ドイツが脱原発を達成 2035年までに再生可能エネルギーへの完全移行を目指す

ドイツが脱原発を達成

Photo by Arnold Middelkoop on Unsplash

ドイツで2023年4月15日、稼働していた最後の原発三基を停止し、脱原発を完了した。2035年までに再生可能エネルギーのみでの電力供給を目指すという。一方で、ロシアによるウクライナ侵攻によってエネルギー危機に悩まされるドイツでは、原発の即時解体には賛否両論の声が上がっている。

岡島真琴|Makoto Okajima

編集者・ライター・キュレーター

ドイツ在住。自分にも環境にも優しい暮らしを実践する友人たちの影響で、サステナブルとは何かを考え始める。編集者・ライター・キュレーターとして活動しつつ、リトルプレスSEA SONS PRE…

2023.04.24
LIFESTYLE
編集部オリジナル

わたしたちの買い物が未来をつくる|NOMAが「ソラルナオイル」を選ぶワケ

Promotion

ドイツで最後の原子炉3基を停止

ドイツが脱原発を達成

Photo by Lukáš Lehotský on Unsplash

2023年4月15日、ドイツで稼働していた原子炉3基が停止された。これにより、60年以上にわたって続いたドイツの原子力発電の歴史が幕を閉じた。2035年までに再生可能エネルギーのみによる電力供給を目指すという。

停止されたのは、ニーダーザクセン州にあるエムスラント原発、バイエルン州のイザール原発2号機、バーデン=ヴュルテンベルク州にあるネッカーヴェストハイム原発2号機。これらの3基は、それぞれ日付が変わる直前に稼働を停止した。

当初は2022年夏に脱原発を完了する予定だったが、ロシアによるウクライナ侵攻が勃発したことでエネルギー危機に瀕し、撤廃期限を延期していた。エネルギー危機の渦中での原発完全撤廃については、時期尚早なのではないかと賛否両論の声が上がっている。

東日本大震災を契機に脱原発へ転換したドイツ

ドイツでは長い間、原子力発電は論争の的となってきた。ドイツで反原発運動が高まったのは1970年代で、さまざまな環境団体が原子力発電所の新設に反対。技術的なリスクに加えて、核兵器との関連性を懸念する声もあったのだ。この運動は、現在の連立政権の一角を占める「緑の党」誕生の契機ともなった。

さらに1986年のチェルノブイリ原発事故では、放射能の雲がドイツの一部にも到達し、市民による原発反対運動をさらに高めることに。2000年、ドイツ政府は脱原発を公約に掲げて原発の閉鎖を開始したが、当時は原発推進派であったメルケル首相は、再生可能エネルギーへの移行をスムーズに行うための橋渡し技術として、2010年に原子力発電の稼働年数の延長を決定していた。

そんな時に起きたのが、2011年の東日本大震災と、それに伴う福島第一原発事故だった。事故の3日後、物理学研究者でもあった当時のメルケル首相は方針を180度転換。国内で30年以上稼働していた7基を即時停止し、国内の原子炉の緊急安全点検を開始。そして福島の事故から4カ月足らずで、2022年末までに原子力発電を完全廃止することを決めた。

カーボンロックインとは? その問題点や世界各国の取り組み

関連記事

エネルギー危機で割れる原発推進派と反対派

順調に脱原発を進めていたドイツだったが、2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻したことにより状況は一変する。ロシアからのエネルギー輸入に依存していたドイツはエネルギー危機に陥った。このため2022年12月末で最後の3基の原発を閉鎖する予定だったが、その停止期限を2023年4月15日までに延長した。

今回のドイツの完全な脱原発を受けて、賛否両論の声が聞かれている。というのもドイツ政府は、3つの原子力発電所が担っていた約6%分の電力供給を、再生可能エネルギーだけでなく、ガスや石炭でも代替する計画でいるのだ。

原子力発電は安全性のリスクを抱えており、燃料となるウランの採掘が製造工程ではCO2を排出するものの、原発の運転中にCO2を排出しない。その一方、石炭の火力発電ではCO2が排出される。そのため、原発を停止し再生可能エネルギーのほか、ガスや石炭で代替することは、環境負荷の大きい発電を増やすことになり、大きなジレンマを抱えているのだ。

ほかにも先の見えないエネルギー危機や世界情勢を鑑みて、原発を即時解体せずに、予備電力として保存しておくべきではないかという声も上がっている。また欧州連合(EU)では2022年、脱炭素化に貢献するグリーンな投資対象として、原子力発電を認めるなど、欧州全体でも足並みが揃っているとはいえないのが現状だ。

ドイツの脱原発は再生可能エネルギーへの転換の鍵となるか

ドイツが脱原発を達成

Photo by Karsten Würth on Unsplash

現在ドイツでは、もっとも環境負荷が大きいとされる石炭火力発電が30%以上を占めているが、遅くとも2038年までに石炭火力発電所を完全閉鎖することを目指している。また10年後までに80%を再生可能エネルギーでまかなうこと(昨年の時点では44%)を掲げており、今後ますます再生可能エネルギーの分野で投資が加速すると考えられている。

ほかにも放射性廃棄物の最終処理の問題や、欧州諸国との協調など、原発をめぐる課題はまだまだ山積みだ。

一方、日本に目を向けてみると、福島第一原発事故の後にすべての原発の稼働を停止。新たにつくられた規制にのっとり再稼働している原発は、現在10基ある。廃炉が決まっているのは24基だ。岸田首相は2022年8月、エネルギー危機を受けて、7基の原発について2023年夏以降に追加で再稼働を進める方針を示している。

だが、事故発生から12年がたった現在でも、周辺の町では居住率は3割ほどにとどまり、立ち入りが制限されている帰還困難区域も存在する。県外などに避難した人々もまだいることを忘れてはいけない。

ドイツにおける原発の停止がグリーンエネルギーへのさらなる推進の鍵となるのか、今後のドイツのエネルギー政策や、日本を含めた各国の行方に注目が集まる。

※掲載している情報は、2023年4月24日時点のものです。

    Read More

    Latest Articles

    ELEMINIST Recommends