英国で広がる「スマホのない子ども時代」運動 保護者の呼びかけが始まり

スマホを手に持った外国の女の子

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「子どもにスマホをいつ持たせるべきか」。イギリスではいま、親が「持たせない」という選択を共有し、新たな常識をつくろうとしている。保護者が草の根的に始めた「スマホのない子ども時代」運動から、各自治体での取り組みまでを紹介する。

岡島真琴|Makoto Okajima

編集者・キュレーター

ドイツ在住。フリーランスの編集者・キュレーター。変わりゆく都市ライプツィヒとそこに生きる人々の物語を記録するニュースレター「KOKO」(https://koko-de.beehiiv.c…

2025.04.16
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親が主導する“スマホを持たせない”選択

イギリスで広がる「スマートフォンのない子ども時代」運動

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オンラインコンテンツのなかには若者に悪影響を与えるものもあるだろう。イギリスで、子どもにスマートフォンを持たせる年齢を遅らせようとする草の根運動「スマホのない子ども時代(Smartphone Free Childhood)」が急速に広がっている。

発起人はイギリスのサフォークという田舎町に暮らすデイジー・グリーンウェルさんと友人のクレア・ファーニホーさん。きっかけは、「周りがみんな子どもにスマホを持たせているから仕方ない」という保護者の諦めに対する疑問だった。

グリーンウェルさんがSNSに「スマホを14歳や16歳まで持たせない選択が常識になったらどうか?」とSNSのグループに投稿したところ、わずか24時間でそのグループが定員オーバーとなる大きな反響をよんだ。

そこでグリーンウェルさんの夫も加わり、慈善団体「スマートフォン・フリー・チャイルドフッド」を創設。いまではイギリス全土にある1万3000以上の学校の保護者12万人以上が、「少なくとも9年生(日本の中学2年生相当)まではスマホを持たせない」という呼びかけに同意し、署名している。

欧州諸国では公的な規制も

この運動が支持される背景には、スマートフォンやSNSが子どもたちのメンタルヘルスに与える深刻な影響がある。調査によると、イギリスの12歳の子どもは週平均21時間スマートフォンを使用しており、12〜15歳の76%が自由時間のほとんどをスクリーンの前で過ごしている。

SNSの普及以降、不安障害やうつ、自傷行為が10代で急増しているという研究もあり、保護者の不安は高まっている。

他のヨーロッパ諸国ではすでに公的な規制が進んでいる。デンマークは2025年2月に、学校でのスマートフォン使用を禁止する方針を発表。フランスでは2018年から小学校でのスマートフォン使用が法律で禁止されている。ノルウェーも、SNSの最低利用年齢を設ける計画を進めており、国全体で子どものデジタル環境を見直す動きが加速している。

一方、イギリス政府は慎重な姿勢を崩していない。労働党のジョシュ・マカリスター議員は全国の学校をスマホ禁止にする法案を提出したが、政府の支持を得られず、法案は骨抜きとなった。政府は「判断は各校の校長に任せるべき」としている。

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動き出すイギリスの学校と自治体

しかし現場は動き出している。ロンドン北部のコリンダル小学校では、2025年9月からスマホを全面禁止にする予定だ。ジェーン・パルマー校長は、元生徒がネットいじめを受けて命を落とした経験を共有し、「意見がわかれるのは当然だが、最終的にはみんな子どもを守りたいだけ」と語る。

また、コリンダル小学校のあるバーネット区はイギリスで初の試みとして、区内すべての公立学校でスマートフォンを禁止する方針を打ち出した。対象児童は約6万3000人にのぼる。さらに私立名門のイートン校では、新入生にスマートフォンの持ち込みを禁止し、通話とテキストメッセージの送受信機能のみの携帯を配布している。

このように、イギリスでは親たちや教育現場が先陣を切るかたちで、子どものスマートフォンとの向き合い方を問い直す動きが広がっている。テクノロジーを全面的に否定するのではなく、「いつ」「どのように」子どもに触れさせるのがもっともいいのかを、社会全体で見直す時期に来ているのかもしれない。

※掲載している情報は、2025年4月16日時点のものです。

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