Photo by Lucinda MacPherson
世界初の「ホームレス」をテーマにした美術館がロンドンにオープン。ホームレスの人々の創造性など、これまでにない形でこの問題に光を当てるのが目的。ホームレスを経験したことがある人々によって運営されており、スタッフには全員一律同じ賃金が支払われ、収益はホームレス支援に充てられる。
岡島真琴|Makoto Okajima
編集者・ライター・キュレーター
ドイツ在住。自分にも環境にも優しい暮らしを実践する友人たちの影響で、サステナブルとは何かを考え始める。編集者・ライター・キュレーターとして活動しつつ、リトルプレスSEA SONS PRE…
Photo by Lucinda MacPherson
2024年5月、ホームレス問題に特化した世界初の美術館「Museum of Homelesness」(以下、ホームレス美術館)がロンドンでオープンした。この美術館では、雨よけのためのごみ袋をはじめ、寝袋、廃材からつくられた歩行補助具、ショッピングカートの骨組みなど、ホームレスの現実を伝えるさまざまなオブジェがコレクションされている。
ホームレス美術館は、もともと2015年にジェス・タートルとマット・タートルの夫婦によって設立された。2017年に開催されたテート・モダン美術館での展示を皮切りに、グラスゴーやリバプール、マンチェスター、ロンドンなどで、ホームレスにまつわる巡回展示を行ってきた。そして2024年、ついにロンドン北部のフィンズベリー・パークのはずれに恒久的な「ホームレス美術館」をオープンさせた。
彼らは活動の指針として、以下の4つを掲げている。
①ホームレスに関する全国的なコレクションの構築
②ホームレスのための直接的な支援活動
③独立した研究とキャンペーンを通じて不正と闘う
④アーティストやクリエイターと協力して展覧会やイベントなどを行い、ホームレスについての教育を行う
この美術館の運営に携わるコアメンバー15人のうち、大半がホームレスを経験したことがある人。役職に関係なく、全員が同じ年収3万4800ポンド(約730万円)を受け取るという。
Photo by Lucinda MacPherson
ホームレス美術館のコレクションについて説明するスタッフ
オープニング展覧会のタイトルは「How to Survive The Apocalypse(黙示録を生き抜く方法)」。90分間のパフォーマンス型の展示で、ホームレスに関する固定概念を覆し、彼らの機知や回復力、創造性を伝えようと試みている。
この展覧会では、ガラスケースに収められたコレクションを観るのではない。スタッフがそのコレクションにある物品の背後にある物語を、元の所有者の言葉をそのまま使って少人数の訪問者に伝えるインタラクティブな体験を提供している。
例えば、この展覧会の登場人物の一人は、60代前半までは裕福な金融マンとして日本で快適に暮らしていた男性だ。彼は紆余曲折を経て、最終的にはがん治療を受けながらロンドンの路上でホームレスとして過ごすことになった。寄付された衣類を着て寒さをしのぎ、かつての雇用主の名前が刺繍されたフリースを身につけていたと、彼はひょうひょうと語る。
「私たちはホームレスに関して人々が口にすることを変えたいと考えています」と同館の運営マネージャーであるアダム・ヘミングスは言う。
「ホームレスの問題には、センセーショナリズムや哀れみ、被害者の物語であふれています。しかし、この展示で私たちが伝えたいのは、彼らには実際には多くの知恵や創造性があるということ。そして終末が訪れるとき、これらの問題に影響を受けた人々が多くの答えを持っているでしょう」
Photo by Lucinda MacPherson
ホームレス美術館の展覧会にて、ボランティアの語りに耳を傾ける人々
最新のデータによると、2022年に英国全土で29万世帯がホームレス支援を求め、そのうち一時的な宿泊施設に滞在した人々の数は過去10年間で倍増した。多くの人々が依然として支援を受けられず、2022年には英国の路上で生活する人の数が26%増加している。
さらに家賃がコアインフレ率を上回る速さで上昇し、状況はますます悪化している。2023年10〜12月の3カ月だけで、全国的にホームレスの数が16%増加。この博物館が探求する経験を持つ人々は、誤解され、頻繁に見過ごされているが、毎年統計的にも重要な存在となりつつある。
ホームレス美術館のような取り組みは、こうした社会問題にユニークな形で光を当てる好例といえるだろう。
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