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世界最高峰の山であるエベレストは、これまで多くの登山家を惹きつけてきた。しかし現在は環境問題を抱え、早急な対策が必要な状況だ。この記事ではエベレストについて、いま起きているごみ問題、その他の環境問題、保護に向けた取り組み、私たちができることを紹介する。
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ヒマラヤ山脈にある世界最高峰の山、エベレスト。エベレストは、ネパールと中国・チベット自治区に位置している。そのため、チベット語のチョモランマとも呼ばれる。
標高は8,848メートルであり、富士山の3,776メートルと比べると2倍以上の高さだ。山頂の年間の平均気温はマイナス30℃、風速30メートルといわれる厳しい気候であるほか、気圧が地上の約3分の2であり酸素がうまく体内に取り込めないため、登山者の多くは酸素ボンベを使用している。2023年には、478人がネパールから許可を得て入山した。(※1)
エベレストが登山者に人気の理由は、やはり世界最高峰といわれるその高さである。自分の足で頂上を目指すのは、エベレスト登山の醍醐味だ。
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これまで多くの登山家がエベレストに挑戦してきた。その結果、登頂者数の累計は9,000人にのぼる。しかし一方で、登山者が残していくごみや人間の排泄物が、深刻な環境課題となっている。
登山者は、入山して山頂を目指すまでの数週間を山で過ごす。この期間、必要なくなった登山装備や、生活の中で排出されるごみが投棄されるという問題が起きている。登山道には、テントや登山用具、ロープ、食品の缶、ペットボトル、食器などが捨てられているのだ。
ごみのもう1つの問題は、人間の排泄物である。正確な数値ではないが、山頂に続く各キャンプには、約3トンに上る排泄物が残されていると推定されている。エベレストは気温が低いため、微生物による分解が進みにくい。分解されずに残った排泄物は、異臭を放っているという。
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エベレストは、ごみ問題の他にも環境に関連したいくつかの問題を抱えている。このうち3つの問題を確認していこう。
1つ目は、温暖化による氷河融解である。エベレストでは気温が上昇し、高所でも降雪量が減っている状況だ。氷河は雪によりつくられるため、降雪量が減ると氷河もできない。また、気温が高くなると雪ではなく雨が降る。雨はもともとあった氷を溶かしてしまうため、さらに氷が少なくなってしまうのだ。
ヒマラヤ山脈は、インダス川やガンジス川、長江をはじめとした5つの大河の源流である。氷河がなくなってしまうと、将来的に水資源が枯渇する危険がある。
2つ目は、氷河融解により登山者の遺体が出現していることだ。エベレストでは、毎年数名から十数名の登山者が命を落としている。2023年には過去最高記録に並ぶ17名と発表されており、累計の死者数は300人に上ると見られる。その原因の多くが暴風や滑落、高山病だ。
遺体の収容には危険が伴うため、エベレストで死亡した登山者の遺体の少なくとも3分の1は山に残されたままだ。そして収容されずに氷河に覆われていた遺体は、温暖化による氷河の融解により表出している。これは、温暖化問題の弊害といえるだろう。
3つ目は、マイクロプラスチックによる汚染だ。エベレストで標本を採取した結果、ポリエステルやアクリル、ナイロン、ポリプロピレンなどの繊維が見つかった。マイクロプラスチックは8,440メートルもの高所でも発見されており、エベレストを汚染する原因になる可能性が指摘されている。
マイクロプラスチックは、海洋において深刻な環境汚染を引き起こしている。エベレストにも、その危険は迫っている。
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エベレストには、ごみ問題やその他の環境問題がある一方で、保護に向けた動きもある。主な2つの取り組みを見ていこう。
登山者の排泄物の問題は、先述の通り微生物に分解されにくく残ってしまうことだ。これに対してネパールの地元自治体は、2024年3月以降に登山する人に対して、排泄物の持ち帰りを義務付けた。登山者は、排泄物を固めてほぼ無臭化する物質などが入った袋を購入し、ベースキャンプまで持ち帰るというものだ。
ネパールの自治体は、今シーズン用に8,000ほどの袋を用意し、登山者に提供するとしている。(※2)
2024年4月、ネパール軍のチームがエベレストなどの山頂にあるベースキャンプに入り、ごみ収集作戦を開始した。このチームは、軍要員12人とガイド役のシェルパ18人で構成された。
ごみ収集作戦は、2019年から行われてきた事業だ。食品や洗剤などの日用品を製造・販売する多国籍企業のユニリーバと提携して行われている。昨年までに収集したごみは、110トンに上る。また、2024年には遺体の収容も行われた。(※3)
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エベレストに限らず、日本の富士山などでもごみの問題は深刻だ。ここでは、美しい山と自然を守るために登山者に求められることや、私たちが日本で登山するときにも意識できること、日常でできることを紹介する。
まず登山者に求められることとして、ごみの持ち帰りがある。エベレストでは、2013年から登山隊1チームにつき4,000ドルのデポジットを支払い、8キログラムのごみを持ち帰れば返金される制度もできた。ごみを増やさないことを目的としているが、生還することがやっとの登山者はごみを持ち帰る余裕もなく、大きな効果は得られていないという。また排泄物の持ち帰りも義務化されている。
日本の山を登る私たちも、当たり前のことではあるが、ごみを持ち込まない、残さないことを徹底したい。
次に、登山者が持続可能な登山製品を選ぶことである。登山道には壊れた登山道具の残骸も多く残る。また、ネパールの地元自治体は、2020年1月から登山者に対して、エベレスト周辺地域での使い捨てプラスチック製品の使用を禁止した。廃棄されるプラスチックごみによる環境汚染を防ぐためである。
しかし、エベレストではポリエステルなどの繊維が発見されている。登山者が使用する登山製品についても、エベレスト登頂に耐えうる持続可能な製品が多く展開されることを期待する。
清掃ボランティアへの参加や、登山経験のない人でも協力できる募金をするのも有効だ。例えば認定NPO法人ピーク・エイドは、ヒマラヤや富士山での清掃活動をはじめ、シェルパ基金、ヒマラヤでの学校建設といった活動を行っている。
ただし、清掃ボランティアとして簡単にエベレストに入山できるわけではない。富士山などもごみ問題を抱えているため、まずは日本の山で活動するのも1つの方法だ。こうした団体の活動に寄付することは、一般の私たちにもできる。
温暖化が進み氷河が溶ける、山頂の雪が減ることは本来の美しい山の姿を失うだけでなく、生態系の変化や生物多様性の劣化を招いてしまうことにつながる。私たちが日常でできることは、可能な限り温室効果ガスの排出を抑えた暮らしをすることだ。
自動車の利用を控え、徒歩や自転車、公共交通機関を積極的に利用すること、使い捨てプラスチック製品の使用を控えること、家庭の電気を再生可能エネルギーに変えること、家庭から出るごみや食品ロスを減らすこと、環境に配慮した製品を選ぶことなど、些細なことが地球温暖化の抑制につながる。
こういった小さな取り組みの積み重ねが、美しい山と自然、そこに住む生き物たちを守る。
世界最高峰のエベレストは、登山者をはじめ多くの人を魅了している。しかし、ごみや排泄物により環境汚染が進んでいるのも事実だ。さらに温暖化が進み、氷河が溶ける危険もある。
エベレストを守るためには、登山者の力が必要だ。そして、新たな取り組みの成果も期待したいところだ。一方で氷河融解につながる温暖化に対しては、原因といわれている温室効果ガスを削減することが必要だ。登山者だけでなく、私たちにもできることはある。
※1 エベレストの全登山者に追跡チップ使用義務づけ ネパール - CNN.co.jp
※2 エベレスト登山者に糞便の持ち帰り義務付け、深刻化する排泄物問題に対応 - CNN.co.jp
※3 ネパール軍がエベレストのごみ収集作戦 遺体収容も - CNN.co.jp
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