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外見によって人を差別するルッキズム。なぜルッキズムは起きてしまうのだろうか。そして、ルッキズムが社会に与える影響とは何だろうか。歴史やSDGsとの関連性などを基に、ルッキズムの現状とこれからについて考えてみよう。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
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ルッキズムとは、「Look/外見・容姿」と「-ism/主義」を合わせた造語。外見や容姿を重視し、それを基準に人を判断したり差別したりする態度や行動のことだ。社会的・職業的な場面でとくに顕著に現れ、日本語で「外見至上主義」と訳されるように、美しいとされる人が優遇され、そうでない人が差別される。
ルッキズムは自己評価や精神的健康に悪影響を与えるだけでなく、不平等を助長し、能力や人格よりも見た目が重視される風潮を生み出す。
ルッキズムは、1970年代にアメリカで始まった肥満差別への抗議運動「ファット・アクセプタンス運動」で使われたのが始まりとされる。日本でこの言葉が使われ始めたのは最近のことだが、ルッキズムの考え方自体は古くからある。
地方自治体や大学などで開催していたミスコンテスト、人材派遣会社が登録者の容姿のランク付けを行っていたこと、採用活動時に応募者自身が"プチ整形"を行うことなどだ。(※1)これまで日本では、当たり前のように外見至上主義が受け入れられていた。
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古くから考え方自体はあったものの、近年、問題視する声が世界的に広がっているルッキズム。その背景には、"ルッキズムの加速"が目に余るものであることが挙げられる。では何がルッキズムを加速させたのだろうか。次に考えられるものをみていこう。
メディアによって整ったルックスの人が取り上げられることによって、特定の外見を理想とするイメージが繰り返し強調される。そういった画一的な美の基準ができあがることで、その基準に該当する人、そうでない人で優劣がつきやすくなってしまうことが、ルッキズムを加速させている。
それはインターネットやSNSの広がりによって、より強くなった。整ったルックスのインフルエンサーやモデルが頻繁に取り上げられ、ライフスタイルや思想などが称賛される。それらはフォロワーや「いいね」の数で可視化され、順列されてしまう。
プラン ・ユースグループが行った「ユースを対象にした容姿に対する意識調査」によると、SNSがきっかけで自分の容姿に関心を持った人は51.5%であり、テレビ(40.3%)より多かった。なお、この調査では、約9割の人が「自分の容姿について悩んだことがある」と答えている。(※2)
就職活動における"顔採用"やSNSにおけるフォロワー数など、社会全体に蔓延している外見至上主義の価値観が、ルッキズムをさらに加速させている。
「容姿や外見が整っていれば、自分が入りたい会社に採用される可能性が高くなるのに」、「このインフルエンサーのように自分も外見が美しければ、フォロワーが増えて人気者になれるのに」といった感情に囚われてしまうのは、人として不思議なことではない。
容姿が整っているとされる人がキャリア形成や経済的自由度において"得をする"という社会、明確な根拠がないにしても、そう感じさせる社会がルッキズムの加速につながっている。
アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)は、ルッキズムを加速させる主な要因のひとつだ。無意識のうちに持っている外見に対する偏見が、日常の判断や行動に影響を及ぼす。
一例として、面接や昇進の場面で、外見がいい人に対して好意的な評価をしやすくなることなどがある。またアンコンシャスバイアスは、社会全体で外見を過剰に重視する風潮を助長する。
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ルッキズムは、どのような問題を引き起こすのだろうか。
社会においてルッキズムが浸透し、受け入れられている場合、美しい外見を持つ人が優遇され、就職、昇進、教育の機会などで有利になることが考えられる。一方で外見が整っていないとされる人は、不利な立場に置かれやすくなるという不平等が起きる。
このような偏った評価は、個人の自尊心や社会的地位にも影響し、経済的、社会的格差を広げる。またメディアや広告が特定の美の基準を強調することで、社会全体がその基準を内面化し、外見による差別が制度的に固定化される。
ルッキズムが浸透した社会では、「自分は優劣の"劣"だ」と思う人の自己評価や自尊心の低下が問題となる。自信の喪失や孤独感、不安を引き起こし、心理的なストレスを増大させる。ルッキズムによって外見を重視することは、個人の多様性を認めず、自己受容を困難にさせる。
ルッキズムを起因とする外見に対する過剰な懸念や不安は、摂食障害や心身の不調を引き起こす場合がある。またルッキズムが個人の自己受容感を低下させ、うつ病や不安障害のリスクを増加させる。
さらに外見に対する差別が社会的孤立感を助長し、心理的・身体的な健康に悪影響を与える。ルッキズムが浸透することで、個人の健康全般にわたるリスクが増大する。
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加速するルッキズムに対し、危機感や息苦しさを感じる人が増えている。そういったなかで、社会的にルッキズムの存在を排除・制限する動きも見られ、これまで当たり前とされてきたことが見直されつつある。その例をいくつか見ていこう。
上智大学は、2020年に女性らしさや男性らしさを評価する「ミス・ミスターソフィアコンテスト」を廃止し、社会を先導し活躍する人材を輩出することを目指す「ソフィアンズコンテスト」を開催した(※3)。このように、ルッキズムを見直すためにミスコンやミスターコンなどを廃止する大学が増えている。
プラスサイズモデルとは、主にプラスサイズの衣服を着用する大柄なモデルを指す言葉だ。化粧品や家庭用品などさまざまな製品の広告にも登場する。プラスサイズモデルを採用する企業が増えたことで、外見を重視する社会的価値観が少しずつ薄れている。
漫才やコントでの容姿や外見に関する内容も見直される傾向にある。これまで漫才やコントでは、見た目の批判、いじりや自虐をネタにしていることも少なくなかった。しかしルッキズムへの批判の高まりという社会全体の気運が、観衆や視聴者の冷ややかな反応というもので表面化するようになった。それに伴い見た目に関して卑下するような芸風やネタが少なくなっている印象だ。
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ルッキズムをやめるために、私たちは何ができるだろうか。
外見に基づく偏見が無意識に潜んでいることに気づき、外見に対する偏見を修正することで、人々の多様性を尊重し、外見による差別を減少させられる。また社会全体で無意識のバイアスに対する教育や意識改革が進むことで、より包括的で公正な社会が実現する。
外見が異なることを肯定することで、人々は自己受容感を高め、他者を包括的に評価できるようになる。これにより外見に基づく偏見や差別が減少し、個人の機会均等や心理的な健康が促進される。
また多様な美を広告やメディアで反映させることで、若い世代も偏見にとらわれることなく自信を持ち、自己実現を追求できる。
外見に対する偏見や差別がどのように個人や社会に悪影響を及ぼすかを理解することで、公正な社会を目指す意識が芽生える。また、ルッキズムがどのように形成され、強化されるのかを理解することで、それを防ぐための具体的な対策や教育が実現できる。
個人レベルから政策や制度レベルまで、包括的なアプローチが取られることで、多様性を尊重し差別を減らすことができる。
ルッキズムでは、人々が外見によって評価され不平等な扱いを受ける人もいる。これに対し、より持続可能な未来の実現を目指すSDGsでは、誰一人取り残さない社会の実現を目指している。
ルッキズムは、目標10「人や国の不平等をなくそう」に反する考えだ。外見による差別や偏見は個人の機会を制限し、社会的・経済的な格差を助長する。いま世界全体で取り組むべきSDGs。それを実現するためには、ルッキズムを解消して多様性を尊重しなければならない。
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ルッキズムを見直すことは、外見による偏見や差別を減少させ、多様性を尊重する公正で包括的な社会を促進する。多様な価値観が認められようとしている現代社会においてルッキズムの撤廃は欠かせない。ひとりひとりが外見に対する価値観を見直し、言動を改めることで、すべての人が活躍できる社会を実現できるだろう。
※1 ルッキズムと向き合う|東京新聞
※2 ルッキズム(外見至上主義)を考える「ユースを対象にした容姿に対する意識調査」報告書|プラン ・ユースグループ
※3 Sophian's Contest | ソフィア祭2023
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