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気候変動の影響からコーヒー豆の生産量が激減し、数十年後には現在のようにコーヒーが飲めなくなってしまうことが懸念されている。アフリカの一部地域で栽培される品種「エクセルサ」はその解決策になるかもしれない。
Kojiro Nishida
編集者・ライター
イギリス、イースト・ミッドランズ地方在住。東京の出版社で雑誌編集に携わったのちフリーランスに。ガーデニングとバードウォッチングが趣味。
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コーヒー豆は生産国の多くにおいて、乾燥や干ばつをはじめとする気候変動の影響から栽培が難しくなっている。専門家によると、世界最大のコーヒー生産国であるブラジルでは、干ばつの影響で2025年の収穫量が約12%減少する可能性があるという。
収穫量が減れば価格が上がるため、コーヒーの消費量が多い日本にとっても他人事ではない。すでにコーヒーの価格は過去数十年で最も高値に達しており、業界は解決策を模索中だ。
長期的には、2050年までに世界のコーヒー豆生産量の約6割を占めるアラビカ種の栽培に適した地域が半減することが危惧されており、「コーヒー2050年問題」と呼ばれている。
そんななかで、ロンドンの王立植物園キュー・ガーデンも約10年間にわたり研究を続けている「エクセルサ」という品種に注目が集まっている。
エクセルサの木は深い根や厚い葉、大きな幹が特徴で、他の種類のコーヒーの木が耐えられないような干ばつや暑さなどの厳しい条件下でも生育でき、害虫や病気にも強い。
加えてその味わいは甘く、チョコレートやヘーゼルナッツの風味があって、苦みは少ない。人気のアラビカ種の味わいに近いことも、次世代のコーヒーとして期待される理由のひとつだ。
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エクセルサは、南スーダンやコンゴ、中央アフリカなどを含む一部のアフリカ諸国に加えて、インド、インドネシア、ベトナムで栽培されているが、その生産量は世界のコーヒー市場の1%にも満たないのが現状だ。
その理由のひとつが、これらのコーヒー生産国が抱えるさまざま課題だ。例えば、エクセルサを栽培している主な国のひとつ南スーダンでは、インフラが整備されていない。
さらに治安面にも問題がある。5年間にわたる内戦を終える和平合意が2018年に成立したが、紛争の火種はまだ国内各地に残っている。武力衝突が発生し町への主要道路が一日中封鎖されることや、人々が村から逃げ出し他の場所に移動せざるを得ない事態がいまだに起きているのだという。
そのような背景からコーヒーの輸出が難しく、隣国のウガンダを経由してケニアの港から出荷する。片道約3000kmの移動には7500ドル(約110万円)以がかかり、このコストは近隣諸国に比べて最大で5倍にもなる。
コーヒーの木は剪定や除草などの定期的かつ長期的な手入れが必要で、収穫できるようになるまでに少なくとも3年かかるため、南スーダンのように治安が安定していない地域では栽培が難しい作物なのだ。
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大きな課題がある一方で、エクセルサ種の生産向上に向けた取り組みも行われている。
南スーダンで活動しているアグロフォレストリー企業、エクアトリア・ティーク社は長年エクセルサの試験栽培を行っており、3年前に約1500軒の農家にコーヒーの苗木と栽培のトレーニングを提供した。農家は収穫したコーヒー豆を、加工や輸出のために同社に売り戻すことができる仕組み。
苗木の提供から3年が経つ2025年は、初めての収穫が行われる。同社の担当者は「2027年までにエクセルサは約200万ドルの経済効果をもたらす可能性があるが、大手企業からの投資を得るには生産量を現在の3倍に増やす必要がある」と話している。
気候変動による影響は他のコーヒーの品種に比べて低いかもしれないが、栽培地域が多くの課題を抱えているエクセルサ。世界の市場に売り出すためには、長期的な視点が不可欠で、政府・民間企業・国際機関などのさらなる支援が求められる。
※参考
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