投資撤退を意味する「ダイベストメント」とは? ESG投資との関わりを解説

ダイベストメントは、投資撤退を意味する言葉。株式市場で価値が下がった座礁資産を売却する際に使われており、現在欧米では石炭発電へのダイベストメントが相次いでいる。これはESGと呼ばれる、投資に対するサステイナブルな考え方の影響を受け、環境保護的な意味合いを帯びているためだ。

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2020.08.21
SOCIETY
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エシカルマーケティングとは? メリットや実例をわかりやすく紹介

ダイベストメント(投資撤退)とは

「ダイベストメント(Divestment)」とは、「投資(Investment)」の対義語として使われる投資用語で、すでに投資している金融資産を引き揚げることを意味する。

株や債券の売却だけでなく、銀行や投資会社が他社への融資を停止する際にも用いられる。

もともとは企業価値を上げる策として、業績の悪い赤字事業を売却し切り離す行為をダイベストメントと呼んでいた。

しかし現在は、欧米を中心に環境や社会的観点からのダイベストメントが頻繁に行われている。

ダイベストメントの対象となる考え方

近年ダイベストメントのターゲットとなっているのが、石炭や石油など化石燃料だ。

多くの人が環境問題に関心を寄せるなか、地球温暖化に悪影響を与える企業への投資をやめて、サステイナブルな社会を目指す企業に投資する動きが活発化。

環境問題に対する取り組みが進めば、石炭の価値が下がることも想定される。

市場や社会環境が激変によって価値が大きく下落するであろう資産は「座礁資産」と呼ばれており、とりわけ石炭が座礁資産として認識され始めているのだ。

こうした動きをきっかけに、ダイベストメントという言葉が日本でも注目されるようになった。

環境問題から疑問符がついた化石燃料の価値

石炭燃料関連企業へのダイベストメントが相次ぐ理由に、2015年に採択されたパリ協定が大きな要因として挙げられる。

パリ協定では、平均気温の上昇を抑えるため、各国における温室効果ガス排出量の削減が提示された。温室効果ガスの中で半分以上の割合を占めるのが二酸化炭素だ。

石炭や石油といったエネルギーは二酸化炭素の排出量が多い。大量に燃焼することで、地球温暖化に拍車がかかっている現状が問題視されるようになったのだ。

そこから多くの国が「脱石炭火力発電」に踏み出し、国際的にはカナダとイギリスが主導して2017年に「脱石炭連盟(Powering Past Coal Alliance:PPCA)」を発足。

現在は欧州諸国やメキシコ、米ニューヨーク州などの国や地方自治体、企業が加盟している。

ESGとダイベストメント

ダイベストメントは環境問題に一石を投じる有効な手段と考えられるが、なぜ世界規模で撤退が相次いだのだろうか。その背景に、ESG投資という概念の普及がある。

ESG投資

Photo by Austin Distel on Unsplash

環境、社会、企業統治を観点とした投資判断

「ESG」とは、投資判断の際に環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)」の三つを重視する考え方。2006年に国連が「責任投資原則」を提唱し、機関投資家に対してESGの観点を取り入れることを求めた。

リーマンショックによる短期的な投資が懸念されたことも、将来的なリターンが期待できるESG投資の普及を後押しした。

投資に際し問われるサステイナビリティー

さまざまな背景からESGに賛同する機関は徐々に増え、石炭や石油などの化石燃料に限らず、武器やたばこなど環境や社会に害を及ぼすとされる企業への投資を見直す動きが活発化。

ダイベストメントを行う際の基準として、企業のサステイナビリティーやCSR活動が厳しく問われるようになったのだ。

海外の事例

石炭火力発電所

Photo by Wim van 't Einde on Unsplash

ESG投資は世界的に普及したものの、いまだ標準的な定義は存在していない。これまで環境問題だけではなく、南アフリカのアパレルヘイト政策などに対してもダイベストメントが行われてきた。事例をいくつか紹介する。

南アフリカにおけるアパルトヘイト廃止を後押しした投資撤退運動

1980年代に横行した南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離策)に反対するため、ダイベストメントが実施された。

企業や大学、個人が南アフリカ政府と取り引きのある多国籍企業への投資を引き揚げたのだ。

これによって政府は弱体化。アパルトヘイトを撤廃し、新しい時代を迎える一因となったとされる。

国家的に化石燃料へのダイベストメントを目指すアイルランド

アイルランドでは2018年、世界で初めて化石燃料へのダイベスト法案が下院で可決された。

翌年政府系ファンドのISIFは、化石燃料関連銘柄からのダイベストメントを実施するとともに、今後投資を禁止する148社のリストを発表。そのなかには日本企業の名前もあった。

たばこや核兵器もダイベストメントの対象に

2018年にオランダ公務員年金基金であるABPは、人々に有害であることから、たばこと核兵器の生産者へのダイベストメント方針を発表。

2019年にはすべて売却し、総額は約40億ユーロ(約55兆円)相当となった。

アメリカ大手金融機関による約2.1兆円規模の投資撤退

アメリカ金融機関大手のモルガン・スタンレーは、2015年の時点で石炭関連事業に対するダイベストメントの方針を公表していた。

また、北極圏での石油やガス採掘に関わる新規ファイナンスを禁止。世界的な金融業界の脱石炭の流れを後押ししていると言える。

日本の事例

自然エネルギー

Photo by Karsten Würth on Unsplash

日本では、ダイベストメントによる取り組みがあまり進んでいないのが実状だ。

世界で脱石炭運動が加速した2016年から2018年、日本のメガバンク3社は石炭火力発電事業者への融資額で上位を記録している。

そうした状況から、気候変動問題に取り組む環境NGO団体は、三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループなどに対し、石炭火力輸出からのダイベストメントを求める署名を提出している。

私たち一人ひとりの選択

石炭力へのダイベストメントを決行するのは企業なので、関連企業に投資していない人は自分には関係ないと思うかもしれない。

しかし私たちの預金も、実は企業へ投資する運用資金の一部。つまり、銀行口座から資金を引き揚げることも一種のダイベストメントと言える。どうすれば世界が豊かになるのか。

何が環境の破壊行為につながるのか。私たち一人ひとりが、自身の選択に責任を持たなければいけない。

※掲載している情報は、2020年8月21日時点のものです。

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