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スポーツの祭典として親しまれるオリンピックだが、開催による地球環境への負荷が問題となっている。もはやオリンピックは環境への配慮なしには成り立たず、招致活動でも持続可能性が最重要テーマとされる。本記事では、オリンピックと環境問題の関係性や今後に向けた持続可能な取り組みを紹介する。
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1972年に札幌で開催された「第11回オリンピック冬季競技大会」は、オリンピックにおける環境負荷が注目されるひとつの契機となった。
同大会では、支笏洞爺国立公園内に位置する恵庭岳にアルペンスキー滑降競技のコースが新設されたが、国有林を伐採して会場を整備する計画に、自然保護団体が警鐘を鳴らしていた。大会終了後、植林により復元する約束のもと会場が設置され、大会組織委員会が復元を行ったのだ。
1976年には、「第12回オリンピック冬季競技大会」の開催予定地であったアメリカのデンバーが大会開催権を返上。経済的な問題のほか、環境保護団体からの抗議に対する解決策が見出せなかったことが一因とされている。
この後も、オリンピックを巡って、環境保全団体からの抵抗運動が続いた。1990年には、国際オリンピック委員会(IOC)の当時の会長・サマランチ氏が、オリンピックムーブメントに環境保全を加えると提唱。「スポーツと文化と環境」をオリンピックの3本柱として掲げ、受け身の体制ではなく積極的な環境保護に努めることを発表したのである。(※1)
1992年にバルセロナで開催された「第25回オリンピック競技大会」では、IOCや各国・地域のオリンピック委員会、選手たちが「地球への誓い(EarthPledge)」に署名した。オリンピックにおいて地球を保護することの公約であり、これが、オリンピックにおける環境対策のスタートとなった。(※2)
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オリンピックは4年に一度のスポーツの祭典だが、見方によれば、開催都市を世界的に知らしめる場でもある。オリンピックの評価によっては、開催国の国際的地位が高まることもあるだろう。また、雇用や観光客の増加による経済的なメリットも大きい。
一方で、開催国の負担が大きいのも事実である。オリンピックと環境問題は密接に関わっているため、開催国が直面する問題も少なくない。以下では、オリンピックが環境へ及ぼす影響についてひとつずつ見ていこう。
オリンピックと環境問題の歴史からもわかるように、開催に伴う施設建設時の自然破壊はもっとも深刻な問題といえるだろう。オリンピックの開催国に選出されると、競技施設や選手村の整備を行う必要がある。また、観光客を迎え入れるためのホテルの建設も必要だ。
歴史を振り返ってみても、オリンピックの施設を建設するために、森林が伐採されたり生態系が脅かされたりするケースはめずらしくないのだ。
オリンピックが開催されると国内外から多くの観光客が訪れる。数十万人規模の来場者による大量のごみの排出は、オリンピックの課題とされる。分別されずに捨てられることにより、資源循環の機会を逃すことも多いだろう。
2018年に開催された平昌オリンピック・パラリンピックにおいては、閉幕から2週間以上経っても五輪会場駐車場にごみが放置されていると報道された。リサイクル可能なごみに関しても放置されており、環境汚染への影響が懸念される事態となった。(※3)
オリンピック開催後に、建設された施設が活用されずに廃墟化する事例も発生している。巨額の費用や資源を投じて建設された施設が、オリンピックのためだけの一時的な施設として役目を終えているのである。
2016年のリオデジャネイロオリンピックでメイン会場として使用されたオリンピック・パークの競技施設は、その後ほとんど使われていない。それどころか、維持費を捻出できずに閉幕後半年で廃墟化。国の管理下にあるものの、荒廃の一途をたどるばかりだ。カヌー会場は閉鎖され、ゴルフ場には野生動物が住み着いているのが現状である。(※4)
2021年に開催された東京オリンピックでは、大会組織委員会が、約13万食の弁当が廃棄されたことを発表した。開会からの1ヵ月間の廃棄率は25%。食品のほか、医療用のガウンやマスクなどの物品も大量に処分されたことが明らかになった。(※5)
日本における食品ロス量は年間で約523万トン。毎日人口1人当たり、おにぎり1個分の食品を捨てている計算だ。食品ロスは、もったいない以外にも、環境負荷や貧困問題ともつながっている。世界的にも深刻な課題であり、対策を急いでいる状況だ。(※6)
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2012年のロンドンオリンピックは、「オリンピック史上もっとも環境に配慮した大会」を目標に掲げて開催された。ロンドンオリンピック組織委員会は、2003年に招致を目指して以来、環境に関するさまざまな取り組みを行った。具体的には以下だ。
招致のためにまず行ったのが、オリンピック関連施設が集中する予定とされていたロンドン東部地区の土壌改善だった。同地区は、産業革命以来、工場やプラントが集中していたエリアであり、化学物質による土壌汚染が懸念されていた。オリンピックの開催に伴い、最新技術を用いた土壌の浄化が行われ、利用可能な土地へと戻ったのだ。
「ロンドングリーン・ビルド2012」は、大会準備にあたっての取り組みだ。ロンドンオリンピックにおいては、既存施設を最大限活用する方針で準備が進められた。
例えば、「バスケット・アリーナ」には、22時間かけてハンドボールコートへ変更可能な仕組みが採用された。(※7)競輪が開催された「ベロドローム」は、森林管理協議会に認証された木材や再利用可能な原料を使って建設された。自然換気による空調の実現や太陽光活用などの観点からも、大会のなかでもっとも持続可能性の高い会場といわれている。(※8)
廃棄物埋立処分ゼロを宣言したロンドンオリンピックでは、施設の解体・建設時に生じる廃棄物をほぼ100%リサイクル・再利用することに成功している。
ロンドンオリンピックでは、食品用容器に、堆肥化可能な素材であるバイオプラスチックが採用された。観客が出すごみのリサイクルの促進や生ごみのコンポスト化を推進し、ごみが廃棄されない仕組みづくりを徹底した。
国連環境計画は、「オリンピック史上もっとも環境に配慮した大会」を目指すロンドンの取り組みを賞賛。ロンドンオリンピックは、持続可能なオリンピックとしてのロールモデルになり得る大会として、幕を閉じた。
2024年7月から開催されるパリオリンピックに関して、フランス・パリのイダルゴ市長は、使い捨てプラスチックを禁止することを発表した。各競技場でプラスチック製ペットボトルの持ち込みを不可とする方針だ。
パリオリンピック・パラリンピックのスポンサーであるコカ・コーラは、再利用可能なガラス瓶の利用やソーダファウンテンの設置といった具体的な取り組みを予定している。
スポーツを通して世界がひとつになるオリンピック。さまざまな感動やスポーツマンシップに触れる場であり、歴史に名を残すドラマが生まれるイベントでもある。だからこそ、オリンピックの開催で、未来に負の遺産を残してはいけない。
オリンピックという祭典の一側面として、どんな環境問題が生じてきたのだろう。持続可能なオリンピックが当たり前になるこれからの時代、改めて考えてみよう。
※1 公益財団法人 日本オリンピック委員会|「スポーツと環境」これまでの歩み
※2 公益財団法人 日本オリンピック委員会|オリンピック大会組織委員会の環境保全活動
※3 産経新聞|平昌五輪「成功」の影でごみ問題に、女性蔑視発言…という指摘も
※4 笹川スポーツ財団|2016年リオオリンピック・パラリンピック廃墟化するレガシー
※5 NHK|東京五輪・パラ 報告書原案 弁当廃棄の食品ロス問題指摘
※6 政府広報オンライン|今日からできる!家庭でできる食品ロス削減
※7 公益財団法人 日本オリンピック委員会|バスケットボール・アリーナ
※8 公益財団法人 日本オリンピック委員会|ベロドローム
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