南北問題とはどんな問題なのか?歴史や背景、解決に向けた動きをわかりやすく解説

灰色の空の下の黒いオイル工場

Photo by Andrew Stutesman on unsplash

国際社会が解決しなければならない課題の一つ「南北問題」、すなわち経済格差がある。もともとは、先進諸国と発展(開発)途上国の間の問題だったが、現在では、発展途上国内の資源保有国と非資源保有国の間で、新たな格差が生まれている。格差の原因が生まれた歴史背景、現状と対策をウォッチする。

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2023.09.25
SOCIETY
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エシカルマーケティングとは? メリットや実例をわかりやすく紹介

南北問題とは

野外に座っている黒人ファミリー

Photo by Roman Nguyen on unsplash

南北問題(North–South divide)とは、主に北半球に位置する先進国と南半球に位置する発展途上国(開発途上国、途上国などとも呼ばれる)の間にある一連の問題を指すキーワードだ。

先進国と発展途上国の間にある経済格差だけでなく、そこから生まれる貧困や教育、政治など、さまざまな問題が複雑に絡み合っている。

南北問題はいまに始まったことではなく、解消するどころか、深刻さを増している。さらに「南南問題」と呼ばれる発展途上国同士の間で生じる経済格差や、地球環境問題など、新しい課題も増え続けているのが現状だ。

南南問題とは

南南問題(South–South divide)とは、南北問題において「南」といわれる発展途上国のなかに生じてきた、「南北問題」とは違う新たな経済格差の問題。

例えば、アフリカやアジアの一部の国々が経済的に発展し、ほかの途上国が取り残される形で経済格差が広がっているような状況を指す。

「南北問題」と「南南問題」は異なる概念であり、それぞれ独自の背景や解決策を持っている。

南北問題の歴史

丸い金色のコインロット

Photo by rupixen.com on unsplash

地図上で見た際に、発展途上国は南側、先進国は北側に多く位置していることから「南北問題」と呼ばれる経済格差の問題だが、実際に先進国と呼ばれる欧米などは北の方に位置し、アジアやアフリカ・南米などの発展途上国は南に位置している。

格差はどのようにして、生まれてきたのだろうか。歴史を振り返ってみよう。

1960年代:南北問題が顕著に

産業革命時代、安価で原料や燃料を輸出する国と、それを加工・販売し大きな利益を得る国で経済格差が生まれたのが、南北問題の始まりとされる。イギリスのロイド銀行会長であったオリバー・フランクス(Oliver Shewell Franks, Baron Franks)氏が「南北問題」という言葉を使いはじめ、関心を向けるべきだと発言した。

それまでの国際社会で問題視されていたのは「東西問題」(第二次世界大戦後に起こったソ連を中心とした東側社会主義国と、アメリカを中心とした西側資本主義国による「東西冷戦」のこと)だったが、1960年代に石油輸出国機構の成立をはじめ、南北問題に対する対策が世界的に起こりはじめる。

1970年代:第一次オイルショック

1973年に起きたオイルショックにより、原油価格が世界経済への大きな影響を与えることが証明され、天然資源を豊富に持つ発展途上国(産油国)の力が強まり、国際的地位が上昇。

また、金属や天然ゴムなど石油以外の資源輸出国も、国際的地位を上げることに成功し、先進国の支配下から抜け出す動きが活発化した。これが「南南問題」の始まりである。

1980年代:南北問題から南南問題へ

1980年代に入ると、人件費の安さと工業技術力の発展をもとに経済成長をする国がアジアを中心に現れ始めた。

アフリカやアジアの一部の国々が経済的に成功する一方で、政治不安や資源に乏しい途上国は、経済成長ができず、取り残される形で経済格差が見る見るうちに広がった。

南北問題の背景

緑色の椅子に座っている女の子

Photo by Ben Richardson on unsplash

人口爆発

南北問題の背景には、急激な人口増加がある。近年、発展途上国の人口増加が先進国を上回っている。これに経済成長が追い付いていないため、結果として貧困者数が増え、慢性的な食糧不足や飢餓、感染症に陥り、負のループが続いていく。

経済格差

先進国による植民地支配により、特定の原料や食糧、農作物などに偏った生産を強いられていること、コメや小麦、綿花や原油などの一次産品の生産や輸出への依存(モノカルチャー経済)は、天候や自然災害の影響も受けやすく、安定した利益を得ることができないことから、経済格差を大きくしている原因といえる。

世界人口の8割を発展途上国が占めるといわれる昨今、発展途上国と先進国の間に存在する一人当りの所得水準の格差は、拡大傾向にある。一人当りの伸び率でみると、先進国の平均3.6%をはるかに下回り2.4%にとどまっている。(※1)

紛争や内戦

紛争や内戦は、南北問題の原因として重大だ。

例えば、スーダンでは1955年から1972年まで続いた「南北スーダン内戦」や、2003年に勃発した「ダルフール紛争」が起きている。多くの犠牲者が出る紛争や内戦によって、安定した社会づくりが阻まれ続けている。(※2)

南北問題の解決に向けた動き

路上で髪を洗う男性の後ろ姿

Photo by Monthaye on unsplash

正当な貿易の実施

世界貿易の歴史に目を向けてみると、発展途上国にとって不利な貿易ルールが定められていたことが、経済発展を妨げた要因とも言える。

先進国と発展途上国の間で行われる貿易が、互いに公平で均等な条件の下で行われること、例えば商品を買う側の先進国の企業が一方的に低い価格で取引することを避け、生産者の労働環境や労働条件が配慮されるようにすることや、環境への負荷を最小限に抑えるために、持続可能な農業や生産方法が採用されることが世界の共通認識となってきた。

フェアトレード(Fair Trade)は、公正な貿易を実現するための取り組みの一つ。

フェアトレードとは 仕組み・基準・認証をわかりやすく解説

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インフラの整備

十分な交通インフラが整備されておらず、学校へ通えない、金銭的に貧しく必要な教育を受けられない子どもたちが多くいる。インフラ整備のために資金を捻出することが困難な発展途上国を、先進国が積極的に援助していかなければならない。

世界のインターネット普及率は、2020年の段階で先進国は80%であるにもかかわらず、発展途上国はわずか15%だ。情報へのアクセスが乏しいことで、発展途上国と先進国の情報格差も、ますます広がりを見せている。

寄付や募金の実施

日本は、発展途上国に開発に必要な資金を貸し付ける有償資金協力や、返済の義務がない無償資金協力、専門家や青年海外協力隊などのボランティアを派遣し技術協力も数多く実施している。

近年では、アジア太平洋経済協力(APEC)や東南アジア諸国連合(ASEAN)と連携し、アジアに対する国際協力を一層強化。

また、アジアだけでなく、アフリカ開発会議(TICAD)や太平洋・島サミット(PALM)などを主導することにより、アフリカ地域や太平洋島嶼国地域(〈とうしょ〉小さな島で国土が構成され、人口が少なく、自然災害が起こりやすいエリア)との協力関係も強化し、積極的に発展途上国の開発に取り組んでいる。

政府の取り組みだけでは手が届かない部分を、自治体やNGO、企業が支援を行っている。

南北問題とSDGs

ごみだらけのビーチに立つ子どもたち

Photo by Abdulai Sayni on unsplash

世界各国が共通の目標を掲げる、SDGs。目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」における具体的なターゲットの中では、南北問題を解決するための以下のようなターゲットが明記され、いまもなお取り組みが行われている。

17.2

先進国は、開発途上国に対するODAをGNI比0.7%に、後発開発途上国(※3)に対するODAをGNI比0.15~0.20%にするという目標を達成するとの多くの国によるコミットメントを含むODAに係るコミットメントを完全に実施する。ODA供与国が、少なくともGNI比0.20%のODA(※4)を後発開発途上国に供与するという目標の設定を検討することを奨励する。

(※3)後発開発途上国とは、発展途上国の中でも特に経済発展が遅れている国のこと。
(※4)ODA(Official Development Assistance〈政府開発援助〉)

17.9

全ての持続可能な開発目標を実施するための国家計画を支援するべく、南北協力、南南協力及び三角協力などを通じて、開発途上国における効果的かつ的をしぼった能力構築の実施に対する国際的な支援を強化する。

17.11

開発途上国による輸出を大幅に増加させ、特に2020年までに世界の輸出に占める後発開発途上国のシェアを倍増させる。

発展途上国の経済発展が南北問題のカギ

大きな白い袋をかついで歩く少年たち

Photo by Dulana Kodithuwakku on unsplash

発展途上国と先進国が一体となり相互協力することで、南北問題を解決していくことが重要だが、途上国の経済発展なしに、2030年までにSDGsを達成することは難しい。

発展途上国が貧困から抜け出せるように支援する人々や団体が、これからも活動を継続して行うには、資金や人材がまだまだ足りていないという。

ひとりひとりの小さな支援も、さらに重要視されていくことだろう。

※掲載している情報は、2023年9月25日時点のものです。

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