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宇宙空間の環境を悪化させるスペースデブリ。スペースデブリは「宇宙デブリ」や「宇宙ごみ」とも呼ばれるもので、宇宙空間だけでなく地球上にも影響をおよぼすと考えられている。発生原因や問題となる理由、対策に取り組む企業を見ていこう。
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スペースデブリは「宇宙デブリ」「宇宙ごみ」とも呼ばれているもので、宇宙空間に放出される人工衛星やロケット機体などの人工物体の残骸、それらから発生した破片のことだ。これらは地球周回軌道を、高速で飛び交うように動いている。
国際法上の定義は存在しないが、国際機関間スペースデブリ調整委員会(Inter-Agency Space Debris Coordination Committee: IADC)が2002 年に採択したガイドラインにおいて「地球周回軌道に存在するか大気圏再突入途中の、すべての非機能的人工物体であり、それらの破片と構成要素を含むもの」と定義している。(※1)
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ここでは、スペースデブリの発生原因について説明する。
人工衛星や人工衛星を打ち上げるために使用するロケットなどの宇宙機が運用を終了し、放置されるとスペースデブリとなる。
人工衛星は、運用過程においてもスペースデブリを出すことがある。たとえば多段ロケットの段間を固定するバンド、段間の切離しに使われる爆発ボルト、光学機器を保護するためのカバーなどだ。またロケットの燃焼ガスに含まれる燃焼生成物(スラグ)や、宇宙機表面の塗料片もスペースデブリとなる。
軌道上に飛んでいる宇宙物体が、衝突、爆発、意図的破壊などで破裂すると、それによって発生した破片もスペースデブリとなる。
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スペースデブリの数や種類の現状と、将来予測について解説する。
前述したとおり、運用を終えた人工衛星はスペースデブリとなる。2023年12月時点において、軌道上に存在している人工衛星は約11,500機で、そのうち稼働しているのは約9,000機といわれている。運用を終えた約2,500機の人工衛星が、スペースデブリとなっている計算だ。
また宇宙監視ネットワークによって定期的に追跡され、カタログに保持されているスペースデブリの数は約35,150となっている。そのほか統計モデルに基づいて推定されたデータによれば、軌道上にあるスペースデブリの数は、直径10cmを超えるものが3万6,500個、1~10cmのものが100万個、1mm~1cm のものが1億3,000万個ある(2021 年時点の推計)(※2)
スペース・デブリの種類には、衛星に搭載された観測機器などのミッション機器ですでに機能停止したもの、宇宙空間に残された宇宙活動に関連する物体の「オペレーショナル・デブリ」、爆発や衝突などの理由で宇宙物体を分解した際に生じる「分裂(破砕)デブリ」、微粒子やガス、宇宙光から構成される「微細物質」がある。(※3)
仮に宇宙活動が停止した場合であっても、スペースデブリは増加すると考えられている。これは、既存のスペースデブリが衝突などによって分解・破壊され宇宙環境が悪くなるためだ。よってデブリを出さない努力をし、現状のデブリ数を維持するとしても、スペースデブリの数は増えてしまう。なお「国際機関間デブリ調整会議における6機関の将来予測」では、予測すべてが「デブリが増加する」となっている。(※4)
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そもそも、スペースデブリはなぜ問題となっているのだろうか。その理由を解説しよう。
スペースデブリの低軌道における移動速度は秒速7〜8kmあり、かなり高速で動いている。スペースデブリの大きさにもよるが、そのような高速で動くスペースデブリが宇宙機に衝突すると、宇宙機に損傷が生じ、当たりどころが悪ければ使えなくなってしまう。
スペースデブリが地上に落下するリスクもある。大きさや材質によっては、落ちてきたスペースデブリによって死傷者が出る可能性もある。ただしスペースデブリによる地上での被害を防ぐため、「コントロールドリエントリー」と呼ばれる宇宙機を制御しながら大気圏に突入させ、人の生活に影響しない領域に落下させようと試みることもある。
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スペースデブリが原因で起きた事故の事例を2つ紹介しよう。
1996年6月3日、軌道上を漂っていた米国のペガサスロケットの上段部分が突如爆発した。この爆発により、高度250~2500kmの広い範囲にわたって、地上から観測できる大きさのものだけで700個以上のスペースデブリを撒き散らした。これは史上最悪のスペースデブリ発生事故となった。(※5)
1996年7月、活動中のフランスの軍事衛星セリースと、10年前に軌道上で爆発したヨーロッパのロケットの破片であるスペースデブリとの衝突事故が発生。相対速度秒速15km(およそ時速5万4000km)で衝突し、姿勢制御用の装置が損傷した。しかしセリースは復旧作業により、ミッションを継続できるまでに回復した。(※5)
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宇宙において危険かつ被害をもたらすスペースデブリ。その対策として、どのようなことが行われているのだろうか。
現在は、既存のスペースデブリの回収・除去する技術は確立していない。JAXAや宇宙開発に関連する民間企業により、開発が進められている状況だ。
JAXAでは民間事業者と連携し、段階的な技術実証を進めている。最終的には、除去効果が大きく、技術的に高度な大型のスペースデブリ除去を目指している。
新たなスペースデブリを発生させないことも、対策のひとつだ。アメリカでは、1988年から新たなデブリの発生を最小限に抑えることを目的としたデブリ対策をしている。
スペースデブリの観測と監視をすることで、デブリによる事故防止につながる。デブリの観測には、光学望遠鏡やレーダーが使われている。また軌道上に設置した実験用機体の表面に生じた衝突痕から統計的な分析を行い、軌道上のデブリ分布を推測する手段もとられている。各国では、こうした軌道情報を解析する「宇宙状況監視(Space SituationalAwareness: SSA)」活動を行いながら情報共有する取り組みも進めている。
スペースデブリとの衝突を回避・防御することで事故を防げる。防御の一例に、宇宙飛行士が滞在する国際宇宙ステーションの外壁にある防御材「ホイップルバンパー」がある。このホイップルバンパーは、デブリの衝突エネルギーを熱エネルギーに変換して外壁を守っている。1cm以下のデブリなら防御可能だ。
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国際連合宇宙平和利用委員会(United Nations Committee on the Peaceful Uses of Outer Space、 UNCOPUOS)は、スペースデブリの発生を防止するため、2007年に「スペースデブリ低減のためのガイドライン」を承認・提言した。具体的には次のような内容で、国際連合平和利用委員会加盟国に対して最大限可能な範囲で自主的に対策を取ることを求めている。
1 運⽤中に放出されるデブリの制限
2 運⽤中の破砕の可能性の最⼩化
3 偶発的軌道上衝突確率の制限
4 意図的破壊活動とその他の危険な活動の回避
5 ミッション終了後の破砕の可能性の最⼩化
6 ミッション終了後に低軌道域に⻑期的に留まることの制限
7 ミッション終了後に地球同期軌道域に⻑期的に留まることの制限
(※6)
具体的な内容としては、「スペースデブリ低減策の適用を管理するために、各プロジェクトやプログラム毎に実現可能な『スペースデブリ低減計画書』を制定し、文書化すること」、「軌道に物体を放出するプログラム・プロジェクトや実験は、適切なアセスメントによりその軌道環境に与える影響と他の宇宙運用物体に与えるハザードが長期的観点で許容範囲であると立証できない限り、計画しないこと」、「ミッションを終了した宇宙機は、静止軌道上の宇宙システムと干渉を起こさないように十分遠くに移動させること」、などが書かれている。
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現在、スペースデブリ対策に取り組んでいる企業を2つ紹介する。
アストロスケールは、スペースデブリ除去サービスの開発に取り組む日本の民間企業だ。衛星運用終了時のデブリ化防止のための除去や、すでに軌道上に存在するデブリを特定して捕捉するための技術を開発している。(※7)
スイスのClearSpace社は、スペースデブリの捕獲・除去技術の開発をしている企業だ。2026年後半には、同社が開発した衛星「クリアスペース―1」を打ち上げ、スペースデブリへの接近、ロボットアームでの回収、地球の大気圏に放って除去するといった作業を実施する予定だ。(※8)
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スペースデブリは、宇宙の環境問題といえる。宇宙空間だけでなく、地上にも影響を与える可能性がある大きな問題だ。さまざまな国で進められている、スペースデブリを除去する技術や検証に注目したい。
※1 IADCスペースデブリ低減ガイドライン|JAXA
※2 Space Environment Statistics|Space Debris User Portal Website
※3 スペース・デブリに関する宇宙法の現状および課題|東京大学
※4 スペースデブリの除去|JAXA 研究開発部門
※5 宇宙ゴミの脅威|日経サイエンス
※6 COPUOSにおけるスペースデブリに関する議論|外務省
※7 アストロスケール
※8 ClearSpace
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