ポリコレとは? 具体例やメリット、起きている弊害を解説

ジェンダー差別の撤廃を目指す女

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ポリコレとは、差別や偏見を含まない中立的な表現を用いること。多様性を尊重する世界的な傾向から、認知と対応が進んでいる。一方、ポリコレによる弊害も生まれている。SDGsにも通ずるポリコレの具体例や重要性、対策について解説する。

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ポリコレとは

ジェンダー差別の講義をする女

Photo by Norbu GYACHUNG on Unsplash

ポリコレ(ポリティカルコレクトネス)とは、特定の人物に対して不快感や不利益を与えないようにする行為のこと。現代では、人種や宗教、性別や見た目などにおいて差別や偏見を含まない中立的な表現を用いることに使われる。「PC」と呼ばれることもある。

ポリコレの語源と定義

ポリコレは「政治的な妥当性」や「政治的な正しさ」と訳される「Political Correctness」が語源となっている。明確な定義はないが、政治分野に留まらず、人種、性別、国籍、宗教、年齢、 障がいなど幅広い場面で使われている。

ポリコレはいつごろ生まれた?

ポリコレの発祥は1917年のロシア革命後のマルクス主義において、共産党の政策を守ることを表す用語として使われたのが始まりとされる。1900年代のアメリカで政治活動に使われたとする説もあり、はっきりとはわかっていないが、ポリコレという言葉自体が広く認知されるようになったのは、1970年代から1980年代のアメリカにおいて。白人主義からの脱却を目指す公民権運動やウーマンリブなどのフェミニズムが活発化したことが背景にある。一部の活動家から自嘲の意味も込めて使われていた。

日本では、1999年に「保母」から「保育士」に、2001年に「看護婦」から「看護師」に名称変更する法令が制定されるなど、ポリコレに即した動きがみられる。以降、アメリカをはじめとする世界的な動きを受けて社会的に認知されていった。

ポリコレが求められる理由とは

国際連合は、持続可能な未来を築くために貧困や教育格差、環境劣化などの問題を解決するために必要な17の目標「SDGs」を掲げている。

17の目標のなかにはジェンダー平等や不平等の撤廃、パートナーシップ制度の制定など、特定の人への不快感や不利益を与えないための目標が制定されている。ポリコレは、SDGsをはじめとした世界中の格差をなくすために求められている。

ポリコレの具体例

歓喜する民衆

Photo by Norbu GYACHUNG on Unsplash

ポリコレの考え方が世のなかに浸透したことにより、表現方法に変化が見られる。ポリコレによってどのような言葉が変わったのだろうか。ジャンルごとに代表的なものを説明する。

性別における表現

1999年以前は、児童福祉施設で子どもを保育している者を「保母」と呼んでおり、保母になるために必要な資格を「保母資格」と呼んでいた。

しかし、1999年に施行された「男女共同参画社会基本法(※1)」により男女の格差が見直され、いままで女性職員が大半だった児童福祉施設において男性職員の割合が増加した。そのため、保母は「保育士」という名称になり、資格の名称も「保育士資格」に変更された。

他にも「カメラマン」が「フォトグラファー」に、「看護婦」が「看護師」に、「ビジネスマン」が「ビジネスパーソン」になるなど、職業における名称が変更されている。また「ちゃん」「くん」などの性別を特定する敬称を、男女問わず使用できる「さん」に統一したり、容姿を蔑称するような「あだ名」などを禁止したりするのも一例だ。

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人種や民族における表現

探検家であるクリストファー・コロンブスがアメリカ合衆国のサンサルバドル島をインドと勘違いしたことがきっかけで、そこに住むアメリカの先住民を「インディアン」と呼ぶようになったという説。

しかしインディアンは蔑称であるという意見が多く挙げられたため、現在は「インディアン」「インディオ」は「ネイティブ・アメリカン」と呼ばれている。このように、人種や民族を差別するような表現も避けられている。

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性的指向における表現

「レズビアン(Lesbian)」「ゲイ(Gay)」「バイセクシャル(Bisexua)」「トランスジェンダー(Transgender)」「クエスチョニング(Questioning)」もしくは「クィア(Queer)」を総称して「LGBTQ+」と呼ぶ。ポリコレでは、性的少数者である「LGBTQ+」に対してもさまざまな対策が講じられてきた。

そのひとつが、アンケートや履歴書などに見られる性別の記入欄だ。従来の性別記入欄は「男性」「女性」の2択だったが、「LGBTQ+」のことを配慮し、「その他」「無回答」という項目が設定されるようになった。

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障がいや病気における表現

障がい者は、身体や思考、精神などの状態により継続的に生活への制限を受けている。従来は障がい者の「がい」に、悪い影響を及ぼすという意味の「害」や邪魔する・さまたげるなどの意味がある「碍」が利用されていた。

しかし差別的な印象を受けるなどの理由で「障がい者」と表現される傾向にある。また同様の理由で「痴呆症」から「認知症」、「精神分裂病」から「統合失調症」など、病名も変更されている。

社会がポリコレに対応するメリット

ひまわり畑で喜ぶ女性

Photo by Antonino Visalli on Unsplash

なぜ、社会的にポリコレに対する取り組みが促進されているのだろうか。社会においてポリコレに対応することのメリットとともに解説する。

多様性の促進

世界には、さまざまな能力やバックグラウンドを持つ人が存在している。障がい者の雇用を促進する法律やパートナーシップ制度の制定など、多様な価値観を認める動きが世界中で見られる。ポリコレは、価値観の多様性を促進させるために欠かせないものである。

マイノリティの権利擁護

日本国憲法第13条では「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由および幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と定められている。(※2)

日本をはじめとして世界では、マイノリティを含めたすべての人が個人として尊重されるべきだという考えが広まっている。ポリコレはマイノリティの権利を擁護し、ひとりの人間として認められる世界を実現するだろう。

公平性や平等性の向上

SDGsの10番目の目標は「Reduced Inequalities(人や国の不平等をなくそう)」だ。種族や民族、国籍の影響で不自由な暮らしを強いられている人も少なくない。ポリコレは、どのようなひとでも自分らしさを表現できるようにするため、公平性や平等性を向上させる。

創造性とイノベーションの促進

多様性を受け入れられる社会では、さまざまな属性の人々に活躍する場が与えられる。新たな価値観が集まること、そして人々が持つ能力が最大限に発揮されることで新たな発想が生まれ、創造性とイノベーションが促進される。

これからの日本は、少子高齢化に伴う労働力不足と世界的な競争力の低下という問題が待ち受けている。人種や性別、年齢や趣味嗜好に捉われない採用を行うことは人材確保の点でも必至であり、ポリコレに対応したダイバーシティ経営の実現が企業には求められる。

ポリコレが抱える課題

社会問題について考える人々

Photo by Helena Lopes on Unsplash

近年は、過度なポリコレによる問題点も指摘されている。すべての人が不快感や不利益を感じさせないようにするポリコレの、何が問題なのだろうか。

表現の自由の制限

ポリコレを意識するあまり、表現が制限されすぎるというデメリットが起きている。これまで、小説や漫画、映画といった創作物において、世界観をつくり上げる上である程度の脚色や作者目線での偏りのある表現は、作品の"味"として受け入れられてきた。

しかしながら、その作品に触れて不快感を抱く属性の人がいたならば、ポリコレに対応できていないことになる。また、ポリコレの浸透により、過度な言葉狩りによって著者が批判されたり、被害を受けたりしたケースも少なくない。

行き過ぎた配慮による弊害

ポリコレにより差別意識が抑えられる一方で、不利益を生じるケースもある。ポリコレを意識して映画を作成した結果、原作と乖離した演出やキャストが採用されたり、言葉狩りの影響で企業イメージがダウンしたりすることも具体例の一つだ。

ポリコレとは、特定の人物に対して不快感や不利益を与えない表現を行うことである。不快感を抱くかどうかは受け手側に委ねられており、発信者側はコントロールができない。すると、あらゆる受け手を想定し、徹底的にリスクのない表現や演出に終始してしまう。ポリコレを意識しすぎた作品に対して、「つまらない」「やりすぎ」と感じる視聴者がいることも事実だ。

多様性の抑圧

ポリコレによって、多様性を重んじる社会を築くことは問題ではない。しかし、そのプロセスや手法、論調に対して、否定する意見が出るのもまた、多様性である。その否定的意見や少数派の意見を"ポリコレ"をかざして撲滅することは、結果的に多様性を抑圧することになる。

ポリコレへの対応事例

地球儀

Photo by Kyle Glenn on Unsplash

ポリコレの動きは世界中で見られている。ここからはポリコレの対策を見ていこう。

エスキモー・パイの名称変更

エスキモー・パイは、アメリカを中心に発売されているアイスクリームだ。1921年にDreyer’s Grand Ice Cream社が発売した商品だが、「エスキモー」という単語が北極圏地域に住むイヌイット族やユピック族に対する蔑称であることが問題視された。Dreyer’s Grand Ice Cream社は、批判に伴い商品名や販売経路などの変更を発表した。

肌の色についての表現の見直し

かつてクレヨンや絵具、色鉛筆などにあった「肌色」。一般的な日本人の肌の色と似ていることから名付けられていたが、人種差別の観点から廃止された。世界では肌の色や外見について言及することはタブーだ。

消費者から「差別的だ」との批判の声が寄せられたことを受け、業界団体は色鉛筆は2000年、クレヨンや絵の具は2007年に、肌色を「うすだいだい」へと変更した。

アンケートフォームで「女性・男性・その他・回答しない」

アンケートフォームでは、回答者の情報を得るために年齢や職業、居住地を問う項目が設けられている。その中で、性別に関する項目が女性・男性の2択しか設けられていないことが「LGBTQ+」の観点で問題視された。

現在利用されているアンケートフォームの多くには、女性や男性の他にも「その他」や「無回答」という項目が追加されている。

「Ladies and Gentlemen」の廃止

これまで機内アナウンスやショーなどで顧客の注目を集めるために「Ladies and Gentlemen」という表現が利用されていた。しかし「LGBTQ+」の観点からそのフレーズは使われなくなり、いまでは「Hello Everyone」などの表現が利用されている。

ポリコレについて理解し、差別について考える

LGBTQIA+

Photo by Alexander Grey on Unsplash

世界には、差別に悩まされている人がたくさんいる。いきすぎたポリコレや過度な言葉狩りによる弊害は注意すべきことであるが、ポリコレはさまざまな差別をなくすきっかけとなることも事実だ。ポリコレを通じて差別の現状と向き合うと、新たな意識が芽生えるだろう。

※掲載している情報は、2024年6月7日時点のものです。

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