先日都内で、化粧品が引き起こす環境問題の解決に取り組む「サキュレアクト株式会社」とELEMINISTの合同イベントが開催された。化粧品と環境問題について考えるトークライブや、化粧品のリアルを学ぶ参加型ワークショップなど、イベントの様子をメインにレポートをお届けする。
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エレミニスト編集部
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都内で、サキュレアクト株式会社とELEMINISTの合同イベントが開催された。24年3月に公開された記事「化粧品業界の闇『世に出る商品の約50%は廃棄』の悲しい現実」に多くの反響が寄せられたことから、本イベントを開催する運びとなった。イベントには、化粧品×環境問題への関心が高い約40名以上の読者が参加した。
前半は、サキュレアクト代表の塩原祥子氏とELEMINISTアドバイザー白鳥麻衣によるトークライブが行われた。後半は「今日からできること」をテーマに参加型のワークショップが行われ、参加者がそれぞれの視点から意見を交わす様子が見られた。身近な存在の化粧品とそれらを取り巻く現実を知り、未来のためにできることは何かを考え、シェアする貴重な時間となった。
私たちの日常生活に欠かせない存在であり、毎日使用している化粧品。しかし、その背景には、過剰な生産と廃棄の現状がある。経済産業省の調査によると、2022年には25億個以上もの化粧品が出荷された※。日本では人口が減少しているにもかかわらず、化粧品製造企業は増加の一途をたどっている。
とくに、アイシャドウやリップなどカラーバリエーションが豊富な化粧品は、各社が商品ごとに最低ロット(製造数量の最小単位)を確保して製造するため、膨大な量が生産される。しかし、百貨店やドラッグストアに並ぶ化粧品は、売れ残ると店頭から下げられ、メーカーに返品される。
※日用品化粧品新聞 2023年2月27日号|2022年化粧品出荷実績の月次推移より算出
https://www.hpc-news.co.jp/media/market/a989
売れ残った商品や使用期限が過ぎた化粧品は、小売業者から卸業者、そしてメーカーへと逆流し、最終的にはメーカーが処分する。日本では、化粧品の使用期限がパッケージに記載されていない場合、未開封で3年(開封後は1年程度で使い切るのが理想)とされている。このように返品された商品の再販は、ブランド棄損のリスクを避けるためにも難しいという。
さらに、化粧品に多くの化学成分が配合されていること、容器には複数のプラスチック素材を組み合わせて成型されることから、分解して処理・処分することが難しい。そのため、大半は産業廃棄物として廃棄されるのが一般的だ。また、化学成分を多く含む化粧品を廃棄する際には、環境への負荷も大きくなる。また、容器にはプラスチックが使用されているものが多く、それらを廃棄する際にも多くのCO2が排出されることになる。
こうした状況のなかで、サキュレアクト株式会社が開発したのが、微細藻類(びさいそうるい)から抽出された「ソラルナオイル」を配合した石けんだ。この石けんは海洋汚染につながる成分を一切含まず、天然由来成分100%でつくられており、環境にも肌にもやさしい。製造時にはCO2の排出量を最小限に抑えるコールドプロセス製法を採用している。
柔らかく弾力のある泡が、肌をやさしく包み込む。さらに、肌へのやさしさと大人の揺らぎ肌をケアできるカミツレ(カモミール)を配合することで、肌をなめらかに保ち、乾燥しにくい状態に導く。サキュレアクト株式会社は、「一人ひとりのちょっとした意識の変化が、環境保護の一歩を前に進める。そのために微細藻類を通じて代替え素材の開発や提案を行い、環境負荷を軽減して持続可能な未来へつなげる」ことを目指している。
塩原祥子氏。サキュレアクト株式会社代表取締役。化粧品業界に25年間携わり、2021年から担当していたブランドで多くの返品と廃棄を経験。化粧品で社会に貢献したいと思うなかで、微細藻類に出会い、サキュレアクト株式会社を創業。
25年間化粧品業界で多くの返品と廃棄を目の当たりにしてきた塩原氏は、「化粧品で社会に貢献したいとを思っていたが、環境を汚していることに驚愕とし、一時は業界を去ることも考えた」と語る。しかし、その過程で微細藻類に出合い、未来への可能性を確信してサキュレアクトを立ち上げた。
微細藻類とは、目に見えない小さな藻類のこと。「生命の原点」とも言われる微細藻類は、酸素を生成するなど地球環境の維持や食物連鎖において重要な役割を果たしてきた。太陽光とCO2から光合成をおこない、さまざまな有用物質を生み出すことができるため、カーボンリサイクル技術として地球の環境負荷を下げるものづくりや製品により、循環型社会に貢献できることが期待されている。
サキュレアクトが着目したのは、国内外で電気事業を展開する「J-POWER」が10年以上前から研究を続けている微細藻類のソラリス株とルナリス株だ。将来的にはSAF(持続可能な航空燃料)を生産することを目指しているバイオマス原料で、この2つの株を合わせて「ソラルナ」と呼んでいる。
ソラルナは、他の微細藻類に比べてオイル蓄積量が多く、海水で培養できること、ガラス質に覆われているため残渣の活用が可能であること、一年を通して国内で培養可能であることが特徴だ。地球温暖化の原因となるCO2削減にも貢献できる。また、さまざまな用途に活用可能だ。
その第一弾として誕生したのが、サキュレアクトの新商品「530 sea design soap」だ。この石けんにはソラルナオイルが配合されており、動物由来原料や合成界面活性剤、石油由来原料など海洋汚染につながる成分は一切使用していない。天然由来成分100%で、肌にも環境にもやさしいフェイスソープだ。また、包装にはFSC認証紙を使用し、リサイクルを推奨している。
石川県の九谷焼の新素材として産まれた「多孔質陶磁器」を活用したソープディッシュ。高い吸水性と速乾性があり、食器と同じように何度も洗って使用することが可能。
第二部では「化粧品と環境問題について考えてみよう」をテーマに、塩原氏と白鳥によるトークライブが行われた。この記事に寄せられた読者の声をもとに、化粧品に関する読者の疑問に回答し、知識を深める場が設けられた。
塩原氏は、シャンプーやボディソープの量り売りが進むなかで、化粧品の量り売りが難しい理由について解説した。化粧品を安全かつ衛生的に使用するための法規制があるため、店頭で持ち込んだ容器に詰め替えて購入することは難しいのが現状だ。そこで私たちができることは、「すでにある容器を大切に使い、詰め替え用を積極的に購入する」、「本当に心ときめくものだけ購入し、1つ1つを大切に使い切る」ことだと語った。
白鳥麻衣。ELEMINISTアドバイザー。ニューヨークでヨガを学んだことをきっかけに、ウェルネスとエシカルへの意識が高まり、現在はウェルネスとエシカルをかけ合わせたライフスタイルを送るためのヒントを発信中。
また容器の再利用に関してもハードルがある。化粧品の容器は着色、加飾されたものが多く、配合素材ごとに分けることができない。また、中身である化粧品自体に多くの化学成分が含まれており、洗浄しても落ちにくいことも再利用を阻んでいる。
さらに、容器自体の素材(プラスチックなどの表示)の記載は法律で定められているが、各パーツの素材表記までは義務付けられていない。そのため、分別自体も難しくなっており、細かく記載されているものは企業努力の証でもあるのだ。
また、商品を選択する際に目にすることが多くなった認証マークは、あくまで選択肢の一つに過ぎないことも忘れてはならない。認定によってその基準が異なるため、認証マークに頼りすぎない視点が重要だ。ブランドのストーリーやモノづくりへのこだわりを理解し、自分なりの基準を持って選択していこう。
参加者たちからは、自分の生活に置き換えられた実際的なアイデアがシェアされた。「流行などに惑わされず必要なものだけを購入し、使い切ることが大事」「地球環境に対するさまざまな配慮を実際どのようにしているのか、各ブランドが示すことが普通になってほしい」、「コスメを選ぶひとつの小さな選択でも、地球環境を守るアクションができることを家族や友人にシェアしたい」など、さまざまな意見が寄せられた。
来場者それぞれの気づきや思いが綴られたカード。
「お話を聞いて、これからは消費者として購入時の高揚感や楽しさを大切にしながらも、ちゃんと立ち止まって、商品の背景や企業の思いや取り組みを調べることの重要性を改めて感じました。また、化粧品の大量廃棄にヘアケア商品が含まれていることを知り、美容師としての責任を感じました。今後は化粧品業界の現状を頭に入れながら、お客様や周りの美容師にはヘアケア商品の楽しさだけでなく、正しい選び方も丁寧に伝えていきたいと思います」
「世の中にブランドが溢れ過ぎていて選択が難しいと感じますが、これからは企業の理念に共感できるか、応援したいと思えるかどうかを基準に選んでいきたいです。私たちが求めなければ、安いものが増えることもないのかと思うと、1人の100歩より100人の1歩が重要だと感じました。やはり『買い物は投票』であること、消費者が賢い知識を持つことの重要性を改めて認識しました」
「薄利多売の世の中で、人は多くの物をほしがり満足することに慣れていますが、物を大切にしないということは、自分を大切にしていないことと同じだと思うんです。これからはきちんと背景を知り、愛を持って物を買い、大切にすることが重要。私たちが自分自身を鍛えていかないと、持続可能な未来につながらないと思います。ホスピタリティを大切にすること、そして意識の高い人が周囲によりよい選択を促すことも重要だと感じました」
「管理栄養士・料理家として、化粧品と食品業界の共通点に気づかされました。新商品にワクワクして、不要なのにほしくなってしまうこともありますが、『本当に必要なのか?』と自問自答してから次のステップに進むことが大事だと感じました。表示をよく確認して情報を理解することが賢い消費につながると思うので、その力を自分で養うこと、そして生産者の背景を知ることも重要だと思います。また、微細藻類のお話を聞いて、その可能性に衝撃を受けました。同時に、美容だけでなく地球の味方でもあるのだと、今後がとても楽しみになりました」
「以前から化粧品の生産背景に興味を持っていましたが、塩原さんのお話を聞いて知らないことが多いなと感じました。まずは知識を深めることが大事で、無添加やオーガニックなどの言葉の意味を詳しく理解していくことは、ものを選ぶときに重要なので、改めてきちんと実践していきたいと思いました。将来的にソラルナオイルが飛行機の燃料になれば、世界は変わると思います。だからこそ、サキュレアクトを応援したい。消費者として商品を購入することでサポートできるのであれば、自分なりの支援を続けていきたいです」(白鳥)
「商品を購入する際に、その背景にある企業の思いや生産背景を、一度立ち止まって考えてほしいと考えています。そうすることで、もっと企業が意識を高め、サステナブルなものづくりに取り組むようになると思います。そのためには、消費者が賢くなることが必要です。真摯にものづくりをする人が増えれば増えるほど、よい世の中になっていくのではないかと思います」(塩原氏)
何かを選択するということは、その企業やプロダクトに投票するということ。その一票一票が、これからの企業、そして社会を左右することにつながるのだ。まずは知ること。そして、本当に心をときめくものだけを購入し、最後まできちんと使い切ること。その積み重ねが、持続可能な未来へとつながっていく。丁寧に、心地よい選択を重ねていこう。
2024年7月25日よりソラルナオイル配合のフェイスソープ「sea design soap」がELEMINIST SHOPで販売スタートとなっている。この機会に新しい素材を体験し、一票を投じてみてはどうだろうか。
sea design soap
発売日:2024年7月25日〜
価格:¥2,530 (税込)
執筆/藤井由香里 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)
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