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クィアとは、性的マイノリティをより広く捉えた概念だ。昨今はLGBTに代わってLGBTQ+が使われることも増えてきたが、多様性への意識を高めるためにもクィアの理解が欠かせない。本記事ではクィアの概念について解説。似た言葉との違いや理解を深めるためのおすすめ作品も紹介する。
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クィアとは、英語の「Queer」に由来する言葉。「風変わりな」「不思議な」という意味を持つ。性的マイノリティの総称のひとつとして使われる「LGBTQ+」の「Q」にあたり、性的マイノリティといわれる人のすべてを意味する言葉である。かつては、同性愛者への蔑称として使われていたが、現在は、当事者が肯定的な意味で使うことが増えている。
性的マイノリティの総称として、これまでは広く「LGBT」という言葉が使われてきた。LGBTとは、Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、出生時に割り当てられた性と性自認が一致しない人)の頭文字を取った言葉であり、性的マイノリティの総称のひとつとして用いられることも多かった。しかし、性的マイノリティと一口にいってもさまざまであり、すべての人がLGBTのどれかに当てはまるわけではない。(※1)
クィアは、性的マイノリティをより広くとらえた概念であり、性の多様性を包括的に表現した言葉なのだ。「LGBTQ+」の「+(プラスアルファ)」という表現があるように、さまざまなセクシュアリティが存在する。性の形は多様であり、流動的である。
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性については、さまざまな言葉や定義が存在する。クィアと関連する言葉として、クエスチョニングやXジェンダー、ノンバイナリーなどが挙げられる。それぞれを理解するためには、違いについて知っておくことが大切だ。
以下で、それぞれの言葉の定義とともに、違いを見ていこう。
クエスチョニングは、「LGBTQ+」でいうとQにあたる。クィアと同じ「Q」を頭文字とする言葉としてしばしば同列に並べられるが、意味は異なる。
クエスチョニングは、自分の性別や性的指向を決められない人のこと。「自分の性がわからない」と迷ってる人もクエスチョニングといえるだろう。自身のセクシュアリティを定義しない理由はさまざまであり、あえてクエスチョニングの立場をとる人がいるのも特徴だ。
クィアは性的マイノリティを包括的にとらえる概念であり、クエスチョニングとは意味合いが異なるが、とらえ方によってはクエスチョニングもクィアに含まれる。また、自分らしさを大切にしている点では、近しい部分もあるだろう。
Xジェンダーとは、自らを男女どちらかの性に定義することに違和感を覚える人のこと。もう少し噛み砕くと、自身の性自認を「男性でも女性でもない」と感じている人である。近年、書類の性別欄に「その他」という選択肢が用意されることが増えてきた。「その他」の欄は、Xジェンダーの人専用に設けられているわけではないが、「男性」「女性」のどちらかに分類されることに抵抗がある人も少なくないのだ。
クィアはすべての性的マイノリティーを含む言葉なので、広義でとらえると、Xジェンダーも含まれることになる。ただ、細かなニュアンスは異なることを覚えておきたい。
また、Xジェンダーは日本独自の呼称といわれ、「第3の性(ノンバイナリー)」と似た言葉として扱われることも多い。
ノンバイナリーは、二者択一を意味する「バイナリー(binary)」を由来とする言葉であり、「男性」か「女性」かという枠組みにとらわれない考え方を指す。日本で使われるXジェンダーを英語で表現する場合に使われることが多い。
Xジェンダーの特徴とよく似ているが、性自認だけではなく、どの性として振る舞うのかという性表現に関しても、男女の枠を当てはめない点で異なっている。
ノンバイナリーは、Xジェンダー同様、クィアのなかに含まれるととらえることができる。
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ここまでは、クィアの定義やとらえ方について整理してきた。以下では、より理解を深めるための文学作品・映画作品を紹介する。
クィアな視点で選ばれた古典文学を集めた短編小説集。名だたる作家たちの作品8編が集約されている。クィアという言葉が浸透する以前に完成した作品を改めて振り返ることで、新たに得られる視点もあるだろう。
日本ではじめて訳されたジョージ・ムアの「アルバート・ノッブスの人生」や、アーサー・コナン・ドイルの「赤毛連盟」など、選び抜かれた珠玉の名作が収録されている。(※2)
1989年生まれのクィア作家、ブランドン・テイラーによる文学作品。原題は「Real Life」であり、名門大学の大学院に通う黒人のゲイの学生と周囲の人間模様を描いている。表向きはストレートの白人の同級生との出会いによって、揺れ動く感情や痛み、渇きがリアルに表現されている。セクシュアリティ・人種・階級・故郷・生きづらさなど、さまざまなテーマに触れられる作品だ。(※3)
世界的に権威のあるイギリスの文学賞「ブッカー賞」の最終候補作であることも話題の一冊。
2022年国際ブッカー賞にノミネートされた、韓国のベストセラー連作小説。大都会で繰り広げられる多様な愛の形を描いた一冊であり、ゲイである「俺」の愛や喪失について記されている。韓国で注目されるクィア文学を牽引するパク・サンヨンによる、話題の作品だ。(※4)
世界から注目される鬼才、グザヴィエ・ドランが23歳で発表した映画作品。「彼は、女になりたかった。彼は、彼女を愛したかった。」という切ないキャッチコピーがついたラブストーリーだ。
国語教師のロランスは、30歳の誕生日に恋人であるフレッドに「僕は女になりたい」と打ち明ける。フレッドは、これまでを否定されたような気持ちになりロランスを非難するが、最大の理解者として一緒に生きていくことを決意する。90年代の田舎町での、2人の10年にわたる愛を描いている。
恋人・フレッド役のスザンヌ・クレマンは、カンヌ映画祭ある視点部門で最優秀女優賞を受賞している。(※5)
2013年のカンヌ国際映画祭で初公開された、フランスの人気コミックが原作の映画作品。若い2人の女性同士の情熱的な恋愛模様を描いており、大胆な性描写が話題となった衝撃作だ。
高校生アデルは上級生男子とのデートに向かう途中に、すれ違った青い髪の美大生エマに心を奪われる。後日偶然再会したエマに惹かれ、アデルの感情は、友情から情熱的な愛情へと変化していく。求め合い、愛を育んだ2人だが、しだいに気持ちにすれ違いが生じはじめる。
同作品は、第66回カンヌ国際映画祭の最高賞パルム・ドールに輝いた。審査委員長のスティーヴン・スピルバーグによって、主演の2人にも最高賞が授与された異例の作品。(※6)
17歳と24歳の青年の、生涯忘れられない恋を描いた映画作品。1983年の北イタリアの避暑地が舞台のひと夏の物語であり、アカデミー賞で、作品賞・主演男優賞・脚色賞・歌曲賞の4部門にノミネートされた話題作である。
17歳のエリオは、家族に連れられて避暑地にやってきた。そこで、大学教授の父が招いた24歳の大学院生オリヴァーと出会う。同じときを過ごすうちに、エリオはオリヴァーに恋をして、2人は惹かれあうように。エリオの父が息子に語りかけるシーンは、同作のハイライトのひとつだ。(※7)
性のあり方は、もはや、男性、女性、LGBTという括りでは語れない。何かの定義に縛られるのではなく、多様性を尊重し合い、あらゆる人が自分らしくいられる社会が理想である。
クィアは、性的マイノリティにおいて、より多様性の意味合いが強い言葉といえる。包括的で少しふわっとしている概念だからこそ、何者でもないと悩む人の味方にもなり得るのではないだろうか。
性の多様性への意識が高まりつつある昨今、まずは知識を得て理解することが、よりよい未来を実現するためのはじまりだろう。
※1軽率な言葉で他者を傷つけないために 性の多様性をひもとく「クィア・スタディーズ」を知る |早稲田ウィークリー
※2クィア短編小説集 |平凡社
※3 クィアの人々の「リアルな生活」に、作家として言葉と物語を与えること──ブッカー賞最終候補作『その輝きを僕は知らない』解説(早稲田大学教授・佐久間由梨)|HAYAKAWA BOOKS & NAGAZINES
※4 となりの国のものがたり7 大都会の愛し方|亜紀書房
※5 STORY|映画『わたしはロランス』公式サイト
※6アデル、ブルーは熱い色|公式サイト
※7 STORY|映画『君の名前で僕を呼んで』公式サイト
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