富士山の世界文化遺産登録から10年。ごみ問題やシカの食害など深刻な環境問題は、富士山の美しい自然を守るため緊喫の課題である。この記事では、国や地域、企業が実施する富士山の保全活動の事例を紹介する。富士山を守るために、私たちに何ができるか考えるきっかけにしてみてほしい。
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2013年6月22日、富士山は「信仰の対象と芸術の源泉」として世界文化遺産に登録された。それから丸10年が経過。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、一時登山道が閉鎖されたものの、富士山には世界中から登山者が集まっている。その数は2023年には22万人台を記録した。(※1)
富士山の文化遺産登録については、ユネスコやユネスコの諮問機関であるイコモスから、富士山を世界遺産として保護するために登山者数を適切に管理し、環境保全に力を入れる必要があると厳しい指摘が入っている。(※2)
国や県、地方自治体などがこの課題に対して、10年間さまざまな取り組みを行ってきた。現在もなお、富士山の環境保全活動への取り組みは続いている。
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富士山は、美しい自然景観と豊かな生態系を持つ一方で、さまざまな環境問題を抱えている。富士山の抱える環境問題について見ていこう。
美しい自然景観で知らる富士山は、登山客による深刻なごみ問題を抱えている。登山道や周辺には、ペットボトル、お菓子の包み紙、タバコの吸い殻など、さまざまな種類のごみが散乱。とくに、登山シーズンにはごみの量が増え、自然環境を大きく損なう原因となっている。
ごみ問題は、単に景観を悪くするだけはではない。例えば、野生動物がごみを食べて中毒を起こしたり、雨によって流れ出た有害物質が土壌や水質を汚染したりする可能性がある。
加えて富士山は標高が高く気温が低いため、地上よりごみの分解が遅く、ごみがいつまでも残っているのも問題を深刻化させている原因だ。
富士山では、水や電気がないため登山者の増加に伴う、し尿処理が大きな問題となっていた。以前は垂れ流し方式であったため、汚物やトイレットペーパーが「白い川」のように残されて、景観を損ねるうえに環境汚染の一因に。
近年では、環境への負荷を軽減するためトイレの整備が進んでいるものの、まだまだ富士山の課題のひとつである。
富士山周辺にはニホンジカが多数生息しており、シカによる食害が課題である。シカが森林の若木や下草、成木の樹皮を大量に食べてしまうこと、またツノ研ぎをする習性のために幹の皮が剥げて樹木が枯死することなどから、深刻な林業被害が起こる。森林の再生を妨げ、土壌が流出しやすくなるため、土砂災害のリスクが高まる。
また、シカの食害によって多くの植物が食べられてしまい、それに依存する昆虫や鳥などの生き物が減少。生物多様性が失われるという問題も発生している。
森林限界の上昇も、富士山が抱える課題のひとつ。森林限界とは、木が育つことができる限界の標高のこと。温暖化による気温上昇で、これまで木が育てなかった高い場所でも生育できるようになり、森林が山頂の方へ広がるのだ。
富士山では、この森林限界が年々上昇していることがわかっている。(※3)森林限界の上昇は、高山植物の生育環境を狭めたり、生態系を変化させたりなど、富士山本来の自然環境に大きな影響を与える可能性がある。
一年を通して地中の温度が0℃以下で、凍った状態がずっと続いている土を永久凍土と呼ぶ。富士山のような高山地帯には永久凍土が多くみられるが、近年では融解が進み範囲が減少。原因は、地球温暖化と考えられている。
永久凍土の減少は、さまざまな問題を引き起こす。たとえば、土壌の安定性が失われ、地すべりなどの災害が発生しやすくなる。また、高山植物の生育環境が変化し、生態系に影響を与える可能性もある。
永久凍土のなかには、過去の気候変動や環境に関する貴重な情報が閉じ込められていることがあり、融解によってこれらの情報が失われることも懸念事項だ。永久凍土の減少は、富士山だけでなく、地球全体の環境問題として捉える必要があるだろう。
富士山の麓には、古くから人々に利用されてきた豊かな湧水地が点在している。しかし、近年、これらの湧水地は湧水量の減少と水質の悪化が懸念されている。湧水量の減少は、森林伐採や開発、気候変動による降水量の減少などが原因とされる。
水質の悪化は、生活排水や農薬などの流出の他、登山者によるごみの不法投棄などが主な原因と考えられている。湧水地問題は、生態系への影響だけでなく、地域の産業や人々の生活にも大きな影響をもたらす。湧水量や水質の維持は、生態系のバランスを保ち、地域の経済活動に欠かせないものであるといえるだろう。
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富士山の自然を守るため、国や自治体をはじめ、地域や企業でもさまざまな取り組みをおこなっている。どんな対策や取り組みがあるのか紹介する。
まずは、国や地方自治体が主体となり行ってきた取り組みについて見ていこう。
富士山のグリーンワーカー事業は、環境省が主体となり、地元の住民団体やNPOなどに委託して行われている環境保全活動である。富士山の貴重な自然を保護するため、登山道の清掃、外来種の駆除、自然観察、登山者への啓発活動など、多岐にわたる活動を行う。
国の取り組みであるが、主体となって動くのは地元住民であるため、地域の雇用創出や環境保全への意識向上にもつながっている。(※4)
富士山が世界文化遺産に登録され多くの登山者が訪れるようになったことをうけ、山梨県は富士山の通行料を徴収している。
通行料徴収の目的は、 登山道の整備、トイレの設置、ごみの回収など、富士山の環境保全に必要となる費用を捻出すること。また、登山者数を適切に管理し自然環境への負担を軽減するオーバーツーリズムの抑制にも貢献している。(※5)
環境省と山梨県・静岡県が主体となって行われているのが、環境配慮型トイレの整備。
富士山の自然環境保護を目的に、登山道沿いのトイレを従来の汲み取り式から、環境にやさしい非放流式へと順次改修を進めてきた。平成18年度には、すべての民間山小屋で環境配慮型トイレの整備が完了。
環境配備型トイレの設置だけでなく、清掃や保守管理も定期的に行い、常に清潔な状態を保っている。さらに、登山者にトイレのマナーを守ってもらうための啓発活動も行っている。
登山者に混雑状況を事前に伝え、安全で快適な登山を促すため、富士山の混雑カレンダーを山梨県・静岡県が中心となって行っている。
カレンダーには登山者が集中する時期や時間帯を「混雑」「やや混雑」など、いくつかの段階に分けて表示。混雑状況を把握することで、登山者は自分のペースで登山を楽しんだり、混雑を避けて静かな環境で登山を楽しんだりすることができるようになる。(※6)
また、登山道の混雑を緩和することは、自然環境への負担を軽減することにもつながる。
富士山周辺の地域団体やNPO法人による、環境問題への取り組みも行われている。
富士山のトイレ浄化プロジェクトは、主にNPO法人 富士山クラブが中心となり行われた取り組みだ。(※7)
富士山で深刻化していたトイレのし尿の垂れ流し問題を解決するため、汲み取り式トイレをバイオトイレに置き換える取り組みが中心。バイオトイレは、微生物の力でし尿を分解し、堆肥化することで、自然環境への負荷を軽減できるトイレである。
結果として、トイレからのし尿による汚染が大幅に改善され、富士山の自然環境が回復したが、現在も富士山のトイレ問題は完全に解決されたわけではない。今後も、さらなる改善が求められていくだろう。
NPO法人 富士山エコネットは、富士山を美しいまま後世に引継ぐことを目的とした「エコツアー」を企画・運営している。
富士山周辺の自然を楽しみながら学べるツアーで、現地ガイドが、富士山の歴史、生態系、環境問題などについてわかりやすく解説。参加者には、ごみ拾いや外来種除去などのボランティア活動も体験してもらい、環境保全の意識を高めてもらうことを目指している。(※8)
富士山を美しい状態で後世に残すために設立された、富士山をいつまでも美しくする会では、 毎年富士山5合目周辺で大規模な清掃活動を実施している。
清掃活動には多くのボランティアが参加し、登山道や周辺地域のごみを回収。その他にも、登山者への啓発活動、学校への出前授業や地域住民向けの環境教育活動を実施し、次世代へ環境保全の意識を育む活動を行っている。
富士山の環境問題への取り組みを行っているのは、公共の団体だけではない。富士山周辺の民間企業が行う取り組みについて紹介する。
セブンーイレブンは、1994年から社会貢献の一環として、富士山地域の環境保全活動に積極的に取り組んでいる。なかでも富士山クリーンアップ活動は、長年にわたって継続されている取り組みで、地域住民や従業員とともに美しい富士山の環境保全に貢献している。(※9)
ブライダルジュエリーブランドのプリモ・ジャパンでは、CSR活動の一環として、富士山自然保護活動を行っている。活動は2013年から実施されており、清掃活動だけでなく、植林活動や環境教育など、多様な活動を行っているのが特徴である。(※10)
ウォーターサーバーフレシャスで知られる富士山の銘水株式会社は、富士山を愛する企業として、地域社会との連携し環境保全活動に力を入れている。クリーン活動の他、環境問題の啓発イベントなどを開催している。
富士山の環境を守る取り組みは、団体や企業だけのものではない。わたし達が個人でできる取り組みもある。一人ひとりが富士山の環境保全のためにできることを意識することが大切だといえる。
登山で出たごみを登山道や周辺に捨てないことは、美しい富士山を守る上でもっとも重要なことである。ごみは必ず持ち帰り、自宅で適切な処理を行おう。
富士山登山の際には、携帯用トイレの持参を。山小屋にトイレは整備されているが、トイレのないところで催すこともあるだろう。景観や水源を美しく保つため、携帯用トイレを持参してほしい。
登山道から外れて歩くことは、植物を踏みつけたり、土壌を侵食したりする原因となる。登山道は、長い年月をかけて人が安全に歩くためにつくられた道。道から外れないようにしたい。
富士山の周辺地域では、さまざまな環境保全団体が活動を行っている。少しでも富士山の環境保全に貢献するために、清掃活動や植樹活動などに参加することもおすすめ。
自ら清掃活動などのボランティアに参加が難しければ、そのような活動を行っているNPO団体などに寄付を行うのもいいだろう。さまざまな団体があるので、それぞれのビジョンや理念を知り、共感できる団体に寄付をしてみては。
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富士山の世界遺産登録から10年、深刻なごみ問題やシカの食害など、環境問題は山積している。国や地域、企業は、清掃活動やトイレ整備、環境教育などさまざまな対策を行っているが、依然として課題は残されている。富士山の環境問題は、わたし達ひとりひとりがすぐにできる小さなことから取り組んでいくことが大切である。
※1 2024年夏季の富士山登山者数は20万4316人|富士山経済新聞
※2 世界遺産は期限付き? 富士山に課された2年の宿題|日本経済新聞
※3 富士山の「森林限界」、最近40年で上昇 温暖化影響か|朝日新聞DIGITAL
※4 国立公園等民間活用特定自然環境保全活動(グリーンワーカー)事業の実施について|環境省
※5 富士山 5合目にゲート設置 登山者数の管理や通行料徴収で 山梨県|NHK
※6 混雑を回避する 混雑を避けて、安全・快適な富士山へ|富士山オフィシャルサイト
※7 活動実績|富士山クラブ
※8 エコツアー|富士山エコネット
※9 富士山地域環境保全|一般社団法人セブンーイレブン記念財団
※10 幸せの輪を広げるCSR活動「PRIMO RING PROJECT」は富士山自然保護活動を実施しました|プリモ・ジャパン
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