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フランス南西部のアルカション湾では、収穫前の牡蠣の大量死が深刻な問題になっている。地域ではその廃棄される貝殻を活用し、環境にやさしいコンクリートをつくる取り組みが行われている。
Ouchi_Seiko
ライター
フランス在住。美容職を経て2019年よりライターに。居住地フランスのサステナブルな暮らしを手本に、地球と人にやさしい読みものを発信。
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世界有数の生産地、フランス南西部のアルカション湾。数世紀にわたり牡蠣養殖が行われてきたが、近年では、海水温の上昇などで収穫前の牡蠣の50~90%が死んでしまうという深刻な問題が発生し、多くの養殖業者が甚大な被害を受けている。この影響により、年間数千トンもの貝殻が廃棄物として生じているという。
そこで進められているのが、廃棄される牡蛎の殻をエココンクリートに転用するプロジェクトだ。これまで牡蠣の殻は、収穫前後にかかわらず廃棄されてきたが、現在は地域の貝類委員会が回収し、地元での循環利用を目指した再資源化が進められている。
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エココンクリートは、フランス南西部にあるポー大学の研究チームによって開発された。従来のセメントには、石灰石と粘土を混ぜて焼いた「クリンカー」を使うが、クリンカーを使わずCO2排出量が従来より約75%少ない「クリンカーフリーセメント」に、砕いた牡蠣の殻を砂や砂利の代替として使い、混ぜる。
従来のコンクリートは圧力がかかると砕けてしまうが、牡蠣の殻は繊維状の構造をしているため、徐々に割れながらも形状を維持するという特性がある。
もう一つの大きな利点は、このエココンクリートが美観にも優れていることだ。表面を磨くと貝殻が浮かび上がり、地域の自然資源を生かした独自の風合いが生まれる。
エココンクリートはすでに、地域の観光名所ピラ砂丘の遊歩道に採用されており、年間数百万人が歩くこの場所で、素材の耐久性が実地検証されている。貝殻の調達から製造までを20キロ圏内で完結させた点も、環境に配慮した地域循環の好例とされている。
研究チームは、さらに過酷な環境での貝殻廃棄物の活用を目指している。フランス大西洋岸の港町ソコアでは、貝殻を含むモルタルを用いて、何世紀も前に築かれた石造りの港壁を補強する試みがスタートした。ここでは潮の満ち引きにより、数時間ごとに海水にさらされる厳しい条件での耐久性が試されている。
また、干潮帯(潮の干潮によって海面から上下する場所)には牡蠣の殻を使った小型ブロックが数十個設置され、それらと海洋生物がどう関わるか研究されている。自然の岩場と同等以上に生物が定着すれば、この素材にはさらなる活用価値があるという。
将来的には、こうしたエココンクリートが人工サンゴ礁の基礎となり、生態系の保全や海岸浸食の防止にも役立つ見込みだ。従来のコンクリートに必要な採石場の減少問題にも対応できるなど、複数の環境課題を一挙に解決する可能性がある。
かつては廃棄物に過ぎなかった牡蠣の殻。しかし新たな用途を得たことで、繰り返し利用できる自然資源として注目が集まっている。
日本では、ホタテの貝殻が同様に増える廃棄物として問題となっている。そんなホタテ貝殻をホタテパウダーとしてアップサイクルする取り組みも行われている。
※参考
Nothing goes to waste: Coastal industries are upcycling oyster shells and old fishing nets|euro news
Shell shock: Meet the French professor turning oyster waste into building material|euro news
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