成を受けられるほか、事務手続きなどのサポートも得られる。

設置経験者によると、当初は近隣住民から「なぜ駐車場をつぶすのか?」などと懐疑的な目でみられたこともあったが、完成すると地域の交流の場として歓迎されるようになったという。

なお、グレッツロアーゼの設置者は、夏場の水やりや冬の除雪作業、ごみの片付けなどの責任を負う。また同地域から引っ越す際には、新しい管理者を見つけるか、自ら解体しなければならないなど一定のルールはある。だが、市民主導かつ低コストで都市のなかに「新しい居場所」を生み出す方法として注目されている。

安価で市民主導の「タクティカル・アーバニズム」

運営団体ローカル・アジェンダ21の代表サブリナ・ハルキッチ氏は、グレッツロアーゼを「タクティカル・アーバニズム(戦術的な都市生活の文化)」、すなわち小規模で短期間の実践を積み重ねることで、長期的な都市の変化へとつなげる市民主導の都市改善運動の一例であると説明する。

例えば、同団体は2021年に学校と連携して駐車スペース4台分のグレッツロアーゼを設置し、その成功を受けて翌年には通り全体を歩行者専用化することに成功した。

ハルキッチ氏は「人々が一度でも『状況をよくできる』と実感すれば、より大きなビジョンを持つようになる」と語り、こうした小さな試みが大規模な都市空間の変革につながる可能性を示している。

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ウィーン市の駐車スペースを路上公園に

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ウィーンは環境や住みやすさのランキングで常に高得点を獲得しているが、実はロンドン、パリ、ベルリンを含む26都市よりも車での移動が多い。

複雑性科学ハブの研究者、ラファエル・プリエト=クリエル氏によると、ウィーンは公共交通網が優れているにもかかわらず、移動の4分の1が自家用車で占められ、また都市部のアスファルトは猛暑を悪化させているという。

そしてグレッツロアーゼの設置は、駐車スペースを削減することで車依存のライフスタイルの是正につながり、アスファルト削減で熱波対策にもつながると指摘している。

こうした環境面での利点だけでなく、グレッツロアーゼは住民同士が気軽に挨拶を交わし、週末には友人同士が集まる場となっている。都市に点在する小さなオアシスは、少しずつ、しかし確実に都市の姿を変えていく。

※掲載している情報は、2025年9月11日時点のものです。

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