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環境負荷の高さが指摘されている畜産業だが、それはペットフードにおいても同様。イギリスで新たに承認されたのは鶏から採取した細胞を培養し、動物の飼育や屠殺を必要としない培養肉のペットフードだ。
Kojiro Nishida
編集者・ライター
イギリス、イースト・ミッドランズ地方在住。東京の出版社で雑誌編集に携わったのちフリーランスに。ガーデニングとバードウォッチングが趣味。
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動物から採取した細胞を培養することで生産される「培養肉」。“クリーンミート”とも呼ばれる培養肉は動物を飼育・殺処分せずにつくれるため、環境への負荷が少ない、サステナブルな食肉の代替として注目されている。
すでにシンガポールやイスラエルなど、培養肉を使用した食肉製品を承認している国もあるが、新たにイギリスがその仲間入りを果たした。ヨーロッパの国としては初となる。
承認されたのは2022年に設立されたイギリスの企業「meatly(ミートリー)」のペットフード。鶏の卵から採取した少量のサンプルに、ビタミンとアミノ酸を加えて培養させた“培養鶏肉”でつくられている。できあがった製品はパテのようなペースト状で、細菌、遺伝子組み換え食品などを含まず安全であることも、厳しい検査により確認されている。
ミートリーは今年中にはペットフードのサンプルの発売を開始する予定だという。その後、コストの削減に注力し今後3年以内には生産規模も拡大させるプランだ。これまでに投資家から350万ポンド(約6.9億円)を調達しているミートリーだが、次は500万ポンド(約9.9億円)の調達が見込まれており、その注目度の高さもうかがえる。
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ウィンチェスター大学が行なった調査によると、調査対象となったペットを飼っている人の50%が「培養肉をペットに食べさせたい」と回答し、32%の人は「自分でも食べたい」と回答した。
ペットを飼っている人の多くが動物好きであることは容易に想像できるが、屠殺された動物の肉をペットに与えることにジレンマを抱えていた人は多く、動物の犠牲を必要としない培養肉のペットフードには高い需要があると考えられている。
さらに上述の調査によると、現在のペットフード産業の気候変動への影響は、世界で13番目に人口の多い国であるフィリピンと同等であると示唆されている。そのため、培養肉のペットフードは、気候変動対策としても期待が高まる。
グッド・フード・インスティテュートの英国政策マネージャー、ライナス・パルドー氏は、以下のように語っている。
「イギリスは培養肉の開発において世界をリードしており、培養肉のペットフードが承認されたことは大きな一歩です。これは集約的な畜産業による悪影響を軽減するための新たなイノベーションの可能性を示すものです」
現在イギリスでは、人用の培養肉の申請も進められており、食品基準庁で審査中だという。
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環境負荷の低さや動物の殺処分を必要としない点をみればメリットが多い培養肉だが、現在はまだ生産コストが非常に高く、一般に流通させるための大量生産にはさらなる技術革新が必要だと考えられている。また、自然の生産方法にこだわる価値観や、生命を操作することへの倫理的な反対意見も。
アメリカのフロリダ州やアラバマ州など、培養肉の販売を禁止している地域も存在しており、その理由は食肉の生産者である畜産農家の生活や地域の雇用を守るため。国や地域によって考え方や対応が大きく異なる培養肉は、今後世界中で議論が盛んになるトピックの一つだろう。
※参考
UK first European country to approve lab-grown meat, starting with pet food|The Guardian
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