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さまざまな観点から話題となっている「ジェンダーレストイレ(ジェンダーフリートイレ)」。このジェンダーレストイレとはどういうものなのか、現状と事例、メリットとデメリットを解説する。
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ジェンダーレストイレは、男性・女性といった性別に関係なく、どのような性別でも利用できるトイレのことを指す。LGBTQ+の人々はもちろん異性介助者、父親と幼い娘なども気兼ねなく利用できるように配慮されている。なお「ジェンダーフリートイレ」「オールジェンダートイレ」などとも呼ばれる。
「ユニセックストイレ」とは男女兼用トイレであり、利用者の性別を問わないトイレのことを指す。ジェンダーレストイレとの違いはない。
厚生労働省が行った「トランスジェンダーへの対応」の実施状況に関する企業アンケート調査によると、「トランスジェンダーへの配慮を意図した誰でも利用できるトイレの設置」を行っている割合は、全体の24.8%だった。(※1)
東京都内では、渋谷区の幡ヶ谷公衆トイレやJR恵比寿駅西口公衆トイレ、品川区大井町駅前公衆トイレなどが「男女共有トイレ」となっている。また山梨県にある中村キース・ヘリング美術館にも、全個室のオールジェンダートイレが設置されている。ほかの自治体でも少しずつではあるが、導入・設置が増えつつある。
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日本に設置されているジェンダーレストイレ、オールジェンダートイレの事例を紹介しよう。
鳥取大学は、キャンパス内の2か所に誰でも利用できるオールジェンダートイレを設置している。LGBTの理解を深めるセミナーを毎年開催しており、参加者からの「性別を区別しないトイレ(全個室)がほしい」という声に応えたかたちだ。特徴は車椅子のまま利用できることや、オストメイト、ベビーシート、フィッティングボード、介助用ベッドなどが備わっていることだ。これにより性別を含めたバリアフリートイレとして機能している。
MEGAドン・キホーテ渋谷本店には、性の多様性を認める取り組みとしてオールジェンダートイレが設置されている。このトイレは3つの個室すべてがオールジェンダートイレになっているのが特徴だ。オールジェンダートイレのほかに、男性用、女性用、多目的トイレもあり、利用者が選べる。
成田空港の第1ターミナルビル1階の到着ロビーには、オールジェンダートイレが設置されている。このトイレは、異性介助の方などの利用に対応するためつくられたという。成田空港のオールジェンダートイレは、同伴者と利用者の視線を遮るため、固定椅子と対角線上にある便器の間を仕切るカーテンが設置されているのが特徴だ。
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海外でのジェンダーレストイレの事例を見てみよう。
アメリカでは、カリフォルニア州やフィラデルフィア州、ワシントン州、ワシントンDC、テキサス州、ニューヨーク市などの公共の場で、性別にかかわらず利用できる「オールジェンダートイレ」が主流となりつつある。トイレのサインは、「All Gender」(すべての性)、「Gender Neutral」(性的に中立、性別不問)などとなっている。
ヨーロッパ全体で、大学、公共交通機関のターミナル駅、病院、カフェ、ナイトクラブなどでオールジェンダートイレの設置が増えている。なかでもスウェーデンでは、オールジェンダートイレがスタンダードだ。またスイスのチューリッヒ市やルツェルン市にでは、市内の公立校や学校で全性別用トイレ(性別に関係なく利用できるトイレ)の設置が順次進められている。
台湾では、学校や公共施設にオールジェンダートイレの設置が増えている。なかでも台北市では、小学校・中学校・高校の半数以上で導入されているという。
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ここからは、ジェンダーレストイレのメリットを紹介しよう。
LGBTQ+の人が公共トイレを使う場合、周囲からの視線や違和感が気になり、性別でわけられたトイレを使うことに抵抗が生まれることがあるだろう。そういう人は多目的トイレを利用することが多いが、ジェンダーレストイレがあれば安心してトイレを使うことができる。
ジェンダーレストイレと似ているものに、多目的トイレや多機能トイレがある。これらは誰でも使えるが、多目的トイレは設置数が少なく、体の不自由な方や高齢者、子連れの方が利用するため混むことも多い。ジェンダーレストイレならLGBTQ+の方も安心して使え、多目的トイレの混雑緩和にもつながるのがメリットだ。
ジェンダーレストイレは、LGBTQ+の人たちはもちろんだが、介助が必要な人にもメリットがある。たとえば女性の介助者が介助を必要とする男性をトイレに連れていく場面や、父親が幼い娘をトイレに連れていく場面などにおいては、トイレを使いやすく感じ、気兼ねせず利用できる。
ジェンダーレストイレにはメリットがある一方、次のようなデメリットもある。
ジェンダーレストイレは、性の多様性を認める認めないに関係なく、男女がトイレを共有することに不安を感じる人がいるのも事実だ。まだ新しい概念であり、馴染みがなく、抵抗感をもつ人も多いだろう。プライバシーが守られにくいのは、ジェンダーレストイレのデメリットだ。
多くのジェンダーレストイレは、入口や手洗いスペースは男女共用になっている。そのため、悪用されて性犯罪の温床となったり、盗撮被害が起きたりといったことが懸念される。よって個室の整備や、スマートフォンの利用規制といった対策が必要となる。
ジェンダーレストイレを設置する場合、男性用と女性用のトイレを別々に設けるよりも広いスペースが必要となるケースが多い。また、すでにあるトイレをジェンダーレストイレにする場合は、工事や設備コストがかかる。
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2023年4月、東京・新宿に開業した高層複合施設「東急歌舞伎町タワー」の2階に、性別に関係なく使える「ジェンダーレストイレ」の個室8室、女性用2室、男性用2室、多目的トイレ1室がコの字形に並んで設置された。ジェンダーレストイレが設置されたことでかなり話題となったが、「性犯罪の温床になってしまう」、「安心してトイレを使えない」という批判や抗議により、わずか4か月で改修されることとなった。
この騒動から、ジェンダーレストイレの課題が見えてくる。大きな課題としては、多様性への配慮だ。1つの空間にさまざまなトイレを設置したことで、どの性別の人も使いづらくなってしまったのである。
また、ジェンダーレストイレで犯罪が起きないようにする工夫も必要だ。たとえば入口をわかりやすく分ける、各トイレへの動線を分けるなどして、誰でも安心して快適に使えるトイレにしなければならない。
ジェンダーレストイレは、性別にとらわれることなく誰もが気兼ねなく利用できるよう設計されており、LGBTQ+コミュニティをはじめ、多様なニーズを持つ人々に対応する重要な施設だ。
しかし、プライバシーの懸念や安全性の問題など、いくつかの課題も抱えている。もっと快適で安全に、そして公平に利用できるよう、設計と運用の面でさらなる工夫が求められている。
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