メルボルンにあるスーパー「CHEAPER BUY MILES」は、消費期限が近い・賞味期限切れの商品だけを集めて販売している。ほとんどが定価の半額以下、なかには9割近く値引きしている製品もあり、物価高騰が続くこの街になくてはならない存在だ。さらには、食品ロスにもひと役買っている。
夏目 円(なつめまどか)
美容ライター/エディター
オーストラリア在住。大学卒業後、出版社にて編集者を務めたのち独立。美容ライター・エディターとして20年以上のキャリアがあり、50歳を機にメルボルンに移住。現地でのナチュラルコスメ、ビュー…
"世界一住みやすい都市”と呼ばれる、オーストラリアの南東部にあるメルボルン。徒歩圏内にビーチがあり、美しい公園があちこちに整備され、トラムやバス、電車などの交通網もしっかりしている。しかし、世界的な物価高はこちらでも影響を受けており、日々の食費を切り詰めていかなければならないのが現状だ。
ちなみに、近所のスーパーでは、卵が12個8ドル(約770円)、トイレットペーパー8個入りが6ドル(約580円)、1.8L入りの液体洗剤が16ドル(約1,500円)というなかなか恐ろしい値段。
トラムは距離によって金額が異なる。ちなみに私が住むエリア(シティから6キロ圏)は2時間まで4.6ドル(約450円)、1日乗り放題9.2ドル(約890円)。シティ内のみ利用の場合は無料。
日本でも話題になったが、オーストラリアの最低賃金は日本のおよそ1.8倍で、アルバイトの最低賃金も約22ドル(約2,100円)と、たしかに高額である。しかし、月々の家賃や光熱費、通信費などの固定費も当然ながら高く、この賃金では生活していくのにかなりギリギリのラインだ。
もちろん私たちのような外国人だけでなく、地元住民にとっても物価高はかなり深刻な問題で、たびたびラジオのニュースでも取り上げられている。
メルボルンに3店舗あるスーパー「CHEAPER BUY MILES」。所狭しと商品が積まれている。どれも価格が大きく表示されているのもこの店舗の特長のひとつ。
そんななか、お財布にも地球にもやさしいスーパーマーケットを見つけた。「CHEAPER BUY MILES」は、消費期限が近い・賞味期限切れの商品だけを扱い、飲料、調味料、冷凍食品、菓子類などの食料品から、洗剤、シャンプー、歯磨き粉などの日用品まで、取り扱う種類はかなり豊富。1995年に誕生し、メルボルンに3店舗を構えている。
本来食べられるにも関わらず捨てられている食品。オーストラリアの現状が気になり調べてみると、食品ロスは年間760万トン、国民一人あたりに換算すると312㎏もの食品を廃棄しているそう。
ちなみに、日本の食品ロスは年間523万トン。国民一人あたりに換算すると、お茶碗約1杯分(約114g)というから、オーストラリアでは日本よりもさらに多くの食品ロスが生まれていることがわかる。
こうしたことから、政府として2030年までに食品廃棄物を半減させるという目標を掲げている。さまざまな取り組みのひとつにフードチェーンのあらゆる分野の組織を集めて、食品廃棄物の削減と生産向上の解決に向けての活動しているのだ。
客のほとんどがお目当ての商品を見つけると、カゴにどさどさと入れていく。
私が「CHEAPER BUY MILES」を訪れたのは平日の午前中。にもかかわらず、店内はほどよく混んでいた。客の年齢層は20代前半から70代と幅広く、国際色豊かなメルボルンだけあって人種もさまざま。みな、“掘り出し物”を見つけるかのように、目をキラキラ輝かせて商品を吟味する姿が印象的だ。
ふだんのスーパーとさほど変わりはないが、とにかく品数が多く、やや雑多に並んでいる印象。日本でいうところの、「ドン・キホーテ」のような感じ。隅々まで棚をのぞくと、どの商品もたしかに賞味期限がギリギリで、種類によって期限の幅はあるが1カ月から4カ月ほどで切れる商品が多い。
私のそばに、ニコニコしながら商品をのぞいている初老の夫婦がいたので、「よくいらっしゃるんですか?」と尋ねると、「週に1回ぐらいかしら。野菜とお肉以外はほとんどここで揃えているかしら」と返事をしてくれた。通りの向こうでは学生らしき20代の3人グループが韓国のインスタントラーメンをカゴいっぱいに入れている。
私も負けじと、賞味期限を見ながら紅茶、お菓子、洗剤、調味料など、こまごま購入。ほしかったナチュラルコスメブランドの石けんを見つけた時は、思わず頬がゆるんだほど。たしかに、このスーパーは宝さがしをするようでじつに面白い。気がつくと30分ほど店を物色していた。
お茶の種類が多いので見ているだけでも楽しい。1パック1ドル(約100円)という衝撃の値段に心が躍る。
レジでスタッフに「初めてきたけど、この店は最高だね」と伝えると、「そうでしょ、商品もどんどん仕入れているから、また来てね」と笑顔で返してくれた。
奥にいるスタッフは、裏のストックルームから新たに届いた商品をどんどん店内に運び込んでいた。これらすべての食品が捨てられるかも知れないと思うと、ぞっとする。
「CHEAPER BUY MILES」の仕入れは、オーストリア国内のサプライヤーから在庫をすべて前払いで引き取るという仕組みで、同店に販売したいサプライヤーからの問い合わせを随時Webサイトで受け付けている。消費期限が近い・賞味期限切れ商品を積極的に受け入れ、それを安く売り切るという方法で、廃棄する商品を削減しているようだ。
ちなみに、私が購入した商品は、すべて100%返金保証付き。消費者に対しても真摯に向き合っている姿勢に、ますます共感を覚えた。
今回の戦利品。ヴィーガンラーメンにナチュラルコスメ、調味料から洗剤までいろいろ。これだけ買っても20ドルしなかった。
家から近いスーパーももちろん使うが、月に1、2回は「CHEAPER BUY MILES」で宝探しをするのも悪くないと思う。ひとりひとりの「もったいない」と思う気持ちが、食品ロス削減へとつながることは周知の事実だし、たまの外食だって食べきれないときは持参のタッパーで持ち帰る。メルボルンに移住してから、そんなシンプルな大切さをますます強く思うようになっている。
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