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現在の日本では認められていないが、世界には一夫多妻制の国がいまも存在している。なぜ一夫多妻制が認められているのか。ここでは一夫多妻制の歴史や法的地位、宗教的価値観などをふまえつつ、一夫多妻制の現状とこれからについて考える。
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一夫多妻制とは、一人の男性が複数の女性と同時に婚姻関係を持つ婚姻形態のことだ。「複婚」「多重婚」と訳される「ポリガミー」のことで、文化や社会によって定義や範囲が異なる。社会的、文化的、宗教的な要因により、一夫多妻制を認める、認めないという規定が国や地域によって変わる。
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歴史を遡ると、世界の多くの国や地域、民族において一夫多妻・一妻多夫制などの複婚がみられる。アジアではインドや中国領チベットなどのさまざまな民族、イスラム教の国や地域、そのほか、アフリカ、アメリカ合衆国のモルモン教、16世紀にはキリスト教の一派の再洗礼派にも一夫多妻制がみられたという。(※1)また、国としての制度はなくとも、貴族階級、上流階級において一夫多妻制が浸透していたという場合も多くある。
日本では、江戸時代まで上流社会において「側室制度」や妾が存在した。正妻のほかに夫人を持つ形態であり、富裕商人や町人、武士などが実践していた。蓄妾制は明治時代に入ってからも続き、明治3年に制定された「新律綱領」では妻と妾を同等の二親等とすると定められている。
刑法では明治13年(1880年)に、戸籍法では明治19年(1886年)に妾は姿を消し、明治31年(1898年)の民法改正によって一夫一婦制が確立。これにより、それまで伝統的に側室を置いていた皇室でも一夫一婦主義となり、大正天皇以降は側室制度も廃止された。(※2)
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日本では、民法第732条で「配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない。」として一夫多妻制(重婚)が禁止されている。(※3)
世界的にみると、一夫多妻制の法的地位はさまざまだ。一夫多妻制は、アフリカ大陸、とくに西アフリカなどイスラム教の影響が大きい地域で多く見られる。ブルキナファソ、マリ、セネガル、ナイジェリアなども、一夫多妻の婚姻率が高い国や地域である。
一方、一夫多妻制を法的に禁止している国もある。中東、北アフリカ諸国で一夫多妻制を明文で禁止している国は、トルコやチュニジアがその例である。シリアやイラクなどでは裁判官の許可が必要で、モロッコやエジプトなどでは妻の了承が一夫多妻制の条件とされている。しかし経済的・倫理的な理由から、実際に複数の妻を持つ男性は少数である。(※4)
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一夫多妻制の捉え方は、宗教によっても異なる。イスラム社会における一夫多妻制は、コーランにもとづき男性が最大4人までの妻を持つことを許容している。しかし夫はすべての妻を平等に扱い、保護する義務がある。キリスト教では、一夫一妻が神の定めた秩序とされ、一夫多妻は認められていない。
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国や地域によっては、一夫多妻制が認められている。具体的にどんな国や地域で一夫多妻制が認められているのだろうか。
西アフリカでは、一夫多妻制が広く見られる。とくにブルキナファソ、マリ、セネガル、ナイジェリア、コートジボワール、ガーナ、モーリタニアなどで一夫多妻制による婚姻率が高い傾向がある。西アフリカはイスラム教徒が多く、宗教的・文化的背景が要因になっていると考えられる。(※4)
中央アフリカではチャド、東アフリカではタンザニアとウガンダの2国が突出して一夫多妻での婚姻率が高い。そのほか、ケニア、ザンビア、マラウイ、エチオピア、ジンバブエ、北アフリカのモロッコも一夫多妻での婚姻がみられる。(※4)
ドバイもイスラム教徒が多く住んでおり、一夫多妻制が認められている。最大4人までの妻を持つことができるが、すべての妻に平等に接する義務がある。また、第二夫人を迎える際には、第一夫人の許可が必要だ。経済的にも負担が大きく、多くの男性は一人の妻で十分と考え、重婚しない人が増えている。
エジプトでも、イスラム教徒の男性が最大4人の妻を娶ることが許されている。しかし実際には、一夫多妻制は一般的ではない。歴史的に一夫多妻制は、戦争による男女比の不均衡を解消するために導入されていた。しかし現代のエジプトでは、男女の人口比率が安定している。そのため、ほとんどの男性は一夫一妻を選ぶ。古代エジプトでも一般人は一夫一妻制だったが、王のみが多くの妻を持つことを許されていた。
サウジアラビアでは、一夫多妻制がイスラム教のシャリーア法に基づき認められている。サウジアラビアは女子差別撤廃条約を批准しているが、同国の一夫多妻制ではシャリーアに反しないという条件がついている。
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一夫多妻制は、社会的にどのような影響をおよぼすのだろうか。また、一夫多妻制の課題とは何だろうか。
一夫多妻制は、女性の地位や権利を低下させる可能性がある。一夫多妻制は男性が複数の妻を持つことを許容する一方で、女性には同等の権利が与えられない。そのため、男女間の不平等が生じる。女性は夫の経済力や意志に依存しがちになり、自己決定権が制限されることがある。また家庭内での競争や嫉妬が増え、心理的負担も大きくなる。
一夫多妻制は、女性が平等な立場で結婚生活を営むことを妨げ、男性に対する依存を強める。そのため女性はしばしば夫の経済力や決定に依存し、自分の意志を反映させることが難しくなる。これにより、女性の精神的および社会的福祉が損なわれる可能性が高まる。
一妻多夫制とは、1人の女性が複数の男性と結婚する制度。少数の地域や民族で見られる。一例として、インドのトダ族、チベット人、ポリネシアのマルケサス島人、スリランカのシンハラ人などの一部の民族が挙げられる。そのなかでも兄弟が1人の女性と結婚する「一妻兄弟婚」という形態が多く見られる。(※4)
一妻多夫制は女性の人口比率が低い場合や経済的に困難な地域で見られることが多く、1人の男性が家族を養うことが難しい場合に採用される。近年、南アフリカ政府はジェンダーニュートラルな結婚制度の一環として、一妻多夫制の合法化を検討している。なお、同国では一夫多妻制が認められている。
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世界では、宗教や法的な要因、経済的困窮や人口比率などの理由により、一夫多妻制や一妻多夫制がしかれてきた。歴史的には上流階級や貴族階級にのみ認められていた国もある。
その時代や国の状況に応じて、さまざまな結婚の形態が存在することは否定できない。どちらがいい・悪いという問題ではないが、ジェンダー平等と女性の権利が世界的に見直されているいま、一夫多妻制・一妻多夫制が認められない国が増えていく可能性が高いのではないだろうか。
※1 中国・漢族および少数民族における 一夫多妻・一妻多夫婚を中心にした婚姻制度― 人民共和国成立以前の事例を中心として ―|大手前大学論集
※2 一夫多妻制は日本にも存在した? 一夫一妻制が採用されるまでの歴史|All About
※3 民法|e-Gov法令検索
※4 一夫多妻制、一妻多夫制があるのはどこの国?|産経新聞
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