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単身女性の3人に1人が貧困状態ともいわれる現代、「貧困女子」という表現を目耳にする機会が増えてきた。現に、ドラマや漫画でも扱われている身近かつ深刻なテーマである。本記事では、貧困女子の特徴や貧困女子が生じる背景を解説。貧困女子について知るための書籍も紹介する。
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貧困女子とは、一般的に、貧困状態にある女性を指して使われる言葉である。コトバンクによると、「最低限の生活を営むこともできないほど経済的に困窮している女性を指す造語」。(※1)主に勤労世代の単身女性に対して使われているが、明確な定義があるわけではない。近年はドラマやニュースでも取り上げられ、社会問題として認知されはじめている。
貧困女子を理解するために、改めて貧困について知っておきたい。以下では、代表的な貧困の考え方を2つ紹介する。
絶対的貧困は、必要最低限の生活水準を維持できない状態。生活に最低限必要な食糧や必需品を購入できるだけの所得に達していない場合は、絶対的貧困に該当するだろう。
相対的貧困は、地域社会において大多数よりも貧しい状態。その国や地域の文化水準・生活水準と比較して考えられる。基本的な考え方としては、手取り収入を世帯人員で調整した等価可処分所得の中央値の半分に満たない状態を相対的貧困とする。日本における2021年の貧困線は127万円で、相対的貧困率は15.4%。(※2)日本の相対的貧困率は、先進国で最悪ともいわれている。
貧困女子が働いているにも関わらず貧困の状態に陥るのにはさまざまな理由がある。以下では、代表的な3つの理由を見ていこう。
女性は、結婚や出産、介護などの都合で、非正規雇用を選択する人が多い。子育てや介護と仕事を両立できる社会が整っているとはいいがたく、正規雇用を辞める選択をせざるを得ない人がいるのも事実である。
2022年の労働力調査では、役員を除く雇用者は5689万人。うち、正規雇用が3588万人、非正規雇用(パート・アルバイト・派遣社員・契約社員・嘱託職員)は2101万人だった。非正規雇用の内訳を見てみると、男性が669万人なのに対し、女性は1432万人。非正規雇用の女性の人数は男性の倍以上にのぼる。現職の雇用形態についた主な理由では、「自分の都合のよい時間に働きたいから」「家計の補助・学費等を得たいから」「家事・育児・介護等と両立しやすいから」の回答において、圧倒的に女性が多い。(※3)
また、正社員として働く機会がなく、非正規雇用で働いているケースを「不本意非正規雇用」という。2022年平均において、不本意非正規雇用者は非正規雇用労働者全体の10.3%を占める。(※4)貧困女子のみがそうとはいえないが、働きたくても働けない状況があるということを把握しておきたい。
非正規雇用労働者は、正規雇用労働者に比べて賃金が低くなりがちだ。厚生労働省の発表によると、正規雇用の一般労働者の平均賃金は時給ベースで1,976円。対して、非正規雇用の一般労働者の平均賃金は1,375円である。短時間労働を選択すると、賃金はもっと下がる。(※5)
賃金が低いほか、雇用が不安定なのも非正規雇用のデメリット。貧困女子が貧困に陥る事情には、雇用状況が大きく関わっている。
3組に1組が離婚しているといわれる現代だが、離婚後に子どもを引き取るのは圧倒的に女性が多い。日本においては、離婚後の親権の約9割が母親という事実があり、シングルマザーとして子どもを育てる女性は少なくない。とくに子どもが小さい場合は、子どもに充てる時間が長く必要。そのため、正規雇用として働くにはハードルが高い場合も多く、非正規雇用や時短勤務を選ぶ人が多いのが現状だ。
ひとり親家庭は、家庭としての収入が少ないことが多く、相対的貧困に陥る家庭もある。なかでも、夫の収入によって生計を立てていた家庭の場合、離婚後にシングルマザーとして再スタートする際に貧困状態に陥りやすいのが現状。そういった場合に、シングルマザーがいわゆる貧困女子となる。
貧困女子のリアルな状況を知るためには、彼女たちに丁寧に取材をして執筆された書籍を読むのもひとつの方法だ。以下では3冊を紹介する。
「貧困なんて他人事だと思ってた。」をキャッチコピーとするノンフィクション。東洋経済オンラインで1億5000万PVを突破した連載が書籍化されている。奨学金に苦しむ女子大生風俗嬢や明日の生活が見えない高学歴シングルマザーなど、貧困に喘ぐ女性たちを3年にわたって取材し集めたリアルな心の叫びが詰まっている。同書はドラマ化が決定しており、2023年11月から放送がスタートする。
裏社会・触法少年少女たちの生きる現場を中心とした取材活動を続けるルポライターが執筆を手がけた新書。貧困女子のなかでも、家族・地域・制度の3つの縁をなくし、売春や性風俗で日銭を稼ぐしかない女性を「最貧困女子」と表現し、彼女たちの苦しみや痛みを活写している。
「一億総活躍社会」のなかで、困難を抱えながらもがく女性たちについて書かれたルポタージュ。社会から働くことも、子どもを産み育てることも期待されているアラフォー・非正規・シングルの女性たちについて取材されている。貧困という社会課題に深く切り込む一冊。
以下では貧困女子を救済するための制度や支援について紹介する。貧困女子になる背景にはさまざまな事情があるため、以下だけで貧困状態を抜け出せるわけではないかもしれないが、解決への一歩になる可能性もある。ぜひおさえておきたい。
各種手当を活用し、生活の足しにすることで、苦しい状態を抜け出せるかもしれない。以下では、貧困女子が積極的に活用したい手当・制度をピックアップしている。
・児童扶養手当
離婚によるひとり親世帯、父または母と生計を同じくしていない児童が育成される家庭における、生活の安定と自立の促進に寄与するために支給される。支給対象者は、18歳に達する日以降の最初の3月31日までの児童の養育者。児童の人数や所得などにより金額は変動するが、全部支給の場合月額43,070円が支給される。
・ひとり親家庭における医療費助成制度
各自治体によって名称や細かな内容は異なるが、一定の所得未満の人を対象に医療費の助成が行われている。助成の対象者はひとり親家庭の母や父とその児童。申請し、認定されると医療証が発行される。
・住居確保給付金
離職や自営業の廃止、休業などにより経済的に困窮し、支援が必要な人に対して家賃相当額が支給される。住居を整えたうえで、就労支援も同時に行われる。支給期間は原則3ヵ月。状況によっては最長9ヵ月に延長される。
・失業手当
雇用保険における基本手当のこと。雇用保険の被保険者が離職し、失業の状態にある場合に受給できる。受給には要件があり、ハローワークにおいて求職の申し込みをする必要がある。受給期間や支給額は賃金や在職期間によって決められる。
・生活保護
生活に困窮している人に対して、健康で文化的な最低限度の生活を保証するために、保護費が支給される。世帯員全体の資産や能力、あらゆるものを活用した前提で最低限度の生活を維持できないことが要件。最低生活費は、厚生労働省が年齢や世帯人数によって定めている。
貧困層の増加を踏まえ、自立支援策を強化するために、2015年4月に生活困窮者自立支援法が施行された。そのなかで、生活保護に至っていない生活困窮者に対して「第2のセーフティネット」を全国に拡充すべく実施されているのが生活困窮者自立支援制度。居住確保支援・就労支援・緊急支援・家計再建支援・若者支援など、本人の状況に応じて支援を行う。
就労支援では、就労に一定期間を要する人に向けて自立のための訓練を実施。ほか、ハローワークと自治体による一体的な就労支援をはじめとする人的支援を行う。全国に窓口が設置されており、随時相談を受け付けている。(※6)
働いているにも関わらず生活に困窮する貧困女子。貧困状態に陥るのにはさまざまな要因があるが、貧困女子には女性ならではの事情も大きく関わっている。貧困女子は、決して他人事ではなく、もはや誰でも追い込まれる可能性がある。
持続可能な社会を実現するためにも、貧困女子を含めた貧困問題は早急に解決すべき問題だ。根深い課題だからこそ、まずは周囲に気を配ることからはじめたい。
参考
※1 貧困女子|コトバンク
※2 2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況 結果の概要 P14|厚生労働省
※3 労働力調査(詳細集計) 2022年(令和4年)平均 P1|総務省統計局
※4 「非正規雇用」の現状と課題 P4|厚生労働省
※5 「非正規雇用」の現状と課題 P5|厚生労働省
※6 生活困窮者自立支援法について P10|厚生労働省 社会・援護局地域福祉課 生活困窮者自立支援室
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