ネットゼは、地球温暖化による気候変動を抑えるための、具体的な目標の一つである。具体的にどのような意味を持つのか、わかりやすく解説する。各国のネットゼロ宣言の内容や、具体的な取り組みについても学んでみよう。
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ネットゼロとは、「温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにする」という意味の言葉である。
温室効果ガスによる気候変動問題は、地球上で暮らす誰にとっても他人事ではない。気候変動を食い止めるためには、温室効果ガス排出量の削減が急務と言えるだろう。
しかし、我々人間が生活する上で、どうしても発生してしまう部分もある。こうした排出量から吸収量を引いた後の数値を「ゼロ」にしようとするのが、ネットゼロの考え方である。
ネットゼロの「ネット」とは、英語で「正味」という意味だ。排出量と吸収量のバランスから「正味ゼロ」を目指す。ちなみに日本では、ネットゼロよりもカーボンニュートラルという言葉を耳にする機会が多い。
カーボンニュートラルも、排出量を極限まで減らした上で、吸収量を増やす仕組みを整え、実質的なゼロを目指している。ネットゼロとカーボンニュートラルは、ほぼ同じ意味と捉えていいだろう。
ネットゼロが注目される背景には、世界が抱える深刻なCO2問題がある。2017年の世界のCO2排出量は、合計約328億トン。日本の排出量は、世界の約3.4%を占めている。近年、再生エネルギーの増加によって多少減少しているものの、世界でも排出量が多い国の一つであるという事実に変わりはない。(※1)
世界の平均気温は、1850~1900年までと比較して、2017年時点ですでに「約1度」上昇していることがわかっている。温暖化に歯止めが利かない様子が見てとれる。いまこのタイミングでCO2を含む温室効果ガス問題を解決できなければ、平均気温はさらに上昇すると予測される。2100年頃には、約4度もの気温上昇が起きると言われているのだ。(※2)
気温が上がれば氷河や氷床は溶け、海面は上昇。平均海面水位は、過去100年ですでに17センチも上昇しているというデータもある。海面が上昇すれば、国土に多大なダメージを受ける国も増えるだろう。また、温暖化が進めば、生態系への悪影響も避けられない。食糧難や健康を害するリスクも指摘されている。(※3)
できるだけ早くネットゼロを実現できれば、気候への影響は最小限で済ませられる。気候変動による影響をこれ以上深刻化させないためにも、世界中でネットゼロに向けた取り組みが推進されるよう、求められているのだ。
地球規模の気候変動問題が注目されるようになったきっかけの一つが、2015年のパリ協定である。ネットゼロは、世界共通の目的となった。2020年時点で、123カ国と1地域が「2050年カーボンニュートラル」に賛同し、ネットゼロを目指してさまざまな取り組みを行っている。各国のネットゼロ宣言と具体的な目標は以下のとおりである。(※4)
日本は2020年10月に「2050年温室効果ガス実質ゼロ(カーボンニュートラル)を目指す」というネットゼロ宣言をしている。中期目標として、2030年度までに、2013年度比で26%の温室効果ガス削減を目指す。省エネの徹底や再生可能エネルギーの最大限の導入、エネルギー供給体制の抜本的対策を進めていく。事業者や自治体が各自でネットゼロ宣言をするなど、急ピッチで対策が進められている。(※5)
G7でいち早くネットゼロ宣言をしたのは、イギリスである。当時のメイ首相が「2050年までに二酸化炭素ネット排出量をゼロにする」と表明した。2021年には「ネットゼロ戦略:Build Back Greener」を公表。2035年までに電力の脱炭素化やすべての自動車をゼロエミッション化すると明言している。こうした対策のため、2030年までに900億ポンド、日本円にして約14兆円が投じられる予定である。(※6)
指す」という宣言をしている。また、単なる宣言で終わらせず、そのための法律が整備されている点が大きな特徴である。2017年時点で、電力分野主力の水力発電と原子力と、脱炭素化に向けて具体的な取り組みが実行されていた。(※7)
産油国初のネットゼロ宣言をしたのは、アラブ首長国連邦である。2050年までに、経済全体の脱炭素化を進め、ネットゼロを目指すことを宣言した。日本円で約18兆円が、再生可能エネルギーやクリーンエネルギーの開発に投じられる予定である。(※8)
各国は、ネットゼロ達成に向けてどのような取り組みを行っているのだろうか。具体例を紹介しよう。
・電力のほぼすべてを再生可能エネルギー化(ドイツ)
・2028年暖房用燃料の使用禁止(フランス)
・エネルギー多消費産業での燃料転換(イギリス)
・乗用車の電気自動車化(カナダ)
・住宅の脱炭素化や電動車の導入を支援(日本)
各国がそれぞれの状況にあった各種取り組みを実践している。(※9)
2020年時点で、ネットゼロを実現している国はわずか2つ。多くの国では、ネットゼロを実現するための努力の真っ最中と言っていいだろう。先進国においては、まだまだ温室効果ガスの排出量は多いものの、少しずつ減少に転じている国も増えてきている。多くの国にとって、ネットゼロは「超えるべきハードルは多いものの、実現可能な目標」と言えるだろう。
とはいえ、先進国だけが目標を達成しても、地球全体での効果は薄い。世界中でネットゼロを実現するための、さらに具体的な取り組みが求められる。
※1 日本のエネルギー 2020年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」|資源エネルギー庁
※2 カーボンニュートラルとは|脱炭素ポータル
※3 温暖化から日本を守る適応への挑戦(2〜3ページ)|環境省
※4 2050年カーボンニュートラルを巡る国内外の動き(7ページ)|経済産業省
※5 2050年カーボンニュートラルを巡る国内外の動き(4〜6ページ)|経済産業省
※6 英政府、「2050年ネットゼロ」戦略公表|一般社団法人環境金融研究機構
The Ten Point Plan for a Green Industrial Revolution(16〜19ページ)|HM Goverment
※7 スウェーデン議会、2045年までにCO2排出量をネットゼロとする法律可決|一般社団法人環境金融研究機構
※8 アラブ首長国連邦(UAE)、湾岸産油国初の「2050年ネットゼロ」宣言。再エネ|一般社団法人環境金融研究機構
※9 各国の長期戦略の概要について(3~6ページ)|環境省
第1回 脱炭素社会に向けた住宅・建築物の 省エネ対策等のあり方検討会(10ページ、19ページ)|環境省
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