対話を通じてサステナビリティを体験 「Nœud. TOKYO」で感じたエシカルな食

東京・永田町に「オール・サステナブル・フレンチ」を掲げるレストランがオープンした。食材から調理方法、店舗設計、運営までもがサステナブル。「食の環」「土」「地域環境」という三つのキーワードを、「つながり」を意味するフランス語「nœud(ヌー)」に込め、レストランをつくり上げた。

ELEMINIST Editor

エレミニスト編集部

日本をはじめ、世界中から厳選された最新のサステナブルな情報をエレミニスト独自の目線からお届けします。エシカル&ミニマルな暮らしと消費、サステナブルな生き方をガイドします。

2020.08.14
SOCIETY
学び

イベントや商品の魅力を広げる エシカルインフルエンサーマーケティング

調理の前からストーリーが始まっている

料理

京都に本社を置くウェディング会社「タガヤ」と、クリエイティブディレクター梶友宏氏(TOMODACHI Ltd.)が協業しオープンしたレストラン「Nœud. TOKYO(ヌー. トウキョウ)」。

幅広い層の人に向けて食を知る場をつくりたいという思いを、「地域環境」「食の環」「土」という三つのキーワードに込めた。

シェフの中塚直人さんと秋田絢也さんは使用する食材すべての生産者に会い、どのような環境で栽培されているかを知り、味わい、対話をすることで直接買い付けをしている。これは、一つ目のキーワード「地域環境」に基づいている。

野菜であれば無農薬や有機栽培、ジビエや魚は自然に近い形で生育しているもの、家禽は無投薬や平飼いのものを選択した。ただ「無農薬」などのデータだけで判断するのではなく、その土地や地域を訪れ、人に会ったからこそわかるものがある。

「生産者さんたちに会うことで、畑や飼育の環境がわかることはもちろん、生産者のみなさんが何を考え、目指しているかを共有することができます。

有機・無農薬の野菜を食べることは自身の健康にいい影響をもたらします。それだけでなく、野菜を栽培する土地も汚染することなく後世に残すことができる。

ジビエや魚に関しては、持続可能な量を獲ることで、生態系のバランスを保てます。つまり、地域の未来を守ることができる。そうした思いを持った方々の食材を使っています」(中原さん)

苺のビネガー

旬の苺を漬け込み爽やかな甘味を引き出した、苺のビネガー。これをキュウリやトマトなどと合わせ、"ガスバチョ"を再構築した。トマトのソテーやキュウリのすり流しなど、食感や温度帯の多彩さが、一口ごとの驚きを呼び起こす

このようにして選んだ野菜の生産者は全国七カ所に渡る。久松農園(茨城)や柴海農園(千葉)など、いずれも Nœud. TOKYOで出される一皿は、食材選びの段階から、いや、その前の畑や土から、ストーリーが始まっている。

カウンター式の店内では、これからたくさんのストーリーが紡がれ、醸成していくのだろう。

無理をしない。無駄にしない。

この日のお魚料理で出てきたのは、千葉県産オナガダイのソテーと、小魚を煮出してとったスープ・ド・ポワソン。このスープは漁師さんから売り物にならずに捨てられる小さな魚、いわゆる「未利用魚」と言われるものからスープをとった。

未利用魚はその名のとおり「使われない」魚。漁師がいくら獲っても売上にはならない。一度引き上げると死んでしまう魚も多いため、海に還すこともできないのだという。そうした未利用魚を使うことで売り上げの一助となり、循環を生じたいという。

兵庫県のマハタとカブの料理

兵庫県のマハタとカブ。スープ・ド・ポワソンの手法をベースにしつつ、手間をかけてクリアで雑味のない味に仕上げた。サフランとフヌイユの香りが清々しい。フレッシュなカブと合わせて

またこの日のお肉は、愛媛県大島から届けられたジビエのイノシシ。イノシシによる獣害が増えている大島では、ミカン栽培が盛んなため、野生のイノシシが畑のミカンを食べているのだ。

そのため野生のイノシシの肉からはほのかに柑橘が香り、脂もあっさり。この肉の特徴を生かしてソースにも今治産のミカンを使用し、風土を感じる香り豊かな一品に仕上げている。

「このレストランを始めた当初は、ベジタリアンのフレンチを構想していました」と、クリエイティブディレクターの梶さん。

「東京オリンピックで世界各国から多くのお客様が来るときに、ベジタリアンの方々が満足できるレストランをつくりたいと思ったのが出発点です。

しかしコロナで世界が激変するなか、より広く“サステナブル”を伝えるレストランにしたいと考えが変わっていきました」

野菜だけでなく、魚も、肉も、循環でき共生できるように。命を無駄にせずにつなげていく。そんな気持ちも店名の「Nœud(ヌー)」(フランス語で「つながり」を意味する)に表れている。

これがキーワードの一つ「食の環」だ。環を意識することは、サステナビリティ(持続可能性)を意識することでもある。命を無駄にしないことは、次世代のために豊かな土地と自然を残すということでもあるからだ。

しかし、もちろんベジタリアンにも対応可能だ。予約をすれば、フランスの星付きレストランで働いた経験を持つ秋田シェフ・中塚シェフが、野菜本来の味わいを引き出したベジタリアンメニューを提供する。

土から生まれ、土に還る

「土」もキーワードのひとつだ。土に息づく微生物が野菜を育て、その野菜を食べる動物や人間が体内に微生物を取り込み、健康な体をつくっていく。

店内

そのテーマは、店内の壁にも表れている。高さ2.5m、横13m、厚み20cmの壁に、土と石灰、にがりを混ぜ固めて構築する「版築」工法を採用。その土は安土桃山時代の聚楽第(じゅらくだい)*跡地付近の古い蔵を解体した「聚楽土」だ。

*天正 13 (1585) 年、豊臣秀吉が京都に建てた邸宅。桃山時代の代表的な建築物。

国産杉のカウンターテーブルや北海道旭川のナラ材でつくった椅子など、自然と調和した雰囲気が満ちている。

健康な土から健全な野菜が生まれ、あるいは命が育ち、一部を「いただく」ことが私たちの身体をつくり、一部はまた自然に還るーー。

Nœud. TOKYOが提供するのは、表層的な美食ではなく、食べものの命や自然の円環を、目で見て、そのストーリーを聞き、舌で味わい……つまり五感で感じるという体験なのだ。

Nœud. TOKYO
東京都千代田区平河町2-5-7ヒルクレスト平河町B1F 
03-6910-0233
営業時間:16:00〜22:00(16:00〜1部/19:00〜2部スタート)
定休日:日曜、月曜(※要予約)
https://noeud.tagaya.co.jp/

※掲載している情報は、2020年8月14日時点のものです。

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