BLM運動とは 発端となった事件や歴史、世の中に与えた影響を解説

プラカカードを掲げる手

アメリカではじまった「BLM運動」。アフリカ系アメリカ人に対する人種差別撤廃を求める運動が世界中に広がりを見せ、大きなうねりを生み出した。本記事では、BLM運動とは何なのかをわかりやすく解説。運動が起きたきっかけや、運動が与えた影響、運動と紐づく人種差別の歴史もまとめている。

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2024.07.19
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BLM(Black Lives Matter)運動とは

BLACK LIVES MATTERと壁に描かれた様子

Photo by Simon Daoudi on Unsplash

BLM運動とは、2020年にアメリカで黒人男性が警察官に命を奪われた事件を発端に広がりを見せた人種差別抗議運動のこと。BLMは、「Black Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)」の頭文字を取ったもの。専門家によって見解は異なるが、「黒人の命は大切だ」「黒人の命も大切だ」「黒人の命は尊重されるべき」などと訳される。

主な活動内容は、抗議デモ。はじまりはアメリカだが世界中に広がり、多様な人種・世代の人が参加している。日本でも、東京や大阪で複数にわたってデモが実施された。(※1)「#blacklivesmatter」というハッシュタグをつけた投稿による発信も目立つ。ほかにも、黒人経営のブランドを支持するバイコット運動を行う消費者や、人権団体に寄付を発表した企業など、運動に関するさまざまな動きが確認されている。(※2)

BLM運動が世界的に加速するなかで、「All Lives Matter(すべての命が大事)」を掲げるケースも登場しており、議論を呼んでいる。(※3)「All」ではなく、あえて「Black」とすることに意味があるとの声が多いが、訳し方や表現がバラけることからも、人種差別問題に向き合う人それぞれの感度や価値観の違いが伺える。

BLM運動が起きたきっかけ

街を巡回する警察官

Photo by Fred Moon on Unsplash

前述の通り、BLM運動は2020年の事件がきっかけで注目されることとなった。しかし、BLM運動自体がはじまっていたのは、事件の発生よりずっと前のことだ。以下では、契機となった2つの事件を紹介する。

はじまりはトレイボン・マーティン射殺事件

BLM運動が生まれるきっかけとなったのは、2012年2月に南部フロリダ州で起きた事件。当時高校生だった黒人男性のトレイボン・マーティンさんが、ヒスパニック系の白人自警団の男性に射殺された。帰宅途中に、不審者と見なされてのことだった。マーティンさんは武器を持っていなかったにも関わらず、自警団の男性は正当防衛を主張。2013年に無罪評決がくだされた。(※4)

2013年、無罪を受けて、市民運動家のアリシア・ガルザさんがSNSに心境を投稿。このとき使われた表現の一部に「Black Lives Matter」があった。2人の運動家が賛同し、「#blacklivesmatter」のハッシュタグを拡散したことがBLM運動の原点になっている。その後、オンラインコミュニティ「BLACK LIVES MATTER」が立ち上げられた。(※5)

この事件に限らず、白人警察官による黒人に対する過剰な取締りが定期的に起きていた。警察官が起訴されないケースが相次ぎ、その度にBLMの言葉が少しずつ広がっていった。

ジョージ・フロイド事件による拡大

そんななか、2020年5月に、ミネソタ州で「ジョージ・フロイド事件」が発生した。白人警察官が、黒人男性のジョージ・フロイドさんの首を圧迫して殺害した事件だ。コンビニで拘束したフロイドさんを警察官が地面に押しつけ、8分以上にわたって首を圧迫し続けた。フロイドさんは「息ができない」と訴え、事件に遭遇した人々は死を避けるべく懇願した。しかし救急車で搬送後、死亡が確認された。(※6)

その場に居合わせた若者が撮影していた動画がきっかけとなり、世界中で人種差別撤廃の抗議が巻き起こった。それが、BLM運動を世界的に知らしめることになったのだ。

BLM運動の具体的な例

街中で行われるデモの様子

Photo by Corey Collins on Unsplash

BLM運動の具体的な活動としては、抗議デモやハッシュタグを使った発信などが挙げられるが、ほかにもさまざまな形で人種差別の撤廃を求める動きに加わってきた人たちがいる。

例えば、プロテニスの大坂なおみ選手は、全米オープンテニスなどの公式戦で、差別によって暴力を奪われた人の名前がプリントされたマスクを着用した。BLM運動の発端となった事件の被害者であるトレイボン・マーティンさんの名前もあり、SNSで事件について直接的に言及したこともある。(※7)

アメリカのプロバスケットボールリーグ「NBA」の選手たちも、積極的に人種差別撤廃を訴えている。元選手や現役選手が抗議活動に参加するほか、SNSでの発信も行っている。2020年6月には、マイケル・ジョーダン元選手が人種差別と戦うために1億ドルを寄付し、声明を発表した。(※8)

また、レディー・ガガやアリアナ・グランデなどの世界的アーティストが、BLM運動を支持し、発信を行っている。

一方、一部でBLMの講義が暴動や破壊行為につながっているケースがある。ジョージ・フロイド事件の翌々日、ミネソタ州では、事件が起きたミネアポリスの市長の要請を受け、「平和時緊急事態」を宣言。抗議運動の拡大に伴い、州兵が動員されることとなった。(※9)

BLM運動による影響

夕暮れどきに佇む銅像

Photo by Ángel Fernández Alonso on Unsplash

BLM運動が世界的に広まったことで、人種差別問題が以前にも増して注目されるようになったほか、情勢へおよぼした影響も多々あった。

BLMを契機に、警察改革を求める声が多く飛び交っている。2020年5月のジョージ・フロイド事件に関わった警察官4人は起訴され、2021年には首を圧迫したデレク・ショーヴィン被告に対し、実刑22年6ヶ月の量刑が言い渡された。元警察官に対して、ここまで重い刑が科せられたのは過去にほとんどないほど珍しいことだった。(※10)

また、2020年11月の大統領選で、トランプ元大統領をバイデン大統領が破ったのにもBLM運動が関係しているとの見方がある。差別を嫌い、多様性を重んじる傾向のある若年層や黒人層がトランプ批判を強め、投票した結果ともいわれる。

アメリカ国外では、BLM運動に連動するように、パレスチナでのデモが発生した。パレスチナでも、アメリカ同様に警察による差別や暴力が横行していたからだという。(※11)

さらには、人種差別主義者だといわれる人たちの銅像破壊の動きが多数見られた。イギリスでは、奴隷商人といわれるエドワード・コルストンの銅像が湾に沈められた。また、アメリカ初代大統領のジョージ・ワシントンやコロンブスなど、かつて偉人と讃えられてきた人物の銅像が次々と撤去された。(※12)イギリスのオックスフォード大学は、構内にある植民地政治家セシル・ローズ像の撤去の意向を表明した。(※13)

BLM運動が起きる社会的背景

人種差別撤廃を求めるデモ

Photo by Sushil Nash on Unsplash

コロナ禍だったにも関わらず、抗議デモがここまで大規模になったのには、人種差別によって虐げられてきたと感じている人が多かったからだ。黒人が逮捕され、収監される比率が白人の5〜6倍に当たるというデータがあるが(※14)、これには、これまでの歴史やそれに伴う潜在的な意識が大きく関係している。

アメリカでは、250年以上にわたって、アフリカ人やアフリカ系アメリカ人を奴隷化することが合法化されてきた。これまでの大統領のなかにも、奴隷所有者が多く存在する。1863年に奴隷制が廃止されてからも、公共交通機関や学校、トイレなどのさまざまなシーンで人種を区別する人種隔離制度が続けられた。その後の刑事司法制度も、黒人にとって不利な状況を助長した。不当な逮捕が後を絶たず、司法制度においても人種差別が横行している状況だ。(※15)

人種差別が負のサイクルを生み出し、所得や教育、医療などあらゆる面においての人種格差にもつながっている。人種差別や白人主義は、長い歴史が紐づいた根深い問題なのだ。

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差別のない平等な社会を実現するために

ピースサインを掲げる2人

Photo by Priscilla Du Preez 🇨🇦 on Unsplash

SDGsの目標10には「人や国の不平等をなくそう」があり、BLM問題とも大きく関わっている。差別のない社会を実現するために、私たちにできることは何だろう?以下では、具体的なアクションを3つ紹介する。

無意識の偏見や差別に気づく

まずは、無意識の差別や偏見に気づくことだろう。2017年の「外国人住民調査報告書」によると、日本に住む多くの外国人が日本社会のあらゆる分野において差別や偏見を感じている。(※16)「ジロジロ見られた」や「近所の住民になかなか受け入れてもらえない」などのなかには、差別を行っている意識がないケースも含まれているかもしれない。無意識に人を傷つける可能性があることを心にとどめておきたい。

また、2020年6月にNHKが放映した番組のなかで、黒人のアニメーションが人種差別的に表現されていたとして批判が殺到した。駐日アメリカ大使館からも批判の声が上がったほどだ。(※17)無関心ゆえの描き方だという見方が強い。

人種差別について学ぶ

人種差別についての知識を深めることも重要だ。差別をテーマとした書籍や映像作品は多数ある。また、WEB上のニュースを探すのもひとつの方法。家族や友人など、周りの人と人種差別についての情報や意見を交換し合うのもいいだろう。

多様性を尊重する

差別や偏見をなくすためには、多様性の尊重が欠かせない。いまの社会には、肩身の狭い思いをしている人が少なからず存在する。自分だけの価値観にとらわれず、広い視野で社会をとらえ、誰もが安心して暮らせる社会を実現していくことが必要だ。

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BLM問題は決して他人事ではない

BLM問題は、何もアメリカだけの話ではない。「日本には関係ない」「自分は差別をしていない」と思うかもしれないが、決してそうではないのだ。

自分の周りで差別は起きていないだろうか。差別がある社会を許してはいないだろうか。BLM問題の本質を見つめ、まずは身近な差別や偏見をなくすことを考えなければならない。

※掲載している情報は、2024年7月19日時点のものです。

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