“住まいは人権”とする「ハウジングファースト」の理念 日本の現状と普及に向けた課題点

ある一軒家の外観

「ハウジングファースト」というホームレスに向けた新しいサポートの仕組みについて解説。意味はもちろん、その仕組みやこれまでの支援との違い、メリットはなにかを説明する。社会的弱者が直面している貧困問題へのひとつの回答となりうるのか。課題点についても記述していく。

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2020.12.31
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ハウジングファーストとは

ハウジングファースト(housing first)とは、Weblio辞書によると「路上生活者を支援する際、新たな住居の提供を最優先に行う手法、またはその理念」とある。 「まず、住まいを」と訳されることも少なくないようだ。 

路上生活者などの居場所を、一時的な保護施設やシェルターなどを経て、ステップアップしながら最終的に定住できるようにするのではなく、住まいを最優先に提供するという考え方。

1990年代にアメリカで生まれたプログラムで、全土へ波及。さらには、カナダやフランス、スウェーデンなどの北米、欧州を中心に広がった。現在は、ホームレスの支援策として一般的なものとなってきている。 

日本では、2010年に「世界の医療団(MdM)日本」ら3つの団体が取り組みをスタート。現在は7団体が活動をしている。

最大のメリットは「住まいは人権である」という考え方

都市の裏道

Photo by Dewang Gupta on Unsplash

路上生活などを送る生活困窮者に対し、無条件で住まいが提供されること。これが、ハウジングファーストのもっともわかりやすく、最大の利点ではないだろうか。

ハウジングファーストの考え方に基づいた主な利点は下記の通りだ。(「ハウジングファースト東京プログラム」HPからの抜粋) 

・住まいは基本的人権 
・すべての利用者への敬意と共感
・本人の選択と自己決定
・利用者とのつながり
・地域に分散した住まい、独立したアパート
・住まいと住まい以外の支援を分ける
・リカバリーオリエンテーション
・ハームリダクション(※)
(※)公衆衛生において薬物などに依存する人に対して量を減らしたり、中止するのではなく、ダメージを防ぐことを主眼とする考え方、実践法。やめさせようとしない依存治療と呼ばれることもある。

上記のように、本人の意思が尊重されることはこれまでの支援との大きな違い。自由意思のもと、継続して支援を受けられる体制があることも大きなメリットだ。

結果的に、ハウジングファースト型支援によって社会的なコストが削減できることも判明しているそうだ。

これまでの支援とは違い

既存のホームレス支援となにが違うのだろうか。一番は、住まいを得ることが最終目的とされてきたことだろう。これまでは、行政などの公的なサポートを得て、ステップを踏みながら最終的に住まいを得ることがホームレス支援の道筋と考えられてきた。

そのため、身体や知的障害を持つ人、依存症に苦しむ人など、当事者の意見や思いは反映されにくいという側面があった。たとえ住まいを得たとしても、障害や依存症といった個々が抱える問題の根本が解消されず、再び家を失いホームレスに逆戻りしてしまうケースも少なくなかったようだ。 

一方で、ハウジングファーストは、当事者の考えを最優先することが基本のため、住まいを自らが選び、決定することができる。また、就業や医療など包括的なサポート体制によって、住まいを得た後も社会復帰への持続的な支援が受けられる。 

ウェブメディア「AMP」では、国を挙げてハウジングファーストに取り組み、ホームレスを減らすことに成功したフィンランドについてのレポートが掲載される(※1)など、実際に効果を挙げていることがわかる。 

支援の流れや仕組みを知ろう

公園に立っている寄付を呼びかける看板

Photo by John Benitez on Unsplash

2010年から本邦でハウジングファーストに取り組み、「ハウジングファースト東京プログラム」に参加するNPO法人「THNOHASI」。この活動から具体的な支援の流れを見てみよう。 

・まず、ハウジングファースト型の支援では、プロジェクトが借り上げた住まいを、ホームレス状態にある人々に対して無条件で提供することからはじまる。

・安心できる居場所を自分の意思で決めた後に、その人にあわせたケアが行われる。

・支援の輪には、精神科医や看護師、ソーシャルワーカー、ピアワーカーなど多職種からなるチームと地域が連携している。

活動内容/支援者を社会復帰へと誘うリハビリプログラム(日中活動)
・新たな対象者との接触などをはかるファーストアプローチ
・対象となる人が必要とする支援を個別に見極めるケアマネジメント
・クリニックや訪問での診療や介護などを行う医療保健活動
・行政機関への働きかけや教育、研究機関での講演などを含むアドボカシー
・支援する側の能力向上のための勉強会や個別カウンセリングなどを行う支援者支援

構成する7団体と主な役割

「世界の医療団・日本」全体運営、医療福祉相談、アドボカシー、研修
「TENOHASI」夜回り、炊き出し、生活サポート
「べてぶくろ」グループホーム運営、当事者研究、コミュニティスペース
「訪問看護ステーションKAZOC」障がい者支援、家庭訪問
「つくろい東京ファンド」住まいの提供
「ゆうりんクリニック」診療、訪問医療、福祉相談
「ハビタット・フォー・ヒューマニティ」住まいの修繕と管理 

ホームレスの現状

homeless

Photo by Randy Jacob on Unsplash

ここでいま一度、ホームレスの現状についておさらいしよう。

もっとも新しい2020年度厚生労働省の調査では、路上生活者の数は、3992人。同省の2007年調査では18564人のため、大幅に減少している…ように見える。

しかしながら、日本の基準はあくまで路上で生活する人数。欧米などのように、居場所がなくて知人宅に身を寄せる人や、家があっても経済的な理由で維持できないと予測される人などはカウントされない。また、セックスワーカーがセーフティーネットになっているという見方もある。

東京都の調査では、ひと晩に約4000人はいると推測されたネットカフェ難民のように、定住できる住まいを持たない「見えないホームレス」の数は、さらに増えることは想像に難くない(※2)。

また、平成30年度厚生労働省の調査では、ホームレスの数は4977人。そのなかで、東京都の1242人がもっとも多く、ついで大阪府の1110人と、大都市に集中していることがわかる。

平均年齢は、この時点で61.5歳と高齢化が進んでいる一方で、若年の「見えないホームレス」化が進んでいるという見方もある。

同調査では、27%以上が健康状態について「悪い」と回答しながら、60%以上は治療を受けていないことも判明。生活や健康への不安を抱え、路上生活を送っている人が多いことも浮き彫りになった。

ハウジングファーストの課題

ハウジングファーストは、支援を受けた人の多くが社会復帰への道を歩みだすことができる。しかも長い目で見れば社会的コストも軽減できるなど、メリットは大きい。

その反面、個々のケースに合わせたきめ細やかで継続的なケアが必要となる。課題もいくつかあることを覚えておこう。

・結果が出るまでに時間がかかる
・ひとりひとりのニーズや困難に対応する団体やネットワークの数が少ない
・NPOや民間だけでは支援に限界がある
・認知度が低いため支援を受けられない人がいる

 NHK「ハートネット・福祉情報総合サイト」にある「【特集】東京“ホームレス”」で、生活困窮者の支援を続けるNPO法人「もやい」理事長の大西連氏は、ハウジングファーストの課題をこう語っている(※3)。

「一人ひとりのニーズ、課題、困難を1つの団体・ネットワーク・地域だけで支えるというのは、難しさはあります。それをどうやったら解決するのか。(中略)居場所が地域のなかにたくさんあれば、1か所がダメでも他のところに行ける。そういうつながりをたくさんつくるような活動や地域の資源が必要で、しかもそれをNPO・民間だけではなくて、公的な仕組みや行政が支援をして、つくっていくことが必要だと思います」

 前述のフィンランドの成功例のように、公的な支援がないと持続的で包括的な支援をキープするのは難しいようだ。また、本邦ではまだまだマイナーな存在。周知の徹底も今後求められることになるだろう。

手を組み合う4人の若者

Photo by Melissa Askew on Unsplash

世界中で大きな問題である、ホームレスの増加の解決策として期待されているハウジングファースト式の支援。

この先は長引くコロナ禍で職を失い住まいを失う人や、大切な家族の支えが得られないなど、サポートを必要とする人がさらに増えることも予想される。誰も置いていかない社会を目指すためにも、早急な仕組みの強化と普及が求められている。                                        

※1 まずは「住まい」を。欧州で唯一ホームレスを減らした国の挑戦
https://ampmedia.jp/2019/06/19/finhomeless/
※2 「ホームレス問題の現状」|THE BIG ISSUE JAPAN FOUNDATION
https://bigissue.or.jp/homeless/
 ※3 東京“ホームレス”| NHK「ハートネット・福祉情報総合サイト」
https://www.nhk.or.jp/heart-net/article/205/

※掲載している情報は、2020年12月31日時点のものです。

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