“ゼロウェイスト”という言葉自体がまだ聞きなれない2014年、ごみ箱のないレストラン「SILO(サイロ)」は英国ブライトンにオープンした。今や世界各国で廃棄ゼロに取り組むレストランやカフェに影響を与え、ミシュランのグリーンスターにも選出。19年に移転した東ロンドンのハックニー・ウィックにあるレストランは連日多くの人々で賑わう。「サイロ」はどのようにして成功を収め、今もなお注目を集め続けるのか。創業者のダグラス・マックマスター氏に聞く。
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サイロがある東ロンドンのハックニー・ウィックはクリエイティブなエネルギーが溢れるエリア。
サイロは「ごみ箱のないレストラン」をコンセプトに、食料システムから廃棄物をなくすために逆算して運営している。メニューはすべて、食材をそのままの形で調理し、過剰な加工や輸送を省き、完全性を保つようにしているという。提供するパンは古代種の小麦とオーツ麦を自家製粉し、自らかく乳して自家製バターを製造している。
発酵、アップサイクル、コンポスト、リサイクルすることで廃棄物を極限まで削減している。例えば発酵は、地下の発酵室で野菜の切り落としやチーズの皮、余分な乳製品などの「廃棄物」に塩を加えて発酵させて、調味料として活用する。
発酵室の様子。料理の端切れに塩を加えて発酵させて調味料にしている。
それでも廃棄物をゼロにすることはできていない。いずれの方法もかなわなかった0.1%の廃棄物を「外来廃棄物」と呼び、100%保管しているという。だが、驚くのは18ヶ月分の外来廃棄物が、わずか10cm四方のブロックに凝縮されているという点だ。
彼らが目指すのは、おいしい料理を提供すると同時に、持続可能なフード・ビジネスが経済的にも持続可能であることを示すことにある。
「Silo(サイロ)」創業者のダグラス・マックマスター氏。
——友人でアーティストのヨースト・バッカーからの「ごみ箱のないレストランは実現可能か?」という問いがきっかけで「ゼロウェイストレストラン」というコンセプトが生まれたと聞きます。前例がない中で、どのように開店までこぎつけたのでしょうか。
レストランを開くことはずっと夢見ていたことでした。けれど、有害な産業で働くことをどう是正していくか、自分自身を納得させる必要がありました。厨房で働く多くの同僚たちが精神的にきつい時間を過ごしているのを目の当たりにして、私は、創造性が発揮できて、誰もが透明性、積極性、信頼性を実践できる安全な空間をつくりたいと考えました。
サイロのコンセプトは、天才的な頭脳を持つ(アーティストで友人の)ヨースト・バッカーがメルボルンでポップアップ・プロジェクトに取り組む過程で生まれました。幸運にも、私はそのポップアップで働く機会に恵まれ、ごみ箱を設けず仕事する方法を自由に試すことができました。そこで過ごした時間が、今日のサイロの礎となりました。
コース料理のラストに提供されるアイスクリームサンドイッチ。
——もっとも苦労した点は?
もっとも難しいのは、過飽和状態にあり、競争が激しい高級レストラン業界で生き残ることでしょう。「ごみ箱なし」はデザインの一つに過ぎません。それ以上に提供する料理の一口一口がおいしくなるように工夫することに骨を折りました。そして現在、おいしい料理を提供できていることが、サイロ成功の鍵になりました。
最終的には、廃棄物ゼロで調理することが経済的に可能で、さらにはこの方法で飲食業界で成功できることを証明する必要があります。
——レストランに納品される食材はすべて、木箱、ペール缶、骨壷など、再利用可能で返却可能な容器に入っているそうですね。また、環境再生型農業に取り組むところも多いと聞きます。調達先はどのように見つけましたか?
私たちの理念を共有し、信頼できる適切な取引先を見つけるにはとても時間がかかりました。再利用できて返品可能な容器で配送するサプライヤーを見つけるのは簡単ではく、本当に苦労しました。
例えば、私の大好物のマッシュルームは、過去に依頼したことがあるサプライヤーのほとんどが中国から仕入れていました。そんなとき、ロンドンのファーマーズ・マーケットで偶然出会った家族が、北ロンドンで、エキゾチックで素晴らしいマッシュルームを育てるプラットフォーム「メリット・マッシュルーム」の開発者でした。彼らは、いま我々のメニューにもある舞茸料理のヒーローです。
取引先のもっとも重要な条件は、再生可能であること、再利用可能な包装を使用していること、第三者の宅配業者を使わずに直接私たちに配送してくれることです。ウェールズ産の海藻を調達する場合を除き、99%はこの条件をクリアしています。
——メニューはどのようにして決めていますか?廃棄ゼロの調理法の工夫を教えてください。
私たちが手がける料理はどれも、何カ月にもおよぶ“実験”とテストの賜物です。例えば、「赤栗カボチャのカボチャマーマレードと自家製生クリーム添え」は、カボチャすべてを使い切り、“旨味たっぷりの爆弾”にする方法を何ヶ月もかけて考えました。味を試し、5つの異なる方法で調理していますが、その全工程をテストし、お客さまに喜んでいただける一皿に仕上げるまで、チーム全員で取り組みました。
——食べ残しの処理はどうしていますか?
ゲストの食べ残しは、レストランで出るごみのごくわずかで、約0.01%です。理由は各料理のポーションが大きすぎないようデザインしているからでしょう。私たちは、提供した料理をすべて食べてもらいたいと考えています。料理をおいしくすることで、ごみ箱から料理を守ることにもなる!残されたわずかな料理はコンポストしています。
——食品パッケージを再利用したテーブル、使用済みの醸造用穀物で育てた菌糸体からつくられた照明のシェード、粉砕したワインボトルからつくった食器類、コルクと羊毛を活用した床と天井など、再生可能素材や廃棄物を原料にしているが、とてもスタイリッシュです。内装のコンセプトやこだわった点を教えてください。
自然の影響を強く受けた、穏やかで自然でエレガントな空間にしたいと考えました。依頼したデザイン・スタジオNina+Coは、オーダーメイドのフィットアウトを提供してくれ、同時に私たちが求める持続可能性の要件をすべて満たしてくれました。
例えば床は、樹皮から採取された純粋な天然コルクでできており、木にダメージを与えることはありません。バーの前面には、リサイクルレザーを使用し、手作業で表面を仕上げています。照明器具からテーブル、壁のペンキ、ナプキンに至るまで、店内のデザインや仕上げのあらゆる面にサステナビリティの視点が取り入れられています。
——最後に今後のご計画を教えてください。
サイロのミッションとして次のステージに向けて、いくつかエキサイティングな計画がありますが、いまはまだ秘密です。
レストランを出るとすっかり夜に。外には食事やお酒を楽しむ多くの人々で賑わっていた。
2023年9月初旬にサイロを訪れて印象的だったことが4つある。
1つ目は客層だ。年齢層が若く、スタイリッシュな人々が多く、ある意味でおしゃれスポット化していた。提供するのはコース料理のみだが、読書をしながら1人でワインのペアリングとともに楽しむ若い女性の姿もあった。
価格はコース料理が65ポンド(約12,000円)、ワインのペアリングは59ポンド(約11,000円)、サービスチャージが13%。物価高や円安も相まって日本から訪れた私には高額だと感じた。にもかかわらず、ほぼ満席(希望の日時でネット予約できなかった)だった。
2つ目は働く人が生き生きとしている点。メニューの丁寧な説明に加え、「発酵室が気になればツアーできますよ」と提案してくれ、食後にシェフが案内してくれた。
3つ目は日本料理をインスピレーションにしている点。舞茸やししとう、山椒や味噌を多用した味付けが印象的だった。この傾向はロンドンやアムステルダムのビーガンやサステナビリティを打ち出すレストランのメニューでも同様に見られた。発酵室には「SHOYU」「MISO」と書かれたケースも。
4つ目はロケーション。店を構える東ロンドンのハックニー・ウィックはクリエイティブ産業が盛んなエリアで、近隣にはファッション企業や、プラスチックの代替素材開発に取り組む「ノットプラ」などのイノベーション企業が拠点を構える。かつてドッジーであった同エリアは、今やロンドンでもっともヒップなエリアの一つになっている。
執筆/廣田悠子 編集/佐藤まきこ(ELEMINIST編集部)
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