Photo by Prefer
シンガポールの「Prefer」が開発したのは、大豆パルプ、古いパン、余った大麦など、従来は廃棄されていた食材をアップサイクルした代替コーヒーだ。豆を使わない地産地消のコーヒーがいまシンガポールで注目を集め始めている。
Naoko Tsutsumi
エディター/ライター
兵庫県出身。情報誌、カルチャー誌、機内誌など幅広いジャンルの媒体の編集に携わる。コロナ禍にシンガポールへ移住。「住む」と「旅」の視点の違いに興味を持ち、地域の文化の違いを楽しんでいる。
地球温暖化でコーヒーが気軽に飲めなくなる日がくるかもしれない——世界流通量の半分以上を占めるアラビカ種のコーヒー栽培適地が2050年までに半減すると、国際調査機関のワールド・コーヒー・リサーチが警鐘を鳴らした「コーヒー2050年問題」。
この問題に本気で向き合い、私たちの暮らしに欠かせない“癒しの一杯”を気候変動から守ろうと奮闘しているのが、シンガポールのフードテック・スタートアップの「Prefer」だ。
Photo by Prefer
Preferが提案するのは、コーヒー豆を使わない代替コーヒー。原料は、地元企業から出る余剰材料だ。
豆乳チェーン「Mr Bean」の大豆パルプ、大手ベーカリー「Gardenia」で出た1日前のパン、ビール醸造所の大麦など、余剰材料や製造過程で生まれる副産物を調達することで、生産コストを経済的に抑えることができる。さらに、食品メーカーと提携して規模を拡大することができるというメリットもあるという。
「気候変動はコーヒー産地を脅かす恐れがあり、異常気象は供給ショックの問題を悪化させています。Preferは手頃な価格でおいしく、持続可能なコーヒー供給の代替手段を提供します」と、Preferの共同創業者兼CEOのジェイク・バーバーは「Singapore Business Review」の取材に答えている。
“豆を使わないコーヒー”は型破りに思えるが、従来のコーヒーではないことに気づかない人がいるほど、本格的な味わいだという。その高い再現性と満足度があるのは、食品科学者としてのキャリアを持つもう一人の創業者、タン・ディン・ジェイの存在も大きいだろう。
また、Preferのコーヒーはコーヒー豆を挽いて淹れる従来のコーヒーと同じように抽出できる。バリスタがふだんと同じように扱えることから、導入するカフェが少しずつ増えてきているようだ。
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比較的新しい市場にもかかわらず、Preferがホットなスタートアップとして注目されていることは、シンガポールの投資会社「Forge Ventures」が主導するシード資金調達ラウンドで200万米ドル(約3.2億円)を確保したことからもわかる。
戦略的な資金調達によってPreferは生産施設の能力を拡大。シンガポールとフィリピンを皮切りに、アジア太平洋全域で挽きたてコーヒーとボトル入り飲料を拡大するための大規模な投資を行う予定だという。
実は、エスプレッソ発祥の地であるイタリアにも、カフェインを含まないエスプレッソ風の飲み物がある。古代種の大麦をじっくりと焙煎した“オルゾ(orzo)”呼ばれる大麦コーヒーで、カフェインを摂りすぎたとき、風邪のときに身体を労わるものとして親しまれている。そんな代替コーヒーについて、改めて世界が注目し始めているようだ。
※参考
Prefer
Startup future-proofs coffee with bean-free alternative amidst climate crisis|Singapore Business Review
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