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センサリー・インクルーシブ認証を行う「KultureCity」。同団体では、聴覚、触覚、味覚、視覚、嗅覚といった感覚の反応する力に問題を抱える人々が過ごしやすい環境を整えるべく、センサリー・インクルーシブ認証制度をつくり、それらの人々がくらしやすい社会の実現を目指している。
岡島真琴|Makoto Okajima
編集者・ライター・キュレーター
ドイツ在住。自分にも環境にも優しい暮らしを実践する友人たちの影響で、サステナブルとは何かを考え始める。編集者・ライター・キュレーターとして活動しつつ、リトルプレスSEA SONS PRE…
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空港の行列や蛍光灯の光、満員電車のにおい、観光スポットやライブイベントの人混み……。そうした場面で大きな疲れやストレスを感じたり、あるいは調子を整えるために1人の時間が必要だったり、という人は少なくない。
米国国勢調査局の調査によると、アメリカでは実に4人に1人がそうした感覚処理の問題を抱えているという。感覚処理とは、聴覚、触覚、味覚、視覚、嗅覚などを通して入ってくる情報に対して、反応する力が弱いことをいう。とくに自閉症やADHD(注意欠陥・多動性障害)、認知症、PTSD、脳卒中患者などは、大きな影響を受ける可能性がある。
そんな感覚処理の問題を持つ人々のための非営利団体が、アメリカを拠点とする「KultureCity」だ。
「KultureCity」では、感覚処理の問題を抱える人々が過ごしやすい社会をつくるべく、「感覚的ニーズ」に応える取り組みを行っている企業やイベント、施設などに対して認証する「センサリー・インクルーシブ認証」制度を設けている。
同団体が認証しているのは、主にイベント会場、博物館、動物園・水族館、スポーツ施設などで、1800以上にもなる。また空港や宿泊施設、団体旅行業者、クルーズ会社、旅行予約プラットフォームなども認証され、観光業界でも注目されている。ウェブサイト上では、認証を受けた施設がマッピングされた地図を閲覧できる。
KultureCityのエグゼクティブ・ディレクターを務めるウマ・スリヴァスタヴァ氏は、認証の取得に必要な条件について下記のようなものを挙げる。
・少なくとも50%以上のスタッフが、「感覚的ニーズ」を持つ人々をサポートするためのトレーニングを受けていること
・「センサリー・インクルーシブ・バッグ」(騒音を軽減するヘッドフォン、まぶしさを軽減するシェード、ストレス軽減のためのフィジェットトイなどが入っている)等の提供
・過度な刺激や感覚に大きな負荷をかけないため、一人で静かな時間を過ごすことのできるセンサリー・ルームや専用スペースを提供していること
・施設のレイアウトや看板のサインを絵や写真を使ってわかりやすく表現したり、スタッフと識別しやすいようなユニフォームを着用したりと、施設に慣れ親しんでもらうための工夫がなされていること
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最近では、フィラデルフィア市が同団体から認証を得て、史上初の「センサリー・インクルーシブ・シティ」となった。同市では現在、公共交通機関や市のサービスなど、さまざまな部門にわたって1万6000人以上の職員の訓練を行っている。さらに市の施設や主催するイベントでは、センサリー・ルームの設置やヘッドフォン等のグッズの提供を行うという。
一方で、自閉症患者を支える活動を行う団体ASANのゾーイ・グロス氏は、フィラデルフィア市の取り組みを評価しつつ、都市全体に「センサリー・インクルーシブ」と認証することは、非現実的な期待を抱かせるかもしれないと指摘する。「人々は知識を持っているし、道具も持っている。でも、それがこの街の感覚的な体験を大きく変えたとは思えない」として、当事者たちへのさらなる理解や支援の必要性を訴えている。
たしかにグロス氏の言うとおり、現段階では行政サービスや同市主催のイベントに適用されただけで、都市全体が感覚処理の問題を抱える人にやさしいとはいえないかもしれない。しかし、こうした認証の存在は「センサリー・インクルーシブ」に対する社会の意識を高めるための一歩となるだろう。
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