企業が生み出す価値を測るバリューチェーンとは

日差しの入り込むオフィス

Photo by Nastuh Abootalebi on Unsplash

企業における事業の分析手法として注目されているバリューチェーン。この記事では「価値連鎖」とも呼ばれるバリューチェーンの概要、目的とメリットについて解説する。さらに分析の具体的な流れや、実際にバリューチェーンを活用した代表的な企業の成功例も紹介する。

ELEMINIST Editor

エレミニスト編集部

日本をはじめ、世界中から厳選された最新のサステナブルな情報をエレミニスト独自の目線からお届けします。エシカル&ミニマルな暮らしと消費、サステナブルな生き方をガイドします。

2025.01.18
SOCIETY
編集部オリジナル

もうひとつの居場所を見つけた 地域が、わたしが、豊かになる「旅アカデミー」 ローカル副業入門【現地編】

Promotion

バリューチェーンとは

4棟のビル

Photo by davide ragusa on Unsplash

バリューチェーンとは、企業活動が最終的な付加価値にどのように貢献しているのか、その要因を量的・質的に示すツールのこと。(※1)バリューチェーンとは直訳すると「価値連鎖」という意味で、事業活動全体で生まれる価値の連鎖(チェーン)を指す。企業の事業活動は原材料調達から製造、流通、販売を経てアフターサービスにいたるまで多岐にわたり、それぞれが役割をもって価値を創出している。

しかしその価値は複雑に絡み合い、全体で生まれる付加価値は単純合計では測れない。そのためバリューチェーンを分析することで企業の付加価値の連鎖を可視化し、自社の強みと弱みを明確にできるなどさまざまなメリットがあるとされている。

バリューチェーンとサプライチェーンの違い

バリューチェーンと混同されやすい概念に「サプライチェーン」がある。(※2)サプライチェーンとは直訳すると「供給連鎖」という意味で、素材調達から製品が顧客に届くまでの物的・コスト的な流れを示す。バリューチェーンも着目する範囲は同じだが、モノではなく「価値の創造」に注目するという点で異なったものである。

バリューチェーンの2つの構成要素

主活動

バリューチェーンは事業活動を「主活動」「支援活動」の2つの構成要素に分けて基本モデルとする。(※2、※3)「主活動」とは製品の製造・出荷・販売(マーケティング)・サービスといったような活動を指す。これらは事業に直接関連する事業活動であり比較的可視化されやすい。しかし価値創出の要因として見ようとすると各活動が深く絡み合い、決して単純化できるものではない。

支援活動

もうひとつの構成要素が「支援活動」である。これらは企業においての外部調達・技術開発・人事・経理・全般管理など、主活動を間接的に支援する活動を指す。製品の流れからは可視化されにくいところにあるが、多くの人の関わる企業として欠かすことのできない重要な活動だ。これらの活動が主活動にどれほど、どのように関わってくるかを可視化することもバリューチェーン分析の役割である。

バリューチェーン分析の目的とメリット

線路

Photo by William Verhagen on Unsplash

バリューチェーンを分析することで価値が生み出される機能・要因がわかりやすくなる。これを用いて下記のように「自社について知ること」ができ、成長へつなげられる。

無駄なコストが可視化される

企業においてまず行いたいのはコストの削減であろう。しかしただ減らすだけでも難しいうえ、見誤れば連鎖的に事業全体の価値を下げてしまう恐れも大きい。バリューチェーン分析では全体的なコストを俯瞰し、総合的な観点からコストの配分状況を可視化できる。それによって、コスト削減できる箇所はどこかといった判断材料になり得る。(※2)

自社の強みと弱みが明確化できる

事業活動ごとの付加価値を確認することで「自社の強み・弱み」が客観的に明確化される。強みの部分を把握して自社の優位性を強めること、および弱みの解消に努めてサポートを行うことが可能となる。(※2)

競合他社の戦略が把握できる

バリューチェーン分析で「自社を知る」ことにより、競合他社との差異も見えてくる。さらに自社と同様、他社のバリューチェーン分析を行うことで自社とは違った強みや弱みを可視化でき、それを用いて競合他者の価値創出プロセスへの理解も深まる。これにより競合相手の戦略を把握し、市場での競争力を高めることが可能だ。(※2)

経営資源を適切に再配分できる

ここまでにも挙げた「コストの配分状況」「自社の強み・弱み」といった部分の可視化から、是正すべき箇所が浮かび上がってくる。そのような視点から、どの活動に資源を多く投入するか、どこからコストを削減するかなど、経営資源の論理的かつ効果的な再分配が実行できる。(※2)

ERG(従業員リソースグループ)とは? 目的や仕組み、事例を紹介

関連記事

バリューチェーン分析の具体的なやり方

ホワイトボードに書き込む手

Photo by Melanie Deziel on Unsplash

バリューチェ-ン分析とはどのように行うのか、ステップごとに分け具体的に解説する。(※2)

自社のバリューチェーンを把握する

バリューチェーン分析のために最初に行うべきことは、自社の事業活動の洗い出し・分類である。主活動・支援活動の両方を含むすべての活動をリストアップし、主活動・支援活動のいずれかに分類する。さらに主活動を細分化して分類を行う。例えば製造業であれば「材料選定・製造・物流・販売・アフターサービス」といったステップごとに各活動を振り分ける。(※3)この構成は業界や業種により異なるため、自社事業の種別に合わせて選定する。

各活動のコストを分析する

次にコスト分析を行う。具体的な手法としては、活動ごとのコストを表形式で一覧化する。その際には活動ごとに担当部署も記載し、複数部署にまたがる活動については合算した金額も記載する。このコスト一覧からさらにコスト比率・コスト要因・活動間でのコスト関連性を分析でき、効率的な活動とそうでない活動が明確に区別される。

自社の強みと弱みを分析する

次は事業活動ごとの強み、弱みの把握だ。自社独自の、あるいは競合と比較しての強み・弱みをリストアップしていく。ここで重要なのが、できる限り多くの関係者から話を聞くことである。意見出しを行うのが少人数であったり、同じ部門・部署のメンバーに偏ったりすると事業の現状を正しく反映させることができない。多くの部門から多様な人材を巻き込んで多角的に検討し、客観性を高めることに努めたい。ここで出た強み、弱みはそれも事業活動ごとに分類する。

VRIO分析を行う

前段階で洗いだした強みについて、「VRIO分析」を行う。(※4)VRIOとは下記の評価視点から頭文字をとったものである。

・Value(経済的価値)
その強みは外部環境を活用する、あるいは外部の脅威を軽減することで経済的価値を生み出せるか。

・Rarity(希少性)
その強みを保有する企業は少数であるか。また今後もその需要は見込めるか。

・Imitability(模倣可能性)
その強みは他社において模倣が容易でないか。特許等を取得しているか。

・Organization(組織)
その強みを自社において十分活用できるよう組織的なポリシーや手続きが整備されているか。

これらの設問に対して「YES/NO」あるいは評価付けを行って判定する。4つすべてが高評価であれば理想的な強み、いずれかで低評価のついたものはその視点で改善・対応が必要なものとして分類していく。

経営資源の再分配を検討する

ここまでの分析で得られた結果から自社の優位性および課題が明らかになった。これを踏まえて、企業価値を最大化できるよう経営資源の再分配を検討して最適化を図る。

GXリーグとは? 活動内容や参加企業の役割、期待される効果をわかりやすく解説

関連記事

バリューチェーンを活用した企業の成功事例

夜の道路

Photo by Alexandre Chambon on Unsplash

バリューチェーンを活用して自社の強みを把握し、価値創出を成功へとつなげている企業は多くある。代表的な例をいくつか紹介しよう。

伊藤園

飲料メーカー・伊藤園では、茶畑から始まる一貫したビジネスモデルを独自のバリューチェーンとして挙げている。(※5)主力商品である茶を中心とした基礎研究・応用研究、国内外での供給および営業・販売拠点の多彩さなどを強みとしてブランド価値を増強する。さらに販売現場からの声を活かす「Voice制度」の採用により、商品開発につなげている。

スターバックスコーヒー

カフェ事業を展開するスターバックスは、バリューチェーンのなかでは原料調達を強みとし、理念であるサードプレイスといった言葉に象徴される『場所』としてのイメージも強い。コーヒー豆は質の良さ・フェアトレードを重視し、調達コストは高くなっても顧客に対しての満足感という価値をもたらすことを理念とする。また店内の整備によって「快適な居場所」を提供することも、消費者ニーズに応える価値創出といえよう。(※6)

メルカリ

オンラインフリーマーケットを展開するメルカリは、循環型のバリューチェーンモデルを示している。(※7)主活動の一部である商品の提供や受発注をユーザーに委ねることでコストカットし、企業はその他のプラットフォーム構築・改善に注力できる。またその中で顧客同士のトラブル防止のためのケア、匿名配送便の利用ができるよう取り組むなど顧客の安心につながる価値を創出したといえる。

ニトリ

家具の製造販売業・ニトリでは事業の一連の過程を自社で担うというバリューチェーンを挙げている。(※8)これによりコストダウンのみならず、ノウハウを社内に蓄積することで高い競争力へつなげ、手頃な価格設定と高い品質の両立を実現させている。

DEIとは? 意味や取り組みの具体例をわかりやすく解説

関連記事

企業そして消費者のためのバリューチェーン

葉脈

Photo by Markus Spiske on Unsplash

バリューチェーンを把握し分析することは企業にとってメリットがあり、既存の自社の強みや新たな価値創出のために有効な手法である。それは企業の成長にとって重要なものであるが、同時に消費者にとっても公益性のある結果となり得る。例えば各企業がそれぞれの独自性を強みとすることで、よりよい製品の提供や多様な選択肢の創出などが想定される。消費者が無意識下で行っている「選択」も、企業のバリューチェーンにおける価値が表出したひとつの結果と考えられるだろう。

※掲載している情報は、2025年1月18日時点のものです。

    Read More

    Latest Articles

    ELEMINIST Recommends