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貧しい生活状態の人たちが密集して暮らす地域「スラム」。スラムは、SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」にも関連する問題だ。なぜスラム街ができるのか、世界のスラムの現状、スラム問題の解決に向けた取り組みを解説する。
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スラムとは、一般的に貧しい生活状態の人たちが密集して暮らす地域のことをいう。スラムで暮らす人たちは、教育や医療、最低限のインフラ利用といった公共サービスが受けられず、安全面や健康面が懸念される。
現在において、日本にはスラムは存在しない。後に解説する、国連人間居住計画によるスラムの定義に該当する場所は、日本にはないからである。
スラムと似た言葉に「ドヤ街」がある。ドヤ街とは、一般的に日本における日雇い労働者が多く住む地域のことを意味する。ドヤ街の「ドヤ」は、「宿(やど)」を逆さにした言葉で、戦後の高度経済成長期に、日雇い労働者のための簡易宿泊所が多くつくられたことが由来となっている。なおドヤ街には一般住宅もあり、スラムの定義には該当しないとされる。
1978年に設立された「国連人間居住計画(UN-Habitat/ハビタット)」は、持続可能な人間居住開発を促進する国際連合の機関だ。ここでは以下の5つの項目のうち、1つでも欠けている世帯をスラム世帯と定義している。(※1)
• 改善された水へのアクセス
過度な身体的努力や時間を必要とせず、適量の水が手ごろな価格で入手可能である。
• 改善された衛生施設(トイレ)へのアクセス
私用トイレ、または妥当な人数で共用する公共のトイレの形態で、排泄物処理設備が利用可能である。
• 住み続けられる保証
住居の確実な賃貸または所有の状態の証明として、または強制退去からの保護のために、使用できる証拠または文書がある。
• 住居の耐久性
危険のない土地に永続的で適切な構造で施され、降雨、寒暖、または湿気といった気候条件が極度に至っても居住者を保護できる。
• 十分な生活空間
同じ部屋を共用するのは最高3名まで。
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なぜスラム街ができてしまうのか、その理由を解説する。
スラム街の住人は、もともと地方で暮らしていた貧困層である。その人たちが、少しでも収入のいい職を求めて都市部に移住するものの、職に就けなかったり、満足する収入が得られなかったりするケースがある。そうすると都市部の高い家賃が払えず居場所を失ってしまい、生活が成り立たないことから隣接した地域にスラムを形成する。
職に就けない理由のひとつが「教育」だ。ユニセフが発表した「世界の就学状況報告書」によると、2018年時点で世界で学校に通っていない5歳から17歳の子どもの数は3億300万人となっている。(※2)
教育を受けられない理由には、紛争や自然災害の影響受ける国に暮らしていることや、教育費が捻出できない、教育よりも家庭の仕事が優先されるなどがある。教育を受けていないと、文字の読み書きや計算などができず、賃金の高い仕事に就ける可能性は低くなる。よって、都市部で職に就けない人が一定数いることがスラムを生む原因となる。
治安の悪化も、スラム街ができる原因のひとつだ。職に就けないことから、スラム街の住人は麻薬売買や強盗などの犯罪に手を染めるケースも多い。するとスラム街にほかの都市部や地域からも犯罪者が集まるようになり、スラム人口が増え、犯罪の温床となってしまう。政府や警察の管理が行き届きにくいスラム街での生活環境は、悪化する一方である。
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世界の都市人口の増加に比例し、スラムの人口も増加傾向にある。国際連合人間居住計画(UN-HABITAT)の発表によると、世界のスラム人口は2000年の7.6億人から、2013年には8.6億人に増加した。
スラム住民が都市住民全体に占める比率では、アフリカのサブサハラ(サハラ砂漠以南)圏がもっとも高く、スラム住民比率は61.7%にも達する。インドなどの南アジア諸国もスラム住民比率は35%と高い。(※4)ここでは、開発途上国にあるスラムの現状を、国別に解説しよう。
東アフリカの国・ケニアの首都ナイロビにあるキベラスラムは、アフリカ最大のスラムだ。正確な人口統計はないが、約4平方キロメートル以上の広さをもつスラムに50万人から100万人以上が暮らしているとされる。
ここでは下水設備や衛生設備の不足、貧困によって十分な医療サービスが受けられないこと、過重労働などによって30代や40代など若くして亡くなるケースも少ない。孤児となった子どもたちは、児童労働・虐待のターゲットにされるケースも多い。また教育の機会が限られており、経済的な理由から学校に通えない子どもが多くいる。
インド・ムンバイの中心部に位置する「ダラビ」は、アジア最大のスラムといわれている。2〜3km²という狭い土地に70~100万人の貧困層が暮らしており、人口密度が非常に高い。住居は簡素で、トイレや下水施設が不十分。衛生状態もよいとはいえない。
ただし、ダラビはほかのスラムとくらべて経済活動が活発である。住民の多くは陶器・革・繊維製品などの製造業や自営業に従事している。その年間取り引き規模は数千億円と言われ、こうした経済活動の活発さや交通の利便のよさといった立地に政府が注目し、再開発の計画が浮上している。しかしダラビの住民はいまの生活を守りたいことから、ハンガーストライキを起こすなど、反対の意思を示している。
ブラジルでは、スラムのことを「ファヴェーラ」と呼ぶ。ブラジル第二の都市であるリオデジャネイロにも約1000カ所のファヴェーラがあり、人口の2割に当たる160万人が暮らしている。(※3)リオデジャネイロ南西部にあるファヴェーラは、約2.1km²の土地に市民の4人に1人が暮らしており、ブラジルでもっともも人口密度が高い場所だ。
ファヴェーラが生まれた理由は、経済発展により家賃が高騰したことにある。住民のほとんどが働いているものの、収入源は不安定で、高い家賃が払えなくなった人たちが移り住んだ。リオのファヴェーラは、基本的なインフラが不足していることや、犯罪率が高く治安が悪いことなどにより、住民の生活環境は安定していない。
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スラムがあるのは、開発途上国だけではない。以下のような先進国にも存在する。
スペインの首都マドリードの郊外にある「カニャダ・レアル」は、ヨーロッパ最大級のスラムだ。6つのセクターにわかれており、各セクターに数字がつけられているが、その数字が大きくなるほど危険度が増す。カニャダ・レアルの住民は、不法占拠を続けていることから公共サービスが受けられず、生活環境は悪化するばかりだ。とくにセクター6は薬物中毒者の温床となっており、暴力事件や犯罪が多発する無法地帯となっている。
アメリカ・ミシガン州のデトロイトにも、スラムが存在する。デトロイトはかつては自動車産業の中心地として栄えたが、本社を構えるゼネラル・モーターズの破綻とともに街も廃れ、1兆8000億円もの負債を抱えて財政破綻した。(※5)その結果、街がスラム化。一時期はデトロイトに住む者の3割以上が貧困層とされており、殺人事件の発生率は全米平均の約9倍で、治安の悪さが目立つ。現在は復興が進んでおり、若者達によるパブリックアートや音楽が盛んとなり、米国内でも注目度が高まってきている。
イギリス・ロンドン東部にあるイーストエンドには、かつては貧困層や移民層によるスラムが形成されていたが、現在では都市再開発が進み、変貌を遂げている。しかし一部地域では依然としてイギリスの貧困層が暮らし、教育や医療への制限、社会的排除などが見られる。
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最後に、スラム解決に向け、どのような取り組みがあるのか紹介しよう。
スラムにある多くの住居は、トタン張りや廃材を組み合わせた簡素なものである。そういった住居は、火事や地震、台風や豪雨といった災害時に破損や被害のリスクが高い。
そうしたスラムの住居を支援する取り組みを行っているのが、国際NGO「ハビタット・フォー・ヒューマニティ」だ。ハビタット・フォー・ヒューマニティでは、家の建築支援に加え、衛生設備の設置支援や建築技術の普及、災害に強いコミュニティづくりなど、住まいの改善・確保、コミュニティ全体の発展を目指した支援に取り組んでいる。(※6)
スラム住民の就労支援も、スラム解決のひとつだ。就労支援には、技術や職業スキルを身につける「職業訓練」、自営業や小規模ビジネスを開業するための「起業支援」、つくった製品を海外に向けて販売する取り組みなどがある。
多くのNGO団体が、スラムにおける子どもたちに教育支援をしている。教育支援には、学校の建設、先生の派遣、教育の質の向上、職業教育、奨学金の支援などがある。こうした教育の機会を増やすことで、貧困からの脱却、就労機会の拡大やキャリア進展につながる。
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スラムは、経済的貧困や社会的排除などによって形成される。解決するには、経済的支援や都市計画の改善、社会的な包摂政策、インフラの整備など、多方面からのアプローチが必要だ。私たちにできることは、スラムへの支援に取り組む団体への寄付などである。スラム解決へ向けて、できることからはじめよう。
※1 都市に生きる子どもたち|ユニセフ
※2 世界の就学状況報告書発表|ユニセフ
※3 太陽光発電で貧困から抜け出せ ブラジルのスラム街「ファベーラ」|NHK
※4 進む都市化とHabitat3|三菱総合研究所
※5 デトロイト財政破綻〜自動車の街 崩壊と再生〜|NHK
※6 ハビタットとは|ハビタット・フォー・ヒューマニティ
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