Photo by AELTC/Joe Toth
7月13日の男子シングルス決勝で幕を閉じた、ウィンブルドン選手権2025。テニスの殿堂と呼ばれるこの大会では、2030年までの脱炭素の目標を掲げ、プラスチック使用量や廃棄物削減などのテナビリティ戦略を推進。誠実さと卓越性を重んじる姿勢で、持続可能な大会運営に取り組んでいる。
聖京香/Kyoka Hijiri
ライター
イギリス在住25年のフリーランスWebライター。好きなものに囲まれながらも無駄を失くし、丁寧かつサステナブルな暮らしを目指して精進中。好きなものは猫と本と森林浴。
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Photo by AELTC/Joe Toth
世界的なスポーツイベントは、しばしば大量のエネルギー消費や廃棄物の発生、CO2排出など、環境に大きな影響を及ぼす。
イギリスのロンドンで毎年開催されるウィンブルドン選手権(以下、ウィンブルドン)は、テニスの四大大会のひとつで、観客動員数も多く運営の規模も大きいため、その影響は無視できない。
テニスの聖地と呼ばれるウィンブルドンは、これまで伝統を重視してきたが、近年では環境意識の高まりを受け、持続可能性を重視した大会運営へと大きく舵を切った。芝のコートの維持、水資源の使用、電力の供給、食材調達にいたるまで、すべての面で持続可能性が求められている。
Photo by AELTC/Chloe Knott
ウィンブルドンは「2030年までのネットゼロ(温室効果ガスの排出実質ゼロ)」の達成を目標に掲げ、さまざまな施策を展開している。代表的な取り組みとしては、次のものがある。
会場で使用する電力は100%再生可能エネルギーに切り替えられており、太陽光や風力エネルギーが活用されている。
植樹をはじめ、緑の屋根、緑の壁などの導入で、生物の生息地をつくり、地域の生物多様性の向上に配慮。将来のウィンブルドン・パーク・プロジェクト全体で生物多様性を10%増加させることを目指している。
Photo by AELTC/Ben Queenborough
地域住民が参加して、自然や生物について学ぶイベント「「ネイチャーウィークエンド」をLondon Wildlife Trustとの協力のもと、開催している。
使い捨てプラスチックはほぼ廃止され、再利用可能なカップの利用や、給水ステーションの設置も行われている。
地元の農産物を使ったケータリングや、ベジタリアン・ヴィーガン対応メニューの導入など、食に関する取り組みも強化。約1,000kgのあまった食品は地元の慈善団体に寄付され、それ以外の食品廃棄物は堆肥化。使用済みのテニスボールは再利用または寄付され、ラケットのガットは回収されてリサイクルされている。
Photo by AELTC/Ian Walton
こうした取り組みは、ウィンブルドンのブランド価値を高めるだけでなく、他の大会やスポーツイベントにもプラスの影響を与えているとみられる。
実際、オーストラリアの「スポーツ環境アライアンス(SEA)」も、ウィンブルドンの取り組みを模範例として紹介している。
持続可能性を重視することは、単なるイメージ戦略ではない。実際、イギリスは熱波に見舞われ、ウィンブルドンは猛暑のなかでの開催となり、気候変動はスポーツ開催そのものを脅かすリスクとなりつつある。未来の世代にもスポーツを楽しんでもらうためには、地球環境そのものを守ることが欠かせないのだ。
ウィンブルドンは、その歴史と格式を保ちながらも、持続可能な未来に向けて明確なビジョンを持って進んでいる。こうした取り組みは、スポーツ界だけでなく、観客や企業、地域社会全体にとっても重要な意義がある。
スポーツイベントに何を求めるのだろうか。その答えには、感動や競技の質だけでなく、「環境配慮」も加わる時代が、すでに始まっている。
※参考
Sustainability|The Championships Wimbledon
On and Off-Court: Wimbledon’s Targets for Sustainable Tennis|Sustainability Magazine
Game, Set, Green: Wimbledon’s Commitment to Sustainability
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