人間が「正しい行動」を「正しい」と分かっていても実践できない理由。 日本人の特徴的な国民性とは。

森の中で遊ぶ親子
Elements of Social Signs

ゴミの分別やマイバックの持参など、社会課題解決に繋がる行動。「正しい」と思っていても、実際の行動に移せている人はどれだけいるだろう。調査の結果、正しい行動を人々に促すためには、「正しさ」を訴えるだけでは不十分であることが見えた。「賛同」の意を「行動」に変えるために必要なものとは。

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エレミニスト編集部

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2023.11.18

日本の生活者は多様な「正しさ」を受け入れることは得意!一方で実践は…

環境問題、働き方、ジェンダー、地方創生、デジタルリテラシーなど、様々な社会課題に対して「正しいとされる行動」について、あなたはどの程度、賛同・実践しているだろうか。そう聞かれると、ギクリと多少の後ろめたい気持ちを抱く人も多いのでは。 

ゴミの分別、マイバッグやマイボトルの利用、育児休暇や有給休暇の取得推奨、同性婚やLGBTQの許容、寄付やボランティアの参加など、日本や海外5都市の生活者に対して30個の行動を例示して、実際に聞いてみると、興味深い結果が浮かび上がる。 

30個の行動に対して、それぞれやった方が良いと「賛同」する人の平均は、日本の生活者が最も高いのである。社会課題に対する様々な行動について「いいね!」と受け入れていく力が高いのだ。一方で、実際に自分が実践しているかと問われると、その実践率は海外5都市に比べて最も低いスコアとなる。

なぜ日本は、賛同して受け入れることはできる一方で、実践して行動に移していくことは苦手なのか?

 社会課題に対する30の行動について、実際に実践している人たちになぜ実践しているのか理由を聞いてみると、各国・各都市で行動する理由となるモチベーションが大きく異なっていることが分かった。日本では行動のモチベーションに「お得だから・やらないと損するから・やっている方がラクだから」という理由があがる。一方で例えばロサンゼルスでは「やらなければいけないという責任感があるから・やらないと非難されるから・みんながやっているから」という理由がモチベーションになっている。ロサンゼルスは日本と同様に、他都市に比べて「賛同」と「実践」の差が大きい都市であるにも関わらず、日本とも全く異なるモチベーションが実践理由となっているのだ。

森の中で花に触れる手

人や自然を傷つけないことを美徳とし、「楽・得」を感じることで行動にうつせる日本

日本では実際にどのような行動が、他海外5都市に比べて実践できているのだろうか。他都市と比べると「シャンプーなど詰め替え用の購入・ゴミの分別・マイバッグの利用・クールビズ」などの環境へ配慮した行動と、「SNSでの誹謗中傷・ジェンダー発言への配慮」など人を無闇に傷つけないよう配慮した行動が日本の特徴としてあがる。自然や人をできるだけ傷つけない行動を選択したいという意識が、少なからず日本で実践を促していく際のポイントとなることが分かる。 

特に「詰め替え・ゴミ分別・マイバッグ・クールビズ」などの環境配慮は、前述した「お得だから・やらないと損するから・やっている方がラクだから」というモチベーションも持てるという点で、日本に適した社会課題へのアプローチと言える。「誹謗中傷・ジェンダー発言への配慮」なども、人を傷つけることは結果として人間関係の問題を引き起こし、自分自身を苦しめるという因果応報・自業自得という視点でも日本らしい行動実践だと考えられる。

周囲への責任感を強く感じることで、弱者支援やクリーンエネルギー化が進むロサンゼルス

一方で「やらなければいけないという責任感・やらないと非難されるから・みんながやっているから」を行動のモチベーションとしているロサンゼルスでは、「ボランティア参加・寄付」などの弱者支援を意識した行動と、「EV保有・再エネ発電」などエネルギー視点で環境に配慮した行動について、他都市と比べて実践率が高く特徴となっている。 

「みんながやっているから・非難されるから」というモチベーションは、アメリカの主要都市であるロサンゼルスよりも、むしろ日本で言及されそうなモチベーションだと感じる方も多いのではないだろうか。 

ロサンゼルスは世界的にも人種・文化・宗教などの多様性が高い都市だからこそ、生活者の視点では自分がどのコミュニティに所属しているのか明確に意識していると言われている。幼い頃から各コミュニティでの文化を強く意識しているからこそ、責任感を持って周囲を大切に想いながら「ボランティア参加・寄付」などの行動が実践されていく。また、ロサンゼルスは山火事など気候変動による災害も近年急激に増加しており、個人個人がクリーンエネルギーへの変革の重要性を理解している。行政でも明確に目標と制度を設計して、生活者を巻き込んで対応を進めており、責任感が大きなモチベーションとなるロサンゼルスでは前向きに実践が進んでいると言える。

「やるべき」に加えて「やりたい」と「やらなきゃ」で人は動く

日本の事例からもロサンゼルスの事例からも分かることとして、社会課題への行動を促す際に「正しさ」を一様に規定した「べき論」だけでは人は動かないということだ。「お得・楽」などをモチベーションとする「やりたい」という気持ちや、「周囲への責任感」などをモチベーションとする「やらなきゃ」という気持ちが、人が行動する理由として重要になってくる。 

SIGNINGが発行する「Social Sign Report」では、「Public:やるべき公共善」と「Profit:やりたいと思える自己利益」と「Pressure:やらなきゃという外圧」という3つの因子を、人の行動を促していく際の重要指標として捉えている。 

例えば、諸外国に先んじて日本で普及が進んだクールビズでは、地球温暖化への対策という絶対的に「やるべき公共善」がありながらも、スーツやネクタイから解放されて楽になるという「やりたいと思える自己利益」や、政府や企業による強力な後押しによる「やらなきゃという外圧」が複合的に実践を促進したと考えられる。 

様々な社会課題への対応が急務となる中で、改めて一人一人の行動実践を進めていくためには、やるべきという正論だけでなく、楽しく、やりたいと思える利益や、気持ちよく、やらなきゃと背負える責任を設計することが重要となってくる。そして、元来、人や自然を大切に想い行動する文化が根付く日本でこそ、多様な正しさを、楽しく、気持ちよく、受け入れ実践にうつせる社会に変わっていけるチャンスが多くあるのではないだろうか。


Written by 花桐 博史  from
SIGNING Ltd. 編集/ELEMINIST編集部

<執筆者プロフィール>
2014年、博報堂に入社。人事部門で採用・配置異動・勤怠・評価設計などを経験。2017年からストラテジックプラナーに。2021年、SIGNINGに出向し現職。企業・商品・サービスのブランド・コミュニケーション戦略を立案。市場・ターゲットの分析、価値規定・コンセプト・メッセージの開発、メディア・コンテンツなどのアウトプットまで、幅広く横断。

※掲載している情報は、2023年11月18日時点のものです。

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